医師の皆さん、「地域医療構想」についてご存知でしょうか。地域ごとの事情を考慮し、医療を効率的に提供する体制を作るための取り組みで、もともとは2015年に始まった病床数の調整が主軸でした。従来は「2025年」に向けた目標を定めるものでしたが、2024年末に「2040年」およびその先を見据えた「新たな地域医療構想」が取りまとめられました。
この記事では、地域医療構想の概要とこれまでの進捗、そして2040年に向けた新しい構想の中身を見ていきます。私たち医師と関連の深い「医師偏在対策」も取り上げますので、ぜひ最後までご覧ください。

執筆者:Dr.SoS
「地域医療構想」とは
「地域医療構想」とは、地域ごとの医療資源配置を最適化するための施策です。厚生労働省は、下記のように定義しています。
地域医療構想は、中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの質・量の変化を見据え、医療機関の機能分化・連携を進め、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制の確保を目的とするもの。
厚生労働省webサイト「地域医療構想」より引用
https://www.mhlw.go.jp/stf/iryoudx.html(2025年4月15日閲覧)
地域によって人口の増減や少子高齢化の進行状況は異なるため、それぞれの実情に合う医療提供体制を構築する必要があります。そのため、地域医療構想は都道府県単位で作成することになっています。策定される計画の中で、各医療機関の役割が決められます。
具体的には下記のようなプロセスで、地域ごとの医療需要にあわせた病床数を定め、医療機関の機能分化や連携のための取り組みが進められます。
取り組みの内容 | 対応の主体 | |
---|---|---|
① | 各地域(構想区域)の医療需要と「病床数の必要量」を医療機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)ごとに推計し、地域医療構想として策定する。 | 都道府県 |
② | 各医療機関が都道府県に対し、現在の病床機能や今後の方向性を「病床機能報告」により報告する。 | 医療機関 |
③ | 各地域に設置された「地域医療構想調整会議」で、病床の機能分化・連携について協議する。 | 地域医療構想調整会議 |
④ | 「地域医療介護総合確保基金」を活用し、医療機関の機能分化・連携を支援する。自主的な取り組みでは不十分な場合は「医療法に定められている権限の行使を含めた役割」を適切に発揮し、地域医療構想の実現をはかる。 | 都道府県 |
厚生労働省webサイト「地域医療構想」をもとに筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/iryoudx.html(2025年4月15日閲覧)
なお、地域の医療資源を有効活用するための制度として「地域包括ケアシステム」があります。こちらは国が音頭を取るというよりは都道府県や市町村など保険者が主体となって作り上げる点、医療だけでなく介護・生活支援・介護予防・住まいといった要素も含まれる点が、地域医療構想との違いです。
4つの医療機能
上述の「①」で登場する「医療機能」とは、病床の主たる役割のことです。各地域(区域)ごとに必要な医療機能と病床数を推定し、各医療機関の分担(機能分化)や医療機関同士の連携を促します。現時点では全国に341個の「構想区域」を設定し*1、推定人口や年齢構成から、医療機能ごとに必要な病床数を定めています。
医療機能は下記の4つに分類されています。
機能の名称 | 内容 |
---|---|
高度急性期 | 急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、診療密度が特に高い医療を提供する機能 |
急性期 | 急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、医療を提供する機能 |
回復期 | 急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能 特に、急性期を経過した脳血管疾患や大腿骨頚部骨折等の患者に対し、ADLの向上や在宅復帰を目的としたリハビリテーションを集中的に提供する機能(回復期リハビリテーション機能) |
慢性期 | 長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能 長期にわたり療養が必要な重度の障害者(重度の意識障害者を含む)、筋ジストロフィー患者又は難病患者等を入院させる機能 |
厚生労働省「地域医療構想について」p.12より引用
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000094397.pdf(2025年4月15日閲覧)
医療機関は「病床機能報告」により、どの病床機能を担っているかを、所属する都道府県に報告します。その結果をふまえて協議を実施し、医療機関の機能分化や連携を、より良く進めていこうというわけです。
たとえば、同じ機能の医療機関が複数ある場合は片方の医療機関の機能を変更する、診療実績の少ない病院を統合する、といった施策が考えられます。
地域医療構想における2025年までの取り組みと課題
地域医療構想は、2014年に施行された「医療介護総合確保推進法」により制度化されました。その後『地域医療構想策定ガイドライン』がまとめられ、2017年3月にはすべての都道府県で構想の内容が策定されています。
