「病棟管理」とは?チェックリストや指示簿活用のコツを現役医師が解説

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公開日:2024.09.13

「病棟管理」とは?チェックリストや指示簿活用のコツを現役医師が解説

「病棟管理」とは?チェックリストや指示簿活用のコツを現役医師が解説

研修医や専攻医を含め、入院病棟を持つ医療機関で働く勤務医であれば、入院中の患者さんを担当する機会は頻繁にあるでしょう。

入院患者さんに対する診療行為全般を「病棟管理」と呼び、たとえば精査や手術といった入院の主目的への対応だけでなく、さまざまな業務が求められます。

この記事では、病棟管理の概要に加えて、筆者がおすすめしたい「チェックリスト」、さらには病棟管理の重要ツール「指示簿」について解説します。病棟管理について知りたい、またはお悩みの先生は、ぜひご覧ください。

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「病棟管理」とは

「病棟管理」とは、入院患者さんに対する診療行為全般を指す言葉です。

業務の内容・範囲は非常に幅広いため、ここではどのような業務が含まれるのかをおおまかに見ていきます。

病棟管理の目的

病棟管理が対象とするのは「入院患者」さんです。

つまり、患者さんそれぞれに入院する主目的(理由)、たとえば精査や手術、感染症治療などがあるはずです。入院診療の最終目標は、主目的の解決早期退院・再入院予防です。

しかし、その過程でさまざまな問題が生じることもあります。たとえば、腸閉塞の評価目的で撮影したCTで、たまたま腎腫瘍が発見された場合、そのまま放置するわけにはいきません。入院生活でうまく眠れず、不眠になってしまうケースもあるでしょう。入院の主目的の解決だけでなく、それ以外のさまざまなトラブルに対応する必要があります。

一般に、こうした診療行為を総称して「病棟管理」と呼びます。

病棟管理業務の具体例

病棟管理業務の具体例としては、下記があります。

  • 治療方針の決定、検査/処方などのオーダー
  • 輸液・栄養管理、ペインコントロール
  • 患者背景の把握:ADL、既往歴、内服薬など
  • 退院支援:栄養管理、リハビリ、退院先の調整など
  • インフォームド・コンセント(IC):急変時の蘇生や侵襲的治療への希望対応を含む

このうち、まずは退院先調整など、早期退院の妨げになる項目への対応がとくに大切と言えます。

病棟管理における1日の流れ

続いて、実際の業務の流れから、病棟管理がどのようなものなのか見ていきましょう。

【病棟管理における1日の流れ】
  • 朝:データチェック、回診・処置
  • 昼:検査・手術、新規入院患者の確認
  • 夕:上級医へのプレゼン・相談、引き継ぎ準備、翌日以降のオーダー

朝は、あらかじめオーダーしておいた採血検査の結果確認や、回診を行います。術後の患者さんには回診と同時に処置を行う場合も多いでしょう。

ここで何か問題があれば、追加検査が必要になることもあります。たとえば、術後の患者さんが発熱していれば、創部感染によるのか、手術の侵襲によるのか、肺炎になっているためか、などを考えます。

日中は、入院の主目的への対応(検査や手術など)を実施します。予定入院や、外来から緊急入院になった患者さんがいる場合、その回診や対応にもあたります。

夕方には、翌日以降の点滴やリハビリ・採血のオーダー、薬剤の処方などを準備します。急性期疾患で病状変化が激しい患者さんに対しては、夕方に再度回診を行うこともあるかもしれません。

週末などは、当番医・当直医に向けた引き継ぎも必要です。カンファレンスという形で実施されることもあれば、カルテ記載だけで済ませる場合もあります。

こうした対応を繰り返し、患者さんの早期退院を目指していきます。

病棟管理には「チェックリスト」がおすすめ

病棟管理のためにタブレット端末でチェックリストを確認する医師のイメージ

このように、病棟管理ではさまざまな仕事を同時並行で進める必要があります。とくに担当患者さんの人数が2桁を超えるようになってくると、どうしてもタスクの抜け漏れリスクが高くなることでしょう。

そこでおすすめしたいのが、「チェックリスト」による管理です。担当患者さんをリスト化し、その日にやること(他科コンサル、ご家族へのICなど)を記載しておきます。

A4用紙1枚程度にまとめると視認性が高く、業務の抜け・漏れを減らすことができるでしょう。

◆◆◆

ここまで、病棟管理の概要や具体例について見てきました。診療科や施設によって、病棟管理業務の位置付けや業務内容は異なるものの、医師が病棟管理スキルを身に付けておくことは、科を問わず重要と言えます。

