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多くの医師が一度は経験する「当直」。自分の勤める病院以外の業務内容やスケジュールを知りたいと思われる方もいるのではないでしょうか。また、2024年4月に本格的に始まる「医師の働き方改革」によって、当直の扱いがどのように変わるのか気になっている方もいるでしょう。
本記事では、医師の当直の実態や、医師の働き方改革が当直にどのように影響するかなどについて詳しく解説します。
医師の当直とは?
当直とは、診療時間外に病院に待機し、通常業務と異なる業務を行うものです。公的には主に「宿日直」と呼ばれています。
当直の目的は、入院患者の急変や救急患者の外来などに対応することです。患者さまの安全と健康を守るためには、医療を24時間提供できる体制にしておく必要があります。当直は社会にとってなくてはならない就業形態と言えます。
「当直」「宿直」「日直」の違い
当直は所定労働時間外に行う当番制の業務のことで、一般的に使われている総称です。主に「宿直」と「日直」に分けられるため、「宿日直」とも呼ばれます。
以下、宿直と日直の違いです。
宿直 | 夜間に勤務先に泊まり込みで行う当直勤務。 |
---|---|
日直 | 休日の日中に行う当直勤務。 |
宿直と日直、いずれも業務内容は変わらず、いつでも呼び出しに対応できるよう病院内に待機します。対応がない時間は仮眠をとったり、他の仕事をしたりすることも可能です。
また、宿直は医療法第16条において「医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない」と規定されています。
ほかに「寝当直」と呼ばれる勤務もありますが、正式に定義されているものではありません。
医療機関における宿日直の許可基準について(p.3「宿日直とは?」)|東京労働局労働基準部監督課
医療法(昭和二十三年法律第二百五号)|e-Gov法令検索
▼「寝当直」に関する記事はこちら
医師の「寝当直」とは?仕事内容やアルバイトの際の注意点、働き方改革の影響を解説
医師の当直の実態
厚生労働省が、病院常勤医の宿直の実態を調査しています。その結果を見てみましょう。
病院の常勤医の月当たりの宿直回数の割合(左)と宿直回数別勤務時間の内訳(右)
出典:厚生労働省資料「医師の勤務実態について」(令和2年9月)p.19
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000677264.pdf
- 宿直回数が0回の医師は全体の約43%
- 宿直回数1~4回の医師は約43%、5回以上の医師は約14%
- 宿直が1回以上の場合、宿直回数が増えても診療時間は大きくは増えない
- 宿直回数が増えると、待機時間が長くなる傾向にある
宿直を全く行っていない医師は全体の約43%。月に1~4回宿直を行っている医師が約43%、一方で5回以上行っている医師は約14%です。
宿直を月1回以上行っている医師と全く行っていない医師を比較すると、当直を行っている医師の方が週当たりの診療時間が伸びる傾向にあります。しかし宿直回数が増えても、待機時間が長くなる傾向にはあるものの、診療時間はそれほど長くはなりません。待機時間に比して実際の稼働時間が長くないことが読み取れます。
とは言え、当直は通常勤務と比べて体力や精神面で負担が大きいことも事実でしょう。次の段落で、実際の業務内容を見ていきます。
当直の医師の業務内容
当直の業務内容は、大きく分けて下記の3つです。
- 入院患者の対応
- 外部からの救急患者(救急外来)対応
- 回診
当直の業務は主に患者対応です。入院患者で必要な処置や処方がある場合の対応、救急外来をウォークインで受診する患者さまの対応、救急車の受け入れなどを行います。病院によっては病棟の回診をする場合もあります。
