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慢性腎臓病(CKD)は、糖尿病や高血圧、膠原病など何らかの原因によって腎機能が低下する病気です。年齢が上がるほど腎機能は低下するため、日本では高齢化に伴いCKDの患者さんが増えています。腎臓内科医でなくても、外来や病棟で高齢のCKD患者さんを診る機会は増えているのではないでしょうか。
この記事ではCKD、とりわけ末期腎不全の高齢者でみられる症状を専門医がわかりやすくまとめます。輸液管理の注意点にも触れますので、初学者や非専門医の先生方はぜひお役立てください。
慢性腎臓病(CKD)とは
慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)は、加齢や糖尿病、高血圧、膠原病など何らかの原因によって腎機能が低下する病気です。20歳以上の8人に1人がCKDと言われており*、"新たな国民病"として注目を集めています。
CKDの重症度は、腎機能低下の程度によってステージ1~5(G1/2/3a/3b/4/5)に分類されており、最も腎機能が悪いステージG5の中に「末期腎不全」が含まれます。
末期腎不全の状態になると、腎臓で体の中の水分や老廃物を十分に排出できなくなるため、血液透析や腹膜透析、腎移植などの腎代替療法が必要になります。
末期腎不全の高齢者にみられる症状7つ
CKDは病態が悪化するまで症状が目立たないことが多いため、定期的な血液検査が大切です。健診や人間ドッグのほか、ほかの疾患で入院した際にCKDが偶然発見されることも少なくありません。
ここでは、高齢の末期腎不全の患者さんに起こる主な症状を7つご紹介します。
1.むくみ(浮腫)
腎機能が低下すると、体の中の過剰な水分や塩分を排泄できなくなり体がむくみます。むくみは、過剰な水分が血管の外へ出て、間質液が増えると起こります。末期腎不全に伴う場合は、左右対称にむくむという特徴があります。
むくみは、指で10秒以上押さえて跡がしばらく残るかどうかが目安になります。体重測定も有用で、5 kg以上増えた場合は全身のむくみや心不全、肺水腫の可能性も疑われます。
ただし、むくみは心臓や甲状腺疾患、静脈瘤などでもみられます。
2.尿量異常
腎臓には、血液中の老廃物を尿として体外に出す役割があります。その機能が低下すると尿の濃縮機能が下がって多尿になるため、夜間尿や頻尿につながります。
さらに腎機能が低下すると、尿自体を作ることができなくなるため尿量は減少します。
3.倦怠感
末期腎不全でしばしば認められる症状の一つに、倦怠感があります。腎機能の低下で体に有害な尿毒症物質が蓄積することで倦怠感を引き起こす可能性があるほか、貧血、心不全、電解質異常などの要因で倦怠感をきたすことがあります。
ただし、倦怠感を引き起こす原因は多様なため、患者さんが末期腎不全による症状と気付かない場合も多いです。
4.貧血に伴う症状(動悸・息切れ・めまいなど)
腎臓は、赤血球の産生を促進するエリスロポエチンというホルモンを分泌しています。腎機能が低下するとエリスロポエチンを十分に分泌できなくなり、貧血になります。
貧血の時には、全身の酸素不足を補うために心臓に負担がかかります。貧血による症状には、動悸、息切れ、めまい、立ちくらみ、倦怠感などがあります。
ただし、腎機能低下に伴う貧血は徐々に進行することが多く、症状に気付かない場合もあります。
5.かゆみ
腎機能が低下すると、腎臓から排泄されるべき老廃物が血液中や皮膚にたまり、かゆみを引き起こす可能性があります。皮膚の中にあるかゆみ受容体を老廃物が刺激し、電気信号が脳に伝わることで、かゆみを感じます。
また、腎機能低下で皮膚が乾燥することもあり、これがかゆみを引き起こすこともあります。
6.心血管合併症に伴う症状(胸痛・胸部圧迫感・めまい・息切れなど)
腎機能低下と共に心血管合併症の発症率、さらには心血管合併症による死亡率が高くなることが報告されています。腎機能低下と共に蓄積した老廃物がカルシウム・リン代謝に影響を与え、動脈硬化や血管の石灰化を促進することで、心血管合併症を発症しやすくなります。
狭心症や心筋梗塞を発症すると、胸痛や胸部圧迫感、めまい、息切れ、倦怠感などが出ることがあります。
7.骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)に伴う症状(骨痛・骨折・関節痛など)