このときの内容は、2025年の病床数や病床機能を定めるものでした。いわゆる「2025年問題」に備え、人口のボリュームゾーンである団塊世代が75歳以上となることを見込んだ対応です。
とくに入院医療を対象に、病床の機能分化・連携が推進されてきました。これにより病床数は125.1万床(2015年)→119.2万床(2023年)となり、2025年の必要病床数である119.1万床と同程度の水準となりました*2。
機能別で見ると、急性期と慢性期の病床数が減り、回復期が増えるなど、目標に沿った進捗が認められています。
つまり、地域医療構想は10年弱にわたる取り組みによって一定の成果を上げてきたと言えるでしょう。
一方で、下記のような課題も指摘されています。
- 病床数の議論が中心となり、将来のあるべき医療提供体制の実現に向けた議論がなされにくい。また、外来医療、在宅医療等の地域の医療提供体制全体の議論がなされていない。
- 病床機能報告制度において、高度急性期と急性期、急性期と回復期の違いがわかりづらい。
- 機能別の必要病床数は患者単位のデータから設定され、病棟単位で報告される実際の病床数との間で差異が生じている。
- 必要病床数と基準病床数の関係がわかりづらい。
厚生労働省「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」(2024年12月)p.5より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001357306.pdf(2025年4月15日閲覧)
こうした課題をふまえて、今後は2040年を見据えた「新たな地域医療構想」に取り組んでいくことになったのです。
2040年に向けた「新たな地域医療構想」
「新たな地域医療構想」について見ていく前に、なぜ2040年がターゲットイヤーになったのか、前提となる「2040年問題」について確認しておきましょう。
「2040年問題」とは
日本の人口構造で最もボリュームが大きい層は、1947〜1949年生まれの団塊世代、次いで1971〜1974年生まれの団塊ジュニア世代です。出生数はそれぞれ約268万人/年、約205万人/年となっており*3、2024年の出生数72万人*1と比べていかに多いかがわかるかと思います。
2040年には、団塊ジュニア世代が65歳以上となり、高齢者人口はピークを迎えます。そして団塊世代は85歳を超えています。その一方で、高齢者を支える労働人口は少ないままと考えられます。少子高齢化は日本社会の長期的な傾向ですが、高齢者人口がピークに達する2040年をピックアップして、「2040年問題」として改めて注目されています。
私たち医師にとって、2040年問題は日々の診療で直面する事態です。複数の疾患を抱える高齢患者さんの増加や、在宅医療のニーズの高まりをより顕著に感じることになりそうです。
「新たな地域医療構想」とは
ここまで述べてきたような状況をふまえ、医師がより効果的に、そして持続的に医療を提供できる体制を構築することを目的に策定が進められているのが、「新たな地域医療構想」です。
限りある医療資源を最適化・効率化しながら、「「治す医療」と「治し支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、地域完結型の医療・介護提供体制を構築」*4することが、方向性として定められています。
構想の概要は、2024年12月に厚生労働省の検討会で取りまとめられました。前回同様、具体的な基準を決めるためのガイドラインが作成される予定です。その後2026年度には各都道府県での具体的な策定が始まり、2027年度に取り組みが開始される予定となっています。
新たな地域医療構想で挙げられているテーマは、下記の4つです。
【新たな地域医療構想における基本的な方向性】
- 増加する高齢者救急への対応
- 増加する在宅医療の需要への対応
- 医療の質や医療従事者の確保
- 地域における必要な医療提供の維持
厚生労働省「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」(2024年12月)p.5~6より引用(抜粋)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001357306.pdf(2025年4月15日閲覧)
従来の地域医療構想をふまえ、入院医療だけでなく外来医療や在宅医療、そして医療と介護の連携も対象となった点がトピックと言えるでしょう。
区域の分け方についても、見直しが示唆されています。現在は主に「二次医療圏」に基づいて設定されていますが、同じ二次医療圏といっても、地域によって課題はさまざまです。今後は人口規模や医療従事者の確保状況など、医療体制の課題もふまえた構想区域の見直しが検討されています。
【2024年度開始】第8次医療計画とは?―基本方針と改訂ポイント、自治体の具体例
医師の偏在対策
「医師不足」という言葉をしばしば耳にしますが、医師の偏在(相対的不足)もその原因の一つです(詳細はこちら ▶ 医師不足・医師偏在はどうして起こる?現状や対策を解説)。
新たな地域医療構想においても、先述のとおり「医療従事者の確保」が4大テーマの一つに挙げられています。労働人口が減少する中での対応となるため、医師の偏在についても重要課題として議論が重ねられてきました。こちらも2024年12月に検討内容が報告されていますので、その内容を見ていきましょう。
医師偏在対策の現状と課題
医師偏在対策の一つとして、医師養成課程では「地域枠」の活用により、新規医師数の増員が進められてきました。2022年までの10年間で、医師数はおよそ4万人増加しており(30.3万人→34.4万人)*5、若手医師の地域偏在は縮小傾向になっています。