患者対応がないときは基本的に病院内に待機となりますが、仮眠や他の仕事などで自由に時間を使うこともできます。
当直の医師の業務スケジュール
当直中はどのようなスケジュールで業務を行っているのでしょうか。宿直の一例を見てみましょう。
18:00~ | 宿直業務開始、引継ぎなど |
---|---|
18:30~ | 病棟回診 |
19:00~ | 他の医師との打ち合わせ 呼び出しへの対応(患者対応など) |
21:00~ | 病棟消灯 仮眠、食事など |
23:00~ | カンファレンス 呼び出しへの対応(患者対応など) 適宜仮眠、他の仕事(学習、学会準備、論文作成など) |
~8:00 | 日勤医師に申し送り |
8:30~ | 日勤開始 ※宿日直許可がある場合のみ、宿日直明けの日勤が可能 |
病院によって異なりますが、通常勤務と切り替わるタイミングが宿直業務の開始時間です。勤務開始後に病棟回診などを行い、その後は呼び出されたら適宜患者対応、それ以外は待機時間となります。
これまで、多くの医師が通常勤務の後そのまま宿直に入り、宿直が明けたらそのまま通常勤務を行う形で勤務してきました。拘束時間が32時間以上になることも珍しくありません。
しかし、2024年から本格適用される「医師の働き方改革」により、宿直明けの対応も変わります。大きなポイントは、医療機関における「宿日直許可の有無」です。「宿日直許可」がある場合は宿直後の通常勤務(日勤)が可能ですが、ない場合は宿直後の通常勤務を行うことはできません(後述)。
医師の当直はきついのか?
「医師の当直はきつい」という印象を持たれがちですが、当直の忙しさは勤務する病院や診療科によります。きついと思われる原因は主に業務量の多さや勤務時間の長さ、宿直後の業務内容にあるでしょう。
急患対応が多い職場は忙しく、休憩や仮眠を取る時間が限られます。また、宿直後にそのまま通常勤務を行う場合は、長時間の勤務になります。とくに、宿直後に手術のような体力や集中力を必要とする業務がある場合、きついと感じるでしょう。ただし働き方改革が普及すれば、こうした勤務実態も変わっていくかもしれません。
一方で、患者さまの対応が少ない病院や診療科の場合、業務の負担はそれほど大きくはありません。対応の回数や内容は職場によって異なるため、忙しさは職場によると言えます。
医師の当直に対する手当(給料)
当直は、常勤と非常勤とで相場に差があります。
常勤医の当直に対する手当の相場
15,000~20,000円程度 |
---|
常勤医の場合、当直に対する手当の相場は病院や診療科によって大きく変わりますが、一般的には1回15,000~20,000円程度と言われています。大学病院の場合は8,000~15,000円程度で、市中病院と比べてやや下がる傾向にあります。
非常勤医の当直に対する手当の相場
50,000~60,000円程度 |
---|
非常勤医の場合、常勤医と比較し手当が高く設定されており、相場は50,000~60,000円程度と言われています。常勤医より3倍以上多いケースもあり、医師のアルバイトとしても人気が高いです。
医師の当直回数が多い・少ない職場の特徴
全国的な平均と比べて、当直回数が多い職場と少ない職場には、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。
当直回数が多い職場の特徴
- 救急対応が多い
- 医師が不足している
救急対応の多い職場、とくに救急車を受け入れている職場は忙しいことが多く、当直の回数も増える傾向にあります。
また、患者さまの数が多い内科や外科は当直の回数は多くなりがちです。時間帯を問わず対応が必要となる産科・産婦人科や救急科でも、当直回数は多い傾向にあります。救急指定病院では、消化器内科や循環器内科も当直回数が多いと言えます。
職場に医師が不足している場合も、少ない医師で当直を回さなければならないため、必然的に当直の回数が多くなります。
