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医師として働くにあたり、日本国内を飛び出して海外で働くことに興味がある方もいらっしゃるでしょう。海外で働くには、主に研究医、臨床医、あるいは国際協力機関に所属して活動するという、3つの働き方が考えられます。それぞれの働き方について解説します。
執筆者:Dr.SoS
研究医として働く
医師が海外で働くにあたって、最も一般的なパターンが研究留学です。講演会などで座長や演者をしている先生の経歴を見てみると、キャリアの途中で数年間海外の大学や研究機関への留学を経験している方がよくいらっしゃいますが、これが研究留学です。大学で教授や准教授など教官を務めている先生の多くは、研究留学を経験されています。
研究留学で多いのは、日本で医師免許を取得後、大学院へ進学して博士号を取得し、大学医局に籍を残したまま、海外で研究員(ポスドク)として働くという流れです。医局とつながりのある大学や研究所で受け入れてもらうことが一般的です。
研究員は、医師免許のような特別な資格が必要なわけではないため、給与の面では医師として働く場合よりも安くなりがちです。留学生活は、航空機代なども含めてなにかとお金が必要になりますから、この点を心配される方は多いでしょう。
そこで、さまざまな助成金制度が整備されています。筆者は国内の皮膚科で勤務していますが、基幹学会である日本皮膚科学会には留学支援制度があり、皮膚科学に関する研究や臨床を目的とする1年以上の留学であれば、応募できます。1件につき500万円を上限に助成が行われます。
診療科を問わず応募できる助成金制度もあります。複数の財団が、医師や研究者を対象に、留学の助成金や奨学金を提供しています。たとえば、武田科学振興財団は、医師(MD)で博士号(PhD)保持者または取得を目指す若手研究者を対象に、助成金を提供しています。上原記念生命科学財団は、「生命科学、特に健康の増進、疾病の予防および治療に関連する諸分野の研究」で博士号または同等以上の業績を有する若手研究者に対して、留学の助成金や支援金を用意しています。
留学支援|日本皮膚科学会
海外研究留学助成|武田科学振興財団
各種助成金について|上原記念生命科学財団
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臨床医として働く
臨床は医師の仕事の代表例であり、臨床医は最も想像しやすい働き方と言えるでしょう。臨床医として海外で働く場合は、原則としてその国の医師免許を取得する必要があります。
アメリカの場合
ここでは、代表的な勤務先の一つであるアメリカを取り上げましょう。アメリカで医師として働くには、「USMLE」と呼ばれるアメリカの医師国家試験(The United States Medical Licensing Examination®)に合格する必要があります。
USMLEは、基礎医学を中心とするSTEP1、臨床医学を中心とするSTEP2(CK)、総合知識と実践が問われるSTEP3に分かれており、アメリカで勤務するにはすべてのSTEPに合格する必要があります。
日本の医師国家試験と同様、筆記試験(選択式)が基本です。以前は日本のOSCEに該当する実技試験「STEP2 CS」もありましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で中止となり、現在は「OET」という試験に置き換わっています。OETは4セクション(聞く・読む・書く・話す)に分かれており、筆記で求められる読み書きの能力だけでなく、「聞く」「話す」能力も必要になっています。
USMLEの一部のSTEPは、医学生のうちに受験することもできます。日本で研修医として働き始めてから試験勉強をするのは大変ですから、アメリカで臨床医として働くことを目指している場合は早めに取り組む方が望ましいでしょう。
無事にUSMLEに合格した後は、マッチングを経て各病院で勤務することになります。マッチングは日本同様、就職面接に該当するものです。学業成績だけでなく、コミュニケーション能力などの総合的な力が測られます。
二国間協定が結ばれている国の場合
医師免許には互換制度があり、一部の国では日本の医師免許のみで勤務することが可能となっています。いずれも非常に限られた人数ではありますが、2023年末時点ではイギリス、フランス、シンガポール、ドイツなどとこの協定を結んでいます。
これらの国で医師として働くことに興味があれば、この制度の利用を目指すことも選択肢の一つでしょう。
国際協力機関に所属して働く