腎機能低下に伴い、骨や血管にさまざまな異常が起こることを骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD:chronic kidney disease - mineral and bone disorder)と呼びます。腎機能が低下すると、リンを尿へ排出しづらくなるため血液中のリンが増えます。腎臓にはビタミンDを活性化する役割もあるので、腎機能低下によってビタミンDの働きが低下します。
ビタミンDは、体内へのカルシウム吸収に関わっているため、腎機能低下に伴い血液中のカルシウムが減ります。結果的に骨密度が減少し、骨痛や骨折などの症状をきたします。
末期腎不全の高齢者に対する輸液の注意点
高齢者は腎臓だけでなく、心臓をはじめとするさまざまな臓器の機能が低下しているため、輸液の速度や種類を慎重に決定する必要があります。とくに末期腎不全の場合、命に関わる合併症を引き起こすリスクもあるため注意しなければいけません。
たとえば、輸液量が多いと心不全や肺水腫、浮腫などを引き起こす恐れがあります。
また、カリウムが含まれている輸液の扱いにも注意が必要です。腎機能低下時は血液中のカリウム濃度が高くなるため、カリウムの投与は高カリウム血症による不整脈、場合によっては心停止に至ることもあります。アミノ酸が含まれる輸液製剤も、末期腎不全の患者さんでは尿毒症を悪化させる恐れがあります。
腎排泄型の抗菌薬を末期腎不全の高齢者に点滴静注する場合は、腎機能を考慮して、適宜減量または投与間隔の調整が必要です。
画像診断時はヨード造影剤の使用にも注意しなければいけません。ヨード造影剤で腎機能がさらに低下する可能性があるからです。『腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018』では、造影剤投与前後に生理食塩水を輸液することが推奨されています。
まとめ
この記事では慢性腎不全の高齢者にみられる症状7つと、輸液管理の注意点について紹介しました。日本では高齢化に伴いCKDの患者さんが増えており、進行しないと症状が出ないことが多いほか、症状が出ても他疾患との鑑別が難しい場合があるので、末期腎不全に伴う症状はよく理解しておく必要があります。また、高齢者は腎機能だけでなく心機能などほかの臓器の機能も低下していることがあるため、輸液製剤の種類や投与速度は慎重に決定するようにしましょう。
エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023|日本腎臓学会
腎臓が悪くなったときの症状|日本腎臓学会
末期腎不全と言われた|日本泌尿器科学会
小竹良文ほか:高リスク手術における輸液管理.日本臨床麻酔学会誌 35(1):41-47,2015
池田みさ子・西山圭子:医原性疾患としての大量輸液--1.肺水腫.呼吸と循環 47(7):705-708, 1999
腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018|日本腎臓学会・日本医学放射線学会・日本循環器学会(日本腎臓学会誌 61(7):933-1081,2019)
└p.94~「7.造影剤腎症の予防法:輸液」
腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧 2023年改訂 36版|日本腎臓病薬物療法学会中山裕史・冨田公夫:輸液―病態別メニューの考え方.日本腎臓学会誌 50(2):100-109,2008
執筆者:大塚 真紀
東京大学大学院医学系研究科卒。医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医。都内の大学病院勤務を経て、夫の仕事の都合で渡米し、アメリカでは研究員として勤務。現在は日本に帰国し、在宅で医療関連の記事の執筆や監修、医療系YouTube監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作、医療系生成AIのアドバイザー、オンライン診療、医学意見書作成、看護師や一般向けの書籍執筆など幅広く行う。
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