産婦人科は妊娠・出産や女性特有の疾患を扱う診療科であり、なにより生命誕生の瞬間に立ち会うことができるため、とてもやりがいがあります。2022年4月から不妊治療が保険適用となったことで、さらなる需要拡大が期待される診療科です。
他科と比べて女性医師の割合も高く、女性が働きやすい点も魅力です。しかし、帝王切開や卵巣捻転などの緊急対応が求められるため、当直・オンコール業務も多く、訴訟リスクも高いと言えます。こうした特性から、とくに人材不足が顕著な地方では平均年収が高くなる傾向にあります。
この記事では、産婦人科医の平均年収について考察します。勤務医と開業医の違いのほか、業務内容や転職時のポイントについても紹介しますので、産婦人科医として今後のキャリアプランを考えている方はぜひご参考ください。
*1:2023年11月時点の「ドクタービジョン」掲載求人をもとに、平均値を算出しています。
執筆者:中山 博介
産婦人科医の平均年収
産婦人科医の平均年収は1,921万円であり、全診療科の平均年収1,846万円を大きく上回る結果でした*1。美容皮膚科や泌尿器科に次いで平均年収が高い診療科です。
【診療科別】年収ランキング*1
順位 | 診療科 | 平均年収(万円)*1 |
---|---|---|
1位 | 皮膚科 | 2,145 |
2位 | 形成外科 | 2,032 |
3位 | 泌尿器科 | 1,929 |
4位 | 産婦人科 | 1,921 |
5位 | 整形外科 | 1,915 |
地域別に見てみると、かなり地域差があることがわかります。
【地域別】産婦人科の年収ランキング*1
全国/地域 | 産婦人科医の平均年収(万円)*1 |
---|---|
北海道 | 1,894 |
東北 | 1,675 |
関東 | 2,097 |
北陸・信越・東海 | 1,850 |
近畿 | 1,965 |
中国・四国 | 1,881 |
九州・沖縄 | 1,664 |
全国平均 | 1,921 |
関東地方では、茨城県・栃木県を除くすべての都道府県で2,000万円を上回っており、最も高いのは神奈川県で2,108万円でした。
一方で西日本、とくに九州地方では1,500万円台の県もあり(福岡県・佐賀県・宮崎県)、全国平均を大きく下回っています*1。
しかし、この金額はあくまで平均値です。実際は働く地域だけでなく、働き方や年齢によっても大きく異なるため、上記はあくまで目安ととらえましょう。
産婦人科医の平均年収はなぜ高い?
産婦人科の平均年収が高い水準にある背景には、激務である点や訴訟リスクが高い点、人材不足などが挙げられます。
激務である
緊急の帝王切開や、卵巣捻転などの疾患を取り扱う産婦人科医は、オンコールや当直業務の頻度が高く、その分給与が高い傾向にあります。
訴訟リスクが高い
日本産婦人科医会の報告*2によれば、2021年に訴訟当事者になった医師の割合は、内科で0.20%、外科で0.24%であったのに対し、産婦人科は約0.30%であり、訴訟リスクが高いことは否定できません。
人材不足
産婦人科の医師数自体は、研修プログラムの整備などによって近年増加傾向にありますが、地方では依然として人材不足が問題視されています。こうした医師偏在を理由に、高待遇で産婦人科医を確保する医療機関も少なくありません。
産婦人科医の業務内容と年収
勤務医の場合
病院などの産婦人科で働く勤務医の主な業務内容は、一般的な外来はもちろんのこと、ハイリスク妊娠の管理や腫瘍に対する手術、不妊治療など、多岐にわたります。
開業医では経験する機会の少ない悪性腫瘍の手術や緊急症例への診療を経験できるため、研鑽を積むにはこの上ない環境です。
一方で、帝王切開や卵巣捻転など、緊急性の高い手術に日夜問わず対応する必要があるため、当直やオンコール業務が多く、プライベートな時間を確保しにくい傾向があります。
とくに女性医師の場合、出産や育児などのライフイベントと仕事の両立が難しいことが、これまで問題視されてきました。これに日本産婦人科学会は早期から対策に取り組んでおり、近年では産婦人科の勤務医でも多様な働き方が可能となっています。
気になる年収については、少し古いデータにはなりますが、労働政策研究・研修機構の調査(2012年)*3で産婦人科医の勤務医の平均年収は約1,466万円でした。同調査では、全診療科の平均年収は1,261万円であり、他科と比べれば高い数値ですが、同じ産婦人科の開業医(後述)と比較すると低い傾向です(ちなみに全診療科平均の2023年の調査結果*4では、病院勤務医の平均年収は約1,461万円、一般診療所では1,119万円でした)。
開業医の場合
産婦人科の開業医の業務は、地域の患者さん一人ひとりの健康を守ることです。婦人科健診や産科健診、薬物療法、ピル処方、分娩などが主な業務内容となります。
最近では、不妊治療を中心とした生殖医療や、女性特有の疾患に対する予防医学を主とした女性医学(女性ヘルスケア)を軸に開業される方も少なくありません。
勤務医とは違い、時間外や夜間の緊急対応は行わないことがほとんどで、育児などのプライベートと仕事を両立しやすい環境にあります。
一方で、経営者として医業以外の業務の負担が増える点に注意が必要です。
開業医の年収は、厚生労働省の『医療経済実態調査』から読み取ることができます。入院診療を行っていない産婦人科医(開業医)の収益は約4,898万円*4でした。
最近は不妊治療が保険適用となったことで、さらなる需要増も期待されます。不妊治療に対応している開業医は、より高年収を狙えるでしょう。
転職時のポイント
今より高い年収を望む場合は、転職が近道です。ここでは、産婦人科医が転職する際に確認したいポイントを紹介します。
ワークライフバランス
産婦人科医として仕事を長く続けるためにも、転職時はワークライフバランスをチェックしましょう。
産婦人科医は多くの医療機関で不足傾向にあり、激務になる可能性もあるためです。とくに出産を考えている方や育児中の方は、当直の有無や産後の復職支援、育児に対するサポート体制、院内保育園の有無などについて、細かく確認しておくことが大切です。
産科であれば、医師数と年間の分娩件数から、労働環境を大まかに把握できるでしょう。
分娩や手術を行わない婦人科クリニックや不妊治療専門クリニックは、当直・オンコール・残業は少ないとされています。不妊治療専門クリニックも残業はほとんどありませんが年収は高いため、とくに高い人気があります。
働きやすいクリニックは求人が出ても早く埋まるため、求人情報をこまめにチェックしましょう。
施設形態
施設形態も転職先の重要な要素です。病院とクリニックでは、求められるスキルや得られる経験が異なります。
病院は基本的に年収が高く、仕事の強度は高いものの、経験値を上げることができます。
一方、クリニックの勤務医は、高年収は求めづらく、扱う症例も限られますが、患者さん一人ひとりと距離が近く、丁寧に診察にあたることができます。緊