外科医を目指すための「外科専門研修」。プログラム内容や必要な準備とは

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公開日:2024.04.30

外科医を目指すための「外科専門研修」。プログラム内容や必要な準備とは

外科医を目指すための「外科専門研修」。プログラム内容や必要な準備とは

外科は、診療科偏在による医師数の減少が顕著な科目の一つであり、日本の医療提供体制を維持していく上で、外科医を増やすことは必要不可欠です。そんな医療課題に立ち向かおうという高い志を持って、外科医を目指そうと考えている方もいらっしゃることでしょう。

この記事では、外科専門医を目指す医師が受けることになる「外科専門研修」について、概要や具体的な研修内容、研修に備えて準備しておくべきことなどを解説します。

外科専門研修とは

外科専門研修(以下、外科研修)とは、外科専門医を育成するための研修プログラム(外科専門研修プログラム)です。研修期間は3年以上で、この期間に外科全般についての知識を学びます。

外科全般ということで、消化器外科や心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科、乳腺外科での研修が含まれています。"外科系"の診療科としては整形外科や脳神経外科、形成外科などもありますが、これらは外科研修に含まれません。

というのも、外科研修における「外科」とは、日本専門医機構の定める「基本19領域の外科」を指しているためです。消化器外科・心臓血管外科・呼吸器外科・小児外科・乳腺外科はいずれもサブスペシャルティ領域として位置付けられています。整形外科・脳神経外科・形成外科などは外科とは独立して置かれているため、外科研修には含まれないというわけです(2024年4月末現在)。

外科研修後の成果(アウトカム)として、以下の6項目が定められています。

専門研修後の成果(Outcome)

専攻医は専門研修プログラムによる専門研修により、以下の6項目を備えた外科専門医となる。

(1)外科領域のあらゆる分野の知識とスキルを習得する。
(2)外科領域の臨床的判断と問題解決を主体的に行うことができる。
(3)診断から手術を含めた治療戦略の策定、術後管理、合併症対策まですべての外科診療に関するマネージメントができる。
(4)医の倫理に配慮し、外科診療を行う上での適切な態度と習慣を身に付けている。
(5)外科学の進歩に合わせた生涯学習を行うための方略を修得している。
(6)外科学の進歩に寄与する研究を実践するための基盤を取得している。

日本外科学会「専門研修プログラム整備基準(20201124変更)」p.1より引用
https://jp.jssoc.or.jp/uploads/files/specialist/curriculum-new_01.pdf

外科専門研修を専攻する医師数の推移

外科というと、医師の診療科偏在と関連した文脈で語られることの多い診療科です。長時間労働の多い診療科は医師から敬遠されやすいと言われており、外科もそうした理由で医師数の減少が問題視される状況が続いています。

厚生労働省の2019年の調査*では、勤務時間が60時間以上/週となる病院・常勤勤務医の割合が、外科は51%。脳神経外科の53%に次いで高い割合となっています。

実際に外科を専攻する医師の数はどうなっているのでしょうか。2018年度の新専門医制度開始以降、外科専攻医の採用者数と専攻医全体に占める割合は、下記のように推移しています。

年度 2018 2019 2020 2021 2022 2023
外科専攻医の数 805 826 829 904 846 835
専攻医全体の数 8,410 8,615 9,082 9,183 9,448 9,325
外科専攻医の割合 9.6% 9.6% 9.1% 9.8% 9.0% 9.0%
厚生労働省・日本専門医機構「令和5年度の専攻医採用と令和6年度の専攻医募集について」をもとに筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001110966.pdf

外科専攻医の数は、新専門医制度の開始以降増加傾向にあったものの、2022年と2023年は減少に転じています。専攻医全体に占める割合で見ても、2021年までの水準から下がっています。

外科専攻医数が減少していることに対して、日本外科学会からも懸念する声が聞かれます。日本外科学会はこの理由として「外科医は専門医取得を資格するのに時間がかかり生涯労働時間が短い」「勤務時間が長い(ワークライフバランスが十分に考慮されていない)」「給与が勤務量に見合っていない」「医療訴訟のリスクが高い」「女性医師への配慮が乏しい」などを挙げています。状況を改善すべく、これらの課題に対する取り組みが進められています

外科の魅力とは?

