新型コロナウイルス感染症の流行にともない、初診患者を含めてのオンライン診療や電話診療が2020年4月から時限的に解禁されました。医療機関は、新型コロナウイルスをはじめとした病原体への感染リスクが高い場のひとつであるため、これらの遠隔診療の普及は感染拡大防止に大きく貢献すると考えられます(診療報酬における時限的措置(コロナ特例)は2023年7月末で終了)。
とはいっても、初めてオンライン診療・電話診療を行う医師は、「患者さまに対面せずどのように診療を進めていけばよいのか...」と悩む場面も多いでしょう。そこで今回は、オンライン診療・電話診療のメリット・デメリット、患者さまとうまくコミュニケーションを取るためのポイントについて詳しく解説します。
オンライン診療・電話診療のメリット・デメリット
2015年から、離島やへき地などの遠隔地在住の患者さまを対象に解禁されたオンライン診療。2018年には、診療報酬改定で新たに「オンライン診療等」の診療報酬が新設されました。しかし、これまでのオンライン診療は、再診の患者さまにのみ認められており、特定疾患療養管理料や地域包括診療料が算定されている患者さまは対象外でした。
そうしたなか、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行にともない、2020年4月には初診患者も含めた遠隔診療が時限的に解禁された(※)のです。
新型コロナウイルス感染症の流行により多くの患者さまが遠隔診療の対象となったことで、オンライン診療や電話診療を行う医療機関はますます増えています。まずは、オンライン診療・電話診療のメリット・デメリットを詳しく見てみましょう。
※2023年8月(コロナ特例終了)以降、「情報通信機器を用いた診療」として診療報酬を得るには届け出が必要です。
オンライン診療を行うための施設基準とは?必要な届出、診療報酬における算定要件も紹介
オンライン診療・電話診療のメリット
どこでも診療が可能
オンライン診療・電話診療の最大のメリットは、患者さまが医療機関から離れた場所にいても診療が可能なことです。先に述べた通り、医療機関は感染リスクが高い場のひとつ。遠隔診療は、患者さまが医療機関に直接立ち入らずに診療を受けることができます。そのため、患者さまへの感染リスクを低減させると同時に、医療機関側にとっても院内感染のリスクを抑えることにつながるのです。
また、「どこでも診療が可能」なことは、感染対策に有効なだけではありません。通院の手間を省き、交通費などの通院にかかる費用を減らすといった利点があります。とくに遠隔地にお住まいの方、仕事や家庭の事情で通院する時間がない方、通院に混雑した公共交通機関を使用しなければならない方などには利便性の高い診療形態であると言えるでしょう。
待ち時間が少ない
一般的なオンライン診療・電話診療は、事前に受診時間帯を予約し、その時間になったらスマートフォンアプリや電話などで医師とコンタクトを取るシステムになっています。受診時の長い待ち時間がないため、予定を立てやすく無駄な時間を省くことができるのもメリットのひとつです。
また、通常は医療機関がやっていない夜間や早朝などにも、オンライン診療・電話診療に対応する医療機関も増えています。仕事の都合などで平日日中に受診ができない患者さまも、気軽に利用できるのです。
対面では相談しにくい症状も打ち明けやすい
悩んでいる症状があったとしても、「医師と対面すると打ち明けにくい...」という患者さまは思いのほか多いもの。とくに産婦人科や泌尿器科、皮膚科、消化器科などのデリケートな悩みをともないやすい診療科は、その傾向が高くなります。オンラインや電話などを活用した遠隔診療では、画面や音声のみで医師とコンタクトを取るため、対面による診察よりも悩みを打ち明けやすいメリットもあるでしょう。
オンライン診療・電話診療のデメリット
患者の変化に気付きにくい
画面や音声で患者さまとコンタクトを取るとはいえ、そこから得られる情報は対面による診察よりもはるかに少なくなります。そのため、患者さまの微妙な状態の変化などに気付きにくいことが遠隔診療の最も大きなデメリットです。
また、オンライン診療・電話診療では検査を実施することができず、通常の受診よりも病気を見逃してしまうリスクはどうしても高くなります。オンライン診療・電話診療は、利便性が高い一方で、病状が安定しない方や重篤な症状のある方、糖尿病などの定期的な検査が必要な方には不向きな診療形態と言えるでしょう。
ITリテラシーの低い患者さまは利用しにくい
現在、遠隔診療は電話でも行うことが認められています。しかし、やはり主流はスマートフォンやパソコンなどのアプリを用いた診療です。そのため、高齢者世帯などのITリテラシーが低い患者さまは、遠隔診療の利用に一定のハードルがあるのも事実。遠隔診療が新たな「医療格差」を生むリスクも考えられます。
オンライン診療・電話診療を実施する際のポイント
オンライン診療・電話診療などの遠隔診療には、様々なメリットがある一方、対面での診療に比べてデメリットもあります。症状の見逃しなどを防ぎ、よりよい医療を患者さまに提供するには、デメリットを最小限に抑えることが大切です。では、どのような点に気をつければデメリットを抑えながらのオンライン診療・電話診療が可能なのでしょうか?
患者さまから事前に情報を提供してもらう
スムーズなオンライン診療・電話診療を行うには、患者さまから事前の情報提供をしてもらうことが大切です。「問診」の前に、症状や随伴症状、既往歴、家族歴などの詳しい情報を提供してもらうことで、何も情報がない状態でスタートするよりもスムーズに診療が進められます。また、事前の情報からオンライン診療・電話診療が適さないと考えられる患者さまには、直接医療機関を受診するようアドバイスすることができます。コミュニケーションの方法はいくつかありますが、医師として事前に知っておきたい情報を盛り込んだ問診票を作成し、メールなどでやり取りするとよいでしょう。
患者さまが医師からの質問に答えるための十分な時間を確保するなど、患者さまに寄り添う
医師からの質問に回答するための十分な時間を確保することも大切です。遠隔診療に慣れていない方は、画面や音声を通しての医師の質問に戸惑いを感じるケースも多々あります。対面による診療と同じようなペースで進めては、患者さまから十分な情報を得られない可能性も...。できるだけゆったりとした「間」を意識し、患者さまに寄り添った診療を行いましょう。
高齢者などのITに苦手意識のある患者さまへの対応
ITリテラシーが低く、パソコンやスマートフォンに苦手意識がある患者さまに対しては、事前に受診方法をわかりやすく説明しておくことが大切です。ツールの使い方などを図式化した書面を用意しておくのがよいでしょう。遠隔診療は、基本的に画面を通して行うのが望ましいですが、電子機器の扱いに慣れていない患者さまには、電話診療を選択するのもひとつの方法と言えます。
オンライン診療・電話診療では対面診療以上に患者さまに寄り添った対応を
オンライン診療や電話診療などの遠隔診療は、新型コロナウイルスの感染拡大を予防するだけでなく、利便性の面からも様々なメリットがあり、本格的に取り組む医療機関も多くなっています。今後も遠隔診療の導入・普及は進んでいくでしょう。
一方で、遠隔診療には、「患者さまの微妙な状態の変化に気付くことができない」「ITリテラシーの違いによって医療格差を生む可能性がある」などのデメリットもあります。よりよい遠隔診療を提供するには、事前のコミュニケーションと対面診療以上の丁寧な対応が必要です。実際に患者さまの様子を観察できない遠隔診療だからこそ、良好なコミュニケーションを意識し、患者さまに寄り添った対応を心がけましょう。