当直回数が少ない職場の特徴
- 入院患者が少ない
- 慢性期病院など、救急対応がない(少ない)
入院患者の少ない小規模な病院では、当直自体が少ない傾向があります。また慢性期病院のような救急対応がない、または少ない職場の場合も、当直回数が少ないと言えます。
診療科によっても傾向があり、眼科や放射線科など、緊急を要する場面が少ない診療科は当直が少ない傾向にあります。
2024年から始まる「医師の働き方改革」の当直への影響
政府による働き方改革の取り組みは2019年から順次施行されていますが、医師は業務の特殊性から、適用まで5年の猶予期間が設けられていました。2024年4月からは、医師にも働き方改革が適用されます。
医師の働き方改革では、医療機関が「宿日直許可」を取得しているかどうかで、当直勤務のとらえ方が大きく変わります。医療機関が宿日直許可を取得している場合には、医師の労働時間として当直の時間はカウントされません*。また「連続勤務制限」の対象からも外れるため、当直明けも通常勤務できます。
一方、当直勤務をする医療機関が宿日直許可を取得していない場合、たとえ「寝当直」(後述)に近い勤務であっても労働時間としてカウントされるため、連続勤務制限上、当直明けの通常業務はできません。通算労働時間も上限が課されるため、今までのような頻度で当直ができなくなる可能性があります。
当直アルバイトで収入を上げたい医師の方にとっては、働き方改革に伴う労働時間・連続勤務時間の上限規制により、望みの当直回数を叶えられなくなる可能性があります。しかし、医師の働き方改革の目的は、医師の長時間労働を抑制し、医療現場の業務効率を改善すること、そして医療の安全性を確保し、地域で必要とされる医療を持続的に提供できる体制を整えることです。医師一人ひとりが、自分の働き方を考えるきっかけにもなることでしょう。
当直をしたい・したくない、いずれの医師にとっても、勤務する医療機関が宿日直許可を得ているかどうか確認することが重要になります。
*突発的な応急対応など、通常の勤務時間と同様の業務に従事する時間には許可が及ばず、労働基準法が適用されます(参考:厚生労働省資料「医師の働き方改革解説スライド~患者さんと医師の未来のために~」より)。
医師の働き方改革解説スライド~患者さんと医師の未来のために~|厚生労働省 いきいき働く医療機関サポートWeb「いきサポ」
医師の働き方改革の制度について|日本医師会 医師の働き方改革C2審査・申請ナビ
労働基準法の宿日直許可のポイント|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
医師、看護師等の宿日直許可基準について(令和元年7月1日付基発0701第8号厚生労働省労働基準局長通知)|厚生労働省
宿日直許可申請に関する解説資料(参考事例)|厚生労働省
医療機関の宿日直許可申請に関するFAQ(2022年7月29日ver.)|厚生労働省
医師の働き方改革に関する FAQ(2022年11月29日ver.)|厚生労働省 ▼医師の働き方改革と当直の関係について、詳しい記事はこちら
2024年から始まる医師の働き方改革。当直アルバイトができなくなる?
宿日直許可で医師の働き方はどう変わる?改革の目的に逆行する問題、アルバイト選びへの影響も考察
医師の働き方改革とは?
「医師の働き方改革」の内容は、端的に言うと「医師の時間外労働時間に上限を設けよう」というものです。医師の長時間労働に対する取り組みとして、健康確保措置なども強化されます。
前述のとおり、働き方改革の取り組みは、一般企業では2019年(令和元年)4月1日から順次施行されています。医師は業務の特殊性からこれまで規制の対象外となっており、猶予期間を経て2024年(令和6年)4月1日にすべての医師に対して適用される予定です。現在はそれに向けて、医療機関や地域ごとに段階的に施行が進められています。
時間外労働の上限規制とは?