しかし全年齢で見ると、決して偏在が解消しているとは言えません。今後は中堅・シニア世代に対する是正が必要となります。
地域偏在とは別に、「診療科偏在」の問題もあります。医師の総数が増えているにもかかわらず、診療科別の増加幅には偏りがあります。厚生労働省の報告によると、リハビリテーション科・形成外科・麻酔科・放射線科では、2008~2022年の間に医師数がおよそ1.5倍となった一方、外科などでは横ばいです*5。背景には医師の長時間労働による負担が考えられており、2024年度から本格的に始まった「医師の働き方改革」で、今後診療科別の医師数が変化していくか、注目されます。
医師偏在対策の具体的な取り組み案
今後の具体的な取り組みとして、下記のような内容が検討されています。
1.医師確保計画の実効性の確保
・「重点医師偏在対策支援区域(仮称)」の設定
・「医師偏在是正プラン(仮称)」の策定
2.地域の医療機関の支え合いの仕組み
・医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の対象医療機関の拡大等
・外来医師多数区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請
・保険医療機関の管理者要件の設定
3.地域偏在対策における経済的インセンティブ
4.全国的なマッチング機能の支援等
5.リカレント教育の支援
6.都道府県と大学病院等との連携パートナーシップ協定 ほか
厚生労働省「医師偏在対策に関するとりまとめ」(2024年12月)p.4~13より引用(抜粋、一部編集)
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001358749.pdf(2025年4月15日閲覧)
このうち、いくつかピックアップして解説します。
医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の対象医療機関の拡大等
現在、地域医療支援病院の管理者には「医師少数区域等での勤務経験」が求められています。この要件を公的医療機関や国立病院機構・地域医療推進機構・労働者健康安全機構が開設する病院にも適用することが検討されています。
すべての医療機関を対象にする案もあったようですが、まずは上記の病院で効果を検証する方針になりました。
また、勤務経験期間を現行の「6カ月以上」から「1年以上」に延長することも検討されています。
外来医師多数区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請
現在、都市部で多くの診療所が開設される一方、地域で初期救急を担うために必要な医療機関同士の連携は自主的な対応に任せられており、必要な医療機能の分担や整備が進みづらいという課題があります。たとえば在宅当番医は医療従事者側の負担が大きく、地域医療において重要な機能とはいえ必ずしも診療所経営のメリットになるわけではありません。
そこで、都市部などの外来医師多数区域における新規開業希望者に対し、地域で必要な医療機能(夜間・休日の初期救急医療、在宅医療、公衆衛生など)の提供を要請することが検討されています。要請に従わない場合は勧告や公表も行うという、強いものです(保険医療機関の取消も候補に挙がったものの、規制が強すぎるという反対意見が多かったようです)。
保険医療機関の管理者要件の設定
保険医療機関の管理者、つまり院長の要件として「保険診療に一定期間従事したこと」を加えることが検討されています。マルチモビディティ(多疾患併存)やポリファーマシーなどの複雑な臨床像への対応や、医療費抑制を意識した適切な診療を担えること、さらには地域内での連携といった高度なマネジメントを担える人材の確保が目的とされており、たとえば研修終了後早期に開業するといったキャリアパスを描くことは難しくなるでしょう。
マルチモビディティ(多疾患併存)とは?定義やガイドラインの有無、診療のポイントを解説
医療費適正化計画とは?―第四期【2024~2029年度】の内容を中心に解説
病診連携とは?地域連携との関連、取り組みの実例や今後の展望【現役医師解説】
地域偏在対策における経済的インセンティブ
医師少数地域での勤務を促すため、当該地域における診療所の承継・開業支援、勤務医の手当増額などが検討されています。金銭的なメリットだけで解消する課題ではないと思われますが、とはいえインセンティブがあることは重要でしょう。
リカレント教育の支援
「リカレント教育」とは、社会人の学び直しや学びの継続を指す言葉で、「リスキリング」といった言葉とともに近年注目されています。医師においても、偏在対策が行き届いていない中堅以降の医師を対象に、地域医療で必要な総合的な能力を学び直せる機会を提供することが検討されています。
まとめ
今回は地域医療構想について見てきました。2025年に向けて取り組まれてきた「従来の地域医療構想」では入院医療がメインテーマとされていましたが、より高齢者人口が増加する2040年を見据える「新たな地域医療構想」では在宅医療の強化、減少する働き手(医療従事者)の確保が重要テーマとされました。医師偏在についても対策が進められることとなり、医療機関の管理者要件の見直しなど、医師が将来を考える上でも重要なテーマが含まれています。たとえばインセンティブのある地域で勤務して早く開業資金を貯める、都市部を避けて開業を検討するなど、さまざまな展開が想定されます。
今後策定されるガイドラインや、各都道府県の具体的な内容に加えて、地域医療や医師偏在をとりまく今後の議論や動向にも注目しておく必要がありそうです。