海外で医療を展開する団体として知名度が高いのは、国境なき医師団や国際協力機構(JICA)です。こうした組織に医師として所属し、海外で働く方法があります。日本の医師免許があれば良く、海外の医師免許を追加取得する必要はないのが特徴です。
国境なき医師団
国境なき医師団は非営利の医療・人道支援団体であり、紛争地域や自然災害の被災地などで、公平な立場で緊急医療援助を提供しています。
名前の通り、医師が重要な役割を果たす組織であり、さまざまな医師の参加が求められています。2023年12月現在は外科医、内科医、産婦人科医、整形外科医、麻酔科医、感染症専門医、再建外科医、熱傷専門医、疫学専門家など多様な専門医を募集しており、各種専門医資格に加えて英語またはフランス語で業務できることが応募の必須条件とされています。
日本で専門医資格を取得するには、2年間の臨床研修と3〜4年ほどの専門研修を積む必要がありますから、国境なき医師団で勤務できるようになるのは早くても30代前半くらいからになるでしょう。
国際協力機構(JICA)
国際協力機構(JICA)は、開発途上地域などの経済・社会の発展を目的に国際協力活動を行う独立行政法人です。国際緊急援助隊(JDR)が活動を展開しており、その医療チームの一員として医師の参加が求められています。
国際緊急援助隊は、主に途上国の災害救助を行っており、医療チームは被災者の診療や感染症予防のために活動します。また、2014年のエボラ出血熱への対策・支援をきっかけに、2015年に「感染症対策チーム」が発足しました。感染症に関する幅広い支援を行っています。
常時活動があるわけではなく、災害が生じチームの派遣が決定された際に、任務が発生します。派遣にあたっては事前の「仮登録」が必要で、下記のような条件を満たす必要があります(一部抜粋)。
- 実務経験5年以上(研修医期間を含む)、及び緊急医療活動に従事するにふさわしい専門技術を有している方(医師については医師免許、看護師については看護師免許あるいは准看護師免許、薬剤師については薬剤師免許を取得している方)
- 海外における最低限のコミュニケーション及び語学力(英検2級程度・TOEIC 540点相当の英語力を有することが望ましい。他言語も同程度を基準)をお持ちの方
- 事務局から派遣依頼があった場合には、所属先の同意を得て早急に出発することが可能な方(派遣決定から48時間以内に出発することを目標としています)
国際協力機構(JICA)webサイトより引用
https://www.jica.go.jp/activities/schemes/jdr/faq/join_med.html
実務経験5年だけであれば上述の国境なき医師団と同等の条件ですが、各種専門医資格が求められていないことから、専門分野に特化した医師よりもオールラウンドな医療が提供できる医師が求められているとも考えられます。
医師として海外で働くための準備
「海外で働きたい」という漠然とした憧れや希望だけで、目標を達成することはできません。目標を細分化し、それを少しずつ達成していくような計画性が求められます。
まずは、下記のような能力の習得が必要です。
- 高い語学力
- コミュニケーション能力
- 海外生活への適応力・柔軟性
語学力の中でも重要な英語力を測るには、TOEICやTOEFL、IELTSなどの試験を受験するのが良いでしょう。自分の現在のレベルを知ることができるほか、試験スコアが採用や助成基準に含まれる場合もあるため、語学力を客観的に示す上で役立ちます。
現時点で学生の方であれば、長期休暇を利用して海外を回る経験も、海外生活の予行演習として役立つかもしれません。
海外で働く日本人医師は、まだ決して多くないため、身近でロールモデルになるような人や、同じ目標を持つ人が見つからないことも多いでしょう。USMLEは比較的受験者が多く、インターネット上に合格者や受験希望者のコミュニティなどがあるため、そうした場で仲間を見つけ、ともに切磋琢磨することも良い刺激になるはずです。
まとめ
今回は医師として海外で働く方法について見てきました。最も一般的な研究医として働く方法であれば、日本の医師免許で勤務可能ですが、給与などの待遇面ではほかの働き方と比べて劣る傾向にあります。一方でその国の医師免許を取得して働く方法は、正攻法ではありますが、準備期間や求められる能力が高く、相応の努力が必要となります。
まずは、自分が海外でどのように働きたいのかを考え、それに合わせた計画を立てて実行していくことが大切です。この記事が海外で働くことを検討している医師の方のお役に立てば幸いです。
執筆者:Dr.SoS
皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。
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