2024年4月1日以降、医師に時間外労働の上限規制が適用されますが、適用される上限は一律ではありません。医療機関や医師の状況によって、2023年6月時点では下記の水準に分けられる予定です。
水準 | 対象 | 上限 |
---|---|---|
A水準 | すべての医師(診療従事勤務医) | 年960時間以下/月100時間未満(休日労働含む) |
連携B水準 (地域医療暫定特例水準) |
医師を派遣する病院 | 年1,860時間以下/月100時間未満(休日労働含む) ※連携Bでは、個々の医療機関における時間外・休日労働の上限は年960時間以下。 |
B水準 (地域医療暫定特例水準) |
救急医療などを提供する病院 | 同上 |
C-1水準 (集中的技能向上水準) |
臨床・専門研修を実施する病院 | 年1,860時間以下/月100時間未満(休日労働含む) ※将来に向けて縮減方向 |
C-2水準 (集中的技能向上水準) |
高度技能の修得研修を実施する病院 | 同上 |
厚生労働省資料「医師の働き方改革について」(令和3年度第1回医療政策研修会及び地域医療構想アドバイザー会議資料)およびwebサイト「医師の働き方改革の制度について」(https://c2-shinsasoshiki.mhlw.go.jp/system/)をもとに作成
※B水準・連携B水準は地域医療暫定特例水準と位置付けられており、2035年度末を目標に段階的に廃止される予定です。
連携B水準・B水準は、地域医療確保のために派遣され通算で長時間となる労働を行う医師や、時間外の対応が頻繁に発生する業務などに従事していて長時間労働が必要な医師などが該当します。C水準には、研修医・専攻医や特定の高度な技能の獲得を目指す医師など、集中的に長時間業務に従事する必要のある医師などが該当します。
各水準は病院ごとではなく、該当の業務を行う医師にのみ適用されます。
上限を超える場合の措置とは?
医師個人の労働時間が月の上限を超える場合、面接指導と就業上の措置が必要になります。また「連続勤務時間制限(28時間)・勤務間インターバル(9時間)の確保・代償休息」をセットで適用する必要が生じます(A水準では努力義務、B・C水準では義務として課されます)。
これらの規制や追加措置は、複数の勤務先で働いている場合、すべての職場で適用されることになります。そのため非常勤のアルバイトなどで勤務先が複数ある場合は、勤務時間やスケジュールを調整する必要があります。
医師の当直に関するQ&A
医師の当直に関するよくある質問と回答をまとめました。
Q:医師の当直明けの過ごし方は?
A:当直明けも通常業務に就く場合が多いですが、「医師の働き方改革」によって変化していく可能性があります。
現状では、当直明けは通常業務を行うことが多いです。しかし働き方改革が適用されると、「宿日直許可」がなければ宿直明けの通常業務はできません。勤務先が「宿日直許可」を受けていれば、翌日も通常業務を行うことが可能です。
Q:医師の当直勤務は何歳まで可能?
A:病院によって異なりますが、50歳ごろから免除されるケースが多いようです。
当直勤務を何歳まで行えるかは、病院によって異なります。50歳以上は免除、もしくは希望制など、年齢によって決まっていたり、管理職は免除になっていたりする場合が多いです。医師数が少ない病院の場合、とくに規定はないこともあります。
Q:医師の「寝当直」とは?
A:夜間の患者対応が少なく、待機時間の多い当直を指します。
「寝当直」とは、夜間の患者受診が少なく、待機時間が多い当直を指します。寝る時間を多く確保できるため、俗に「寝当直」と呼ばれます。
救急車の受け入れがない、または少ない病院で設けられていることが多いですが、場合によっては急変時の対応が求められることもあります。
医師の「寝当直」とは?仕事内容やアルバイトの際の注意点、働き方改革の影響を解説
医師の当直の実態を知り、自分に合った働き方を見つけよう
当直は、病棟や救急外来の患者対応を目的に、診療時間外に病院に待機・対応する業務です。当直回数や忙しさは病院によって異なります。とくに救急対応の多い病院は当直回数も多く、忙しい傾向にあると言えるでしょう。
当直は患者さまの健康と安全を守る大切な業務ですが、自分の勤務する病院の当直が「きつい」「忙しい」と感じる方も多いかもしれません。そのような時は、自分の働き方を見直し、より希望に合った病院探しを検討するのもおすすめです。2024年4月以降は働き方改革によって当直に入れる回数や時間が制限されるため、勤務先の宿日直許可の取得状況や自分自身の労働時間についての十分な確認・時間管理が必要になってきます。今後の働き方を考えるきっかけにもなるかもしれません。
ドクタービジョン編集部
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