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新生児が大人になるまでの間、心や身体を健康に育てる小児科は、とてもやりがいのある診療科です。
一方で、さらなる少子高齢化が予測される日本では、小児科の将来性や今後の年収に不安をお持ちの医師も少なくないでしょう。
この記事では、小児科医の平均年収の現状や今後の展望について解説します。開業医や勤務医など働き方による年収の違いや、女性小児科医のキャリアプランもあわせてご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
*1:2023年11月時点の「ドクタービジョン」掲載求人をもとに、平均値を算出しています。
執筆者:中山 博介
小児科医の年収は低いのか?
全診療科の平均年収が1,846万円 であるのに対し、小児科医の平均年収は1,805万円とやや低めです。
診療科別にランキングにすると、小児科は下から6番目となっています。
【診療科別】平均年収ランキング*1
順位 | 診療科 | 平均年収 |
---|---|---|
︙ | ︙ | ︙ |
14位 | 小児科 | 1,805(1,805.2) |
15位 | 耳鼻咽喉科 | 1,805(1,804.6) |
16位 | リハビリテーション科 | 1,793 |
17位 | 病理科 | 1,778 |
18位 | 放射線科 | 1,768 |
19位(本調査における最下位) | 臨床検査科 | 1,534 |
あくまで小児科医全体の平均であり、とくに小児科の場合は小児外科や新生児科のほか、循環器内科や眼科、泌尿器科など専門領域が細分化されているため、領域によっても年収額が異なります。ほかにも所属する医療機関、働き方、年齢、役職、専門医や指導医などの資格やスキルによっても大きく変わるため、平均年収はあくまで目安ととらえながら読み進めてください。
年収の分布については、少し古い調査になりますが(2012年)、労働政策研究・研修機構の『勤務医の就労実態と意識に関する調査』*2が参考になります。小児科医169名について、年収300万円未満は2.4%、300~500万円未満は7.7%、500~700万円未満は5.9%、700~1,000万円未満は14.8%、1,500万円未満は33.1%、2,000万円未満は28.4%、2,000万円以上は7.7%でした。
【小児科】主たる勤務先の年収*2
労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」をもとにドクタービジョン編集部作成
https://www.jil.go.jp/institute/research/2012/documents/0102.pdf
半数以上が1,000万円以上の年収を得ている一方、全体の傾向としては調査当時の全診療科平均値1,506万円*3より低い水準と言えるでしょう。
その理由は、主に2つあると考えられます。
①時短勤務や非常勤勤務の医師が多い
②女性医師が多い
この2つについて、考察してみましょう。
①時短勤務や非常勤勤務の医師が多い
小児科の平均年収が低い要因の一つとして、時短勤務や非常勤勤務の医師が多いことが挙げられます。
厚生労働省が2018年に実施した調査*4によれば、全診療科の常勤医師数を100%としたときの非常勤医師数は18.2%でした。一方、日本小児科学会の調査*5によれば、常勤医師のうち時短勤務医師の割合は4.8%、非常勤医師は47.5%でした。とくに地域の比較的小規模な病院でこの傾向がより強くなっており、地域の小児医療が時短や非常勤勤務医で支えられていることがわかります。
こうした勤務形態は労働時間が少ない分、医療機関から得られる給与も少ない傾向にあります。これが小児科医全体の平均年収額を下げている理由の一つと考えられます。
②女性医師が多い
女性医師が多い点も、小児科の平均年収額が低い要因の一つです。
女性医師は、出産や育児などのライフイベントを理由に時短勤務や非常勤・アルバイト勤務をするケースが多く、年収が下がってしまう傾向にあります。
厚生労働省の調査*6によれば、全診療科における女性医師の割合22.8%に対し、小児科においては病院で37.2%、診療所で34.0%と、いずれも平均を大きく上回っています。
また、日本医師会が2017年に実施した女性医師の勤務環境に関する調査*7では、全診療科における女性医師の常勤・時短勤務・非常勤の割合がそれぞれ75%、3.2%、18%(残りは研修医8.8%)であるのに対し、小児科における女性医師の常勤・時短勤務・非常勤の割合はそれぞれ61.1%、7.9%、31.0%*5でした。
【女性医師の割合と勤務形態の傾向】
※表内は同一調査の結果比較ではありません。
全診療科 | 小児科 | |
---|---|---|
女性医師の割合 | 22.8%*6 | 病院:37.2%*6 診療所:34.0%*2 |
常勤 | 75%*7 | 61.1%*5 |
時短勤務 | 3.2%*7 | 7.9%*5 |
非常勤 | 1.8%*7 | 31.0%*5 |
下記資料をもとにドクタービジョン編集部作成
*5:日本小児科学会「小児医療提供体制調査報告 2019/2020」(調査年:2019・2020年)
*6:厚生労働省「令和2(2020)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況調査」(調査年:2020年)
*7:日本医師会「女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書」(調査年:2017年)