病棟管理における「指示簿」の活用

病棟管理業務をサポートしてくれるツールの一つが「指示簿」です。「病棟指示簿」、もしくは指示内容を伝達する一連の流れを含めて「病棟指示」とも呼ばれます。

ここからは、指示簿について詳しく見ていきたいと思います。

指示簿とは

病棟で指示簿を見る男性医師と女性看護師

指示簿とは、医師が他職種の医療従事者に対して、患者さんへの処置やケアの内容を指示する書面です。

書面といっても昨今は電子化され、病院のパソコンやタブレットで指示内容を入力するケースが多いでしょう。病院や診療科ごとにフォーマットが決まっていることが多いですが、業界全体で統一された規格があるわけではありません。しかし頻繁に使われる指示内容は決まっていると言えます。

たとえば、すべての入院例に対して「血糖値が◯◯なのでインスリンを△単位使用する」というような指示を、毎回口頭や電話で伝えるのは現実的ではありません。記録に残せる文字で伝達することが重要ですし、指示内容をある程度パターン化しておくことで、不必要なやり取りの機会を減らし、病棟管理を効率化することにもつながります。

画一的なフォーマットを使うことで、ヒューマンエラーを減らしやすいメリットもあります。聞き間違いでインスリンを過剰に投与することになれば、患者さんに大きな危害が及ぶ恐れがあります。

とはいえ、すべての事象に対して、画一的な指示で対応できるわけではありません。指示簿で対応できないイレギュラーなケースもあるでしょう。また、実際には先輩医師の指示簿を流用して作るケースも多いと思いますが、病棟指示の考え方やポイントを理解することは、医師としてのスキルアップにつながります。基本の型を押さえ、一人ひとりの患者さんに対して細やかに指示を使い分けることができるようになるのが、指示簿の活用で目指したい一つの目標と言えるでしょう。

指示簿で必要になるのは、患者さんの状態を把握するための「①観察項目」と、患者さんの「②生活管理」、そして何か問題が生じた際の「③必要時指示」(症状の変化への対応、持参薬指示など)に大きく分けられます。ここでは、①と③についてご紹介します。

観察項目

観察項目には、多くの診療科に共通するものと、診療科や疾患に特有なものとがあります。下記は、多くの診療科で共通して観察・測定される項目の例です。

  • 安静度
  • バイタル(体温・血圧・脈拍数・酸素飽和度など)
  • 血糖

指示を出す際は、患者さんの状態に応じた検討が適宜必要です。急性期疾患で入院した直後であれば、安静度は「ベッド上安静」であり、バイタル測定は「頻回に必要」な場合が多いでしょう。

入院してから時間が経ち、状態が落ち着いている患者さんであれば、たとえば廃用症候群を予防するために積極的に安静度を上げる必要がありますし、バイタル測定の回数も減らせるケースが多くなります。

診療科や疾患に特有の観察項目の例としては、脳出血での入院例で瞳孔径を評価し、脳ヘルニア徴候がないかをチェックすることや、外科の術後患者さんに対してドレーンの排液量や性状をチェックすることなどがあります。

必要時指示

必要時指示は、診療科によらず共通した要素が多くを占めます。下記のような項目(症状)について、指示内容を入力することが多いでしょう。

  • 不眠
  • 不穏
  • 発熱
  • 疼痛

必要時指示は、患者さんに危害を与えないことが第一です。「腎機能が悪ければNSAIDsの使用は控える」といった点です。

なお、病棟管理においては対症療法も重要ですが、症状の背景にある原因を検索・対応することも大切です。

まとめ

今回は病棟管理の概要についてご紹介しました。病棟管理では、入院患者さんに対するさまざまな対応が求められます。個人でチェックリスト化などの工夫をしたり、病院で導入している指示簿を活用したりすることで、より効率的で安全に医療を提供することができます。

指示簿の作成に関しては、下記の資料に考え方のポイントや記入例が載っているため、参考になると思います。会員登録をすれば無料でダウンロードできるので、気になる方はチェックしてみてください。

Dr.SoS

執筆者:Dr.SoS

皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。

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