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同じ医師免許をもつ身であっても、臨床医と研究医では業務内容やキャリア形成に大きな違いがあります。臨床医は医療機関での治療や病気の予防、研究医は教育機関での研究と論文発表が中心であり、平均年収にも差が生じます。
本記事では、研究医の種類と業務内容、また臨床医から研究医への転向や臨床研究医の養成制度についても解説します。
研究医とは
研究医は臨床医と異なる専門職であり、業務内容、キャリア形成、平均年収なども異なります。まずは業務内容、キャリア、平均年収について見てみましょう。
研究医の業務内容
研究医とは、大学や病院、研究機関などで主に医学研究に従事する医師のことです。臨床医と異なり、患者さまに対して医療行為を行うことは少なく、疾患の原因解明やより良い医療を提供するための研究に従事します。研究結果をもとに、論文の作成や学術誌への投稿、学会発表なども重要な業務となります。
研究医には、医療機関での診療もしながら研究も行う「臨床研究医」と、大学医学部や研究機関で人体や病気のメカニズムなどの基礎的な研究を行う「基礎研究医」の2つのタイプがあります(後述)。
研究医のキャリア
研究医は、医科大学に所属して研究と論文発表に時間を費やすことが多いですが、専門性を追求しつつ活躍できる場はほかにも数多くあります。たとえば、民間の製薬会社の研究員として創薬や化粧品開発に携わる、国家公務員となり厚生労働省技官として働く、法医学者として警察関連で働く、防衛医官となり防衛省に勤務する、などです。
最近は、事業を立ち上げて経営者としても活躍する研究医も増えています。
研究医の平均年収
研究医の平均年収は臨床医よりも低い傾向にあります。たとえば国立大学の教授の平均年収は1,000~1,100万円台で、これは厚生労働省が発表する医師の平均年収額とほぼ同額です。
若手研究医の収入はさらに低いことから、平日は基礎研究、夜間や休日はアルバイトに勤しんでいることも多いようです。
一方、臨床医の平均年収は、勤務医であれば医療機関の所在地、診療科、役職など職場環境の条件と、夜勤・当直の状況によって変動します。なお、勤務医の平均年収は1,596万円です(※)。開業医や美容医療など自由診療をメインに行う医師であれば、それ以上の年収が見込めるでしょう。
このような差が生まれる背景には、研究医はあくまでも研究者として教育機関に所属しながら医療の発展に貢献する身で、収入は二の次という考えが恒常化していることが関係しています。給与の低さや研究費獲得の難しさは以前から問題視されており、基礎研究に携わる研究医への待遇改善は本腰を入れて取り組むべき課題とされています。こうした事情から、高報酬や安定した雇用を求めるなら臨床医を選ぶほうがよいと考える人が多いと言えます。
※2020年10月時点のドクタービジョン掲載求人をもとに平均値を算出しています。
基礎研究医と臨床研究医の違い
研究医は、研究内容によって「基礎研究医」と「臨床研究医」に分類されます。それぞれの特徴を見ていきましょう。
基礎研究医
基礎研究医とは、各大学医学部や研究機関に所属して、医学基礎研究に携わる研究者です。
対象となる分野は、生理学、生化学、解剖学のように人体に関わるもの、病理学など病気のメカニズムに関わるもの、薬理学など薬剤開発や設計に関わるものなど、多岐にわたります。
基礎研究に携わる研究者には、理学部、薬学部、農学部など医学部以外の出身者も多くいます。基礎研究は生物学の応用をベースに各学問領域を横断するため、研究手法は担当者によって異なります。
基礎研究医になるには、基礎研究医プログラムを設置する基幹型臨床研修病院である大学病院の基礎医学系教室に所属する必要があります。基礎枠限定選考は毎年5月頃から始まります。
臨床研究医
臨床研究医は、医療機関で診療をしながら研究も進める医師兼研究者です。自らも診療現場に立つことから、全員が医師国家試験に合格し医師免許を所有しています。新薬の効果測定や治療方法の考案など、おもに新しい医療技術の確立と実用化を目標にした研究を担います。
臨床医から研究医になるには?
臨床医として診療現場に立ってみたものの、想像していた内容と異なっていたり、臨床を知ったことで研究職に興味が湧いたりなどの理由で、研究医への転向を検討する医師も少なくありません。
2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞した山中伸弥教授は、医学部卒業後に整形外科医として臨床現場に入ったものの挫折を経験し、その後、研究医としてのキャリアを歩み偉業を達成した有名なエピソードをもっています。臨床医から研究医への転身は無謀なことではなく、将来の選択肢を増やす手段のひとつと言えるかもしれません。
もちろん注意点もあります。臨床医から研究医へのキャリアチェンジは、あくまでも二足のわらじ状態。医学研究者としてのキャリアを選択するなら、本来なら医学部生時代からの進路選択がベストといえるでしょう。研究医になっても、研究室内での待遇や人間関係が合わず、臨床一本に戻る医師も少なからずいることを心に留めておく必要があります。
臨床研究医の養成
新専門医制度のもと、2021年度に新設された臨床研究医コース。臨床研修医になるために欠かせないこの制度について解説します。
臨床研究医コース
臨床研究医は、本邦の医学研究と発展を担う人材として大きな期待を寄せられています。しかし、新専門医制度には臨床研究医養成を想定した教育カリキュラムがないことから、日本専門医機構の発案、厚労省の医道審議会医師分科会専門医研修部会による了承を経て、「臨床研究医コース」が開設されました。
臨床研究医になるには、基本領域の窓口学会と日本専門医機構が協議を重ねて作製・案内する臨床研究医コースに応募する必要があり、合格後は責任医療機関での研修を受けます。
研修期間中は所属する医療機関(大学病院・大学院等)の規定に則った身分保障と給与支給がなされ、研修完了後には医学系大学等の臨床教官就任といったキャリア形成が予想されます。研修期間は7年で、2年間の専門研修で臨床経験を積み、残りの5年間でコース内容に応じた研究にも従事します。研究エフォートは50%、First authorとしてSCI論文を2本以上執筆する義務を負います。
なお、研修期間と論文執筆義務は2024年度から緩和されることが発表されています。
臨床研究医コースの現状
初年度となった2021年度(2020年度応募)は定員40名、ゆくゆくは年間100名程度の養成を目標と掲げていましたが、実際の応募は27名、採用者数は26名に留まりました。これを受けて日本専門医機構では広報活動を強化、説明動画の作成・公開などを通じて制度の周知を進めることとしました。
しかしながら2022年度は19人(その後1人が辞退)、2023年度は13人と採用者数は減少し続けている現状です。
こうした状況もあって、前述のとおり2024年度からは研修期間と論文執筆義務の条件が緩和されることとなりました。研修期間は「最低5年」(1年間の専門研修後、4年間の研究と臨床に従事)、論文執筆は「SCI論文2本以上のうち1本を英文による症例報告、もしくは和文による臨床研究に関する論文で代用可」となります。
自分に合ったキャリア形成を
臨床医と研究医の働き方にはそれぞれの特徴があります。自分はどのような形で医療に関わっていきたいのか、自身の性格やライフプランを考慮することが大切です。
臨床研究医コースはできたばかりの制度のため、内容・応募方法は今後変化することが予想されます。臨床研究医としてのキャリア形成に興味があるなら、情報収集を欠かさないようにしましょう。
ドクタービジョン編集部
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