入院中の高齢男性とその妻 回診に来た医師、女性看護師

では改めて、外科の魅力としてどんなことが考えられるでしょうか。代表的なものは以下の3つでしょう。

  • 患者さんの命を救うことを実感しやすい
  • 常に新しいことに挑戦できる
  • チームワークで仕事ができる

外科は、手術などを通して患者さんの命を救うことを実感しやすい診療科です。直接病変を取り除いたり治したりすることで患者さんが元の生活を取り戻すことができる喜びは、何物にも代えがたいものでしょう。

また、常に新しい技術や知識が求められる分野でもあります。常に学び続け、新しいことに挑戦する姿勢が求められます。

そして外科手術はさまざまな医療スタッフとのチームワークで成り立ちます。チームの一員として患者さんの治療に携わることも、外科医の魅力と考えられます。麻酔科医などをはじめ、医師が複数名関わることが多いため、医師同士のチームワークも大切です。

手術に限らず、化学療法や放射線療法など、幅広い治療選択肢があることも特徴です。

外科専門研修の内容

外科研修の内容は、日本外科学会が定める「専門研修プログラム整備基準」に示されています。ポイントをまとめると以下のとおりです。

  • 3年間以上の専門研修
  • 手術・手技経験数 350例(消化管・腹部内臓50例、乳腺10例、呼吸器10例、心臓・大血管10例、末梢血管10例、頭頸部・体表・内分泌外科10例、小児外科10例、内視鏡手術10例など)
    ※うち、術者として120例以上を経験
  • 研究発表または論文発表 20単位
  • 日本外科学会定期学術集会への参加 1回以上
  • 日本専門医機構認定の共通講習会(医療安全・感染対策・医療倫理)受講 3単位
出典:日本外科学会「専門研修プログラム整備基準(20201124変更)」
https://jp.jssoc.or.jp/uploads/files/specialist/curriculum-new_01.pdf

とくに「手術・手技経験数 350例」は数として多く、分野も複数の領域にまたがっていることが特徴的です。複数の研修施設・診療科で研修を受ける必要があります。

臨床面だけではなく、研究・論文発表や学術集会への参加といった学術活動も求められています。

筆者は皮膚科を専門としているので、皮膚科の専攻医プログラムと比べてみましょう。皮膚科の専門研修の期間は5年以上です。手術症例はレポート10例の提出と少ないですが、皮膚科学各論35領域について90%以上の疾患を経験することが求められています。学術面では、筆頭著者として3例以上の論文発表が必要となります。

外科の場合は学術活動よりも手術症例数が重視されており、より実践的な経験が求められていると言えるでしょう。

外科専門医試験

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外科研修の総仕上げとして外科専門医試験が実施されます。3年間以上の研修と手術・手技症例経験数350例、学術発表など、上述したプログラム内容を修了していることが受験要件として求められます。

面接試験などはなく、筆記試験のみとなっており、多肢選択式です。出題数は合計100題。上部消化管15題、下部消化管15題、肝胆膵脾15題、心臓・血管15題、呼吸器10題、小児10題、乳腺・内分泌10題、救急・麻酔10題と、幅広い分野から出題されます。

過去5回程度に出題された問題が中心とされているため、過去問対策が重要と考えられます。日本外科学会公式の解答付き問題集が発行されており、これが試験対策の中心となるでしょう。

気になる合格率は、2023年度は97.5%(814/835名)でした。皮膚科専門医試験の合格率は80%程度なので、97.5%は比較的高い数値です。とはいえ先述のとおり受験資格を満たすこと自体がなかなか大変ですから、決して簡単な試験と言うことはできないでしょう。

外科専門研修に向けて準備しておくべきこと

外科の業務は肉体的にも精神的にもハードな傾向があり、医師に必要な体力・精神力・コミュニケーション能力・学習意欲などが、より高いレベルで求められる研修と言えます。

研修期間中はもちろん、研修前から下記のような準備をしておくと良いでしょう。

  • 体力づくり:ジョギングや筋トレなどの運動を習慣付けておく
  • 学習(読書など):手術にあたって必要な解剖学や外科手技に関する知識を深めておく
  • 外科医の話を聞く:外科医に直接話を聞くことで、外科研修の実際を学ぶ

まとめ

今回は外科専門研修について見てきました。外科に関する全般的な内容を学ぶため、同じ外科でもさまざまな環境下で研修を行うことになります。多くの症例経験が要求されるタフな研修ですが、その分医師としてのやりがいも大きいプログラムと言えるでしょう。

外科専門研修の専攻を考えている研修医や医学生の方は、身近にいる外科医から、プログラム内容や研修の実際について情報収集をしてみましょう。キャリアビジョンや働き方について具体的なイメージが湧き、研修を有意義に受けられるのではないかと思います。

Dr.SoS

執筆者:Dr.SoS

皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。

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