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ICT(情報通信技術)の発展によって急速に広がる遠隔医療。医師同士で患者さまのデータを元に診断を検討するほかに、オンライン診療やオンライン受診勧奨、遠隔医療健康相談などが含まれます。コロナ禍で医療機関への受診に抵抗があっても、スマートフォンやパソコンで診察を受けられる利便性から、とくにオンライン診療への関心は高まってきています。
今回は、遠隔医療における現状や課題、5Gの普及により考えられる未来像について解説します。
遠隔医療とは
厚生労働省が出した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」において、遠隔医療は「情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為」と定義づけられています。
遠隔医療は、このように大きく2つに分けられます。
①医師と医師間の行為(D to D)
②医師と患者さま間の行為(D to P)
①医師と医師間の行為の代表的な例は、遠隔での放射線画像診断や術中迅速病理診断です。専門医が各地の病院・クリニックの医師の診断・手術を遠隔でサポートするケースも増えてきています。
②医師と患者さま間の行為の代表的な例としては、オンライン診療やオンライン受診勧奨、遠隔健康医療相談が挙げられます。近年よく耳にするようになったオンライン診療は、「遠隔医療のうち、医師-患者さま間において、情報通信機器を通して、患者さまの診察および診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」と定められています。
2018年の診療報酬改定ではオンライン診療料が新設され、全国的に普及し始めました。ただし、オンライン診療では対面診療と比較して得られる情報に限界があることから、原則として再診のみ利用が認められていました。
2020年4月には、新型コロナウイルス感染症の感染防止策として、初診でのオンライン診療も時限的・特例的に認められました(通称「0410対応」)。新型コロナウイルスに限らず、様々なウイルス・細菌による感染症の拡大防止に期待されることから、電話・オンラインでの診療は今後さらに身近なものになっていくでしょう。
※新型コロナウイルス感染症の収束後は、初診のオンライン診療が不可に変更となる可能性があります。
遠隔医療のメリット
注目の遠隔医療には医者側・患者さま側双方にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。具体的に紹介していきます。
医師間のネットワーク構築による医療の質の向上
オンラインであれば勤務地を問わずに連絡を取り合うことができ、医師間・病院間のネットワーク構築がより容易に行えるようになります。専門医とのつながりが強化され、支援を頼みやすい環境になれば、医療の質は益々高くなると考えられます。
また、オンラインによる学会やセミナー、医学生や研修医のオンライン手術見学・実習も広義の遠隔医療です。医師間のネットワークだけではなく、質の高い情報へのアクセスのしやすさは、医学教育ひいては医療の発展に大きく貢献するでしょう。
診療サービスの地域格差の縮小
離島や山間部、僻地など医師が不在もしくは不足している地域がありますが、オンライン診療は地域の医療格差縮小にも一役買うと考えられています。
専門医が不足している地域の方、病院が遠く移動に時間がかかる方、高齢で受診が困難な方なども、オンラインであれば自宅で待ち時間なく診察が受けられます。薬は院内処方の場合は自宅に郵送され、院外処方の場合は近くの薬局で受け取れます。
十分な医療サービスを受けづらい地域の方も継続的に受診しやすくなり、重症化予防につながることは大きなメリットです。
医師の負担軽減・業務効率化
生活習慣病やアトピー性皮膚炎、喘息など、オンライン診療と相性が良いとされる疾患はわかってきています。それらの疾患で適切なオンライン診療の普及が進むと、医師の負担は軽減されて業務をより効率的に進められるようになるでしょう。
地域医療を担っている医師は、オンラインで距離を超えて専門医に相談しやすい環境があると心強く、精神的な負担の軽減も見込めます。また、訪問診療医は移動にかかる時間的なコストを大幅に削減でき、より多くの患者さまを1日に診ることが可能となります。
遠隔医療の課題
メリットの多い遠隔医療ですが、課題もいくつか挙げられます。
対面診療と比較して情報量が少ない
オンライン診療は画面越しになるため、触診や聴診ができないほか、正確な顔色やニオイ、立ち振る舞いなどの患者さまの全身の情報を細やかに得られない点が課題としてあります。診察で五感をフルに活用できないことから、誤診を懸念する医師もいるでしょう。
この点は、ICT機器やソフトウェアのさらなる発展でカバーできるようになる可能性はありますが、現時点ではオンライン診療の限界を理解し、必要な場合は対面診療に切り替えることが大切です。
システム導入にコストがかかる
クラウド化されたサービスを利用する場合は、基本的に使用するのはスマートフォンやパソコンのみで、多くの機材を揃える必要はありません。しかし、オンライン診療に必要なシステムの導入費や維持・管理費などはかかります。
また、新しいシステムを導入しただけでは診療が円滑に進みません。新しいシステムの利用方法を覚える必要があり、スタッフへの教育コストもかかってきます。
診療報酬が低い
オンライン診療は対面診療と比較して診療報酬が低い現状があります。そのため、特に保険診療中心の医療機関では収益が少なくなり、システム導入と維持にかかるコストに見合わない事態になりかねません。今後の診療報酬の見直しに注目していきましょう。
5G活用により期待されること
2020年3月からサービスの提供が開始された5G(ファイブジー)。第5世代移動通信システムのことで、3つの大きな特徴があります。
①高速・大容量
②低遅延
③多数同時接続
5Gでは大容量のデータを高速で転送できるようになり、4K、8Kの映像も瞬時にやり取りが可能になりました。容量が大きく精細な患者さまの画像・映像データを遠方の専門医に見てもらうなど、精度の高い診療が期待できます。
従来のシステムでは、画質や音質の悪さ、画像や映像の遅延などの課題がありました。しかし、5Gではこの問題はほぼ解消され、リアルタイム性の高さから、遠隔操作によるオンライン手術も可能になってくるでしょう。また、5Gでは多数の機器の同時接続が可能になったことから、複数の医療機器や設備を接続させて患者さまの状態を詳細に把握できる「スマート治療室」の開発も進められ、実際に脳神経外科の領域で利用されています。
内視鏡検査の映像を5Gで送り、AIの画像判定システムの有用性を確かめる実証実験もすでに行われており、診断や治療で多くの人が5Gの恩恵を受けられる日はそう遠くはないでしょう。
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診断から治療まで広がる遠隔医療
まだ黎明期である遠隔医療。おもに診断や経過観察などで遠隔医療の利用は少しずつではあるものの着実に広がりを見せています。今後は、技術次第で治療の領域にまで遠隔医療は広がっていくと考えられます。
一方でICT(情報通信技術)がさらに発展・普及したとしても、患者さまのITリテラシーや法律が現状のままでは、遠隔医療はスムーズに進みません。技術や時代の変化に合わせて、よりよい医療のあり方を検討していく必要があるでしょう。
ドクタービジョン編集部
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