こうした複数の調査結果から、小児科には女性医師が多く、ほかの診療科の女性医師よりも時短勤務や非常勤勤務をする医師の割合が高いことがわかります。平均年収が低くなりやすい一方で、多様な働き方を実践している医師が多い点は小児科の魅力の一つとも言えるでしょう。
小児科医の働き方による年収や仕事内容の違い
小児科医の主な働き方として、以下の3つがあります。
- 勤務医(常勤)
- 勤務医(非常勤)
- 開業医
働き方によって、年収や仕事内容が異なります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
勤務医(常勤)
小児科医の一般的な勤務形態は、病院や診療所の勤務医(常勤)です。
病院勤務では入院や手術が必要な患者さんの対応が求められるため、経験を積むためには良い環境ですが、入院病床数や日当直対応が多いほど多忙になります。
常勤医が主たる勤務先で日直(祝休日などの日中に勤務)や宿直(夜間勤務)が必要とされる割合は、日直は73.6%、宿直は71.7%*2でした。2012年の調査データなので現在の数値は変わっているかもしれませんが、東京23区や政令指定都市以外の地域で、かつ過疎地域にある病院ほどこの割合は高い傾向があり、その点は現在も変わっていないと推察されます。
一方で、厚生労働省の2019年の調査*8では、病院常勤医の1週間の平均労働時間(宿日直含む)は、全診療科で56時間22分であったのに対し、小児科では54時間15分でした。また興味深いことに、2012年時点の給与・賃金に対する満足度アンケート*2では、小児科が全診療科中1位でした。
調査年にばらつきはありますが、常勤の小児科医は、ほかの診療科と比べて労働時間が少なく、給与の満足度も高いと言えます。
なお、入院設備のないクリニックや救急車を受け入れない医療機関などは、診療時間中は忙しくても病院勤務よりは業務量が少ないことから、プライベートの時間が確保されやすい傾向にあります。ただしその分給与が低くなりやすいことも理解しておきましょう。
勤務医(非常勤)
先述のとおり、小児科医は他科と比べて非常勤で働く医師が多くいます。その理由は先に挙げた「女性医師の割合が多い」ことに加えて、「業務内容的に非常勤や時短勤務のニーズが高い」ことがあります。
女性医師の場合、妊娠・出産を機に働き方を見直し、復帰後は病棟管理や救急対応を求められない非常勤医として働くことを考える人が少なくありません。小児科は、その選択をしやすい環境にあります。
外来診療はもちろんのこと、乳幼児健診や予防接種の実施などさまざまな業務がある小児科において、非常勤は病院側にとっても非常に助かる存在です。
また、子どもが成長して手がかからなくなれば、常勤への移行も打診できます。将来常勤医として働きたい医師であれば、非常勤で慣れた職場でそのまま働くことができるため、お互いにメリットがあると言えるでしょう。
常勤と比べると給与は低くなりやすいですが、プライベートの時間をしっかり確保できる上、病院内でも医師としてしっかり貢献できる点が魅力です。
開業医
開業医となって、自身でクリニックを開設する選択肢もあります。
医師かつ経営者として働くことになるため、業務内容も増えるのが特徴です。厚生労働省の2019年の調査報告*9では、小児科の開業医の平均年収は約3,068万円であり、小児科医全体の平均年収を大きく上回っています。
主な業務には外来診療全般、乳幼児健診、予防接種などがあり、近隣の学校や幼稚園などの集団健診を担当することもしばしばあるでしょう。専門的な検査や治療が必要な場合は、地域の中核病院へ紹介することも大切な仕事です。
医師としての業務以外にも、人材確保などクリニック経営の業務もあり多忙ですが、その分経営が軌道に乗れば勤務医より高い年収を狙えるでしょう。
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小児科医の年収の展望とまとめ
全診療科の中では、小児科医の平均年収は高くはありませんが、時短勤務や非常勤などライフスタイルにあった多様な働き方ができ、また開業で高収入を狙える点が魅力です。
平均収入に対する満足度が全診療科中最も高いという調査結果があることからも、仕事にやりがいを感じている医師が多いのではないでしょうか。
一方で、日本の若年(15歳未満)人口は2005年の1,759万人(総人口の13.8%)から、2050年には821万人(同8.6%)にまで減少する見通しです。しかし小児科医の数は年々増加しており、今後少なくなっていく小児の患者さんに対応し続けることは非効率、かつ経営維持も困難となる病院が出てくるでしょう。とくに、一般診療を主体とする開業医は将来収入が減る可能性があります。
2024年度から運用が始まる「第8次医療計画」では、医療の質の確保や経営の健全化、医師の働き方改革推進のため、小児医療を提供する医療機関の集約化・重点化が示されています。
とはいえ小児疾患がなくなるわけではなく、より専門性の高い医療を提供できる医師であれば、今後も好条件で求められるでしょう。
これからの少子高齢化に備えて、サブスペシャルティ資格の取得など、5〜10年後の働き方を見据えたキャリアプランを考えながら職場を選ぶ必要があるのではないでしょうか。この記事がそのお役に立てば幸いです。
執筆者:中山 博介
神奈川県の急性期病院にて、臨床医として日々研鑽を積みながら医療に従事。専門は麻酔科であり、心臓血管外科や脳神経外科・産婦人科など幅広い手術の麻酔業務を主に担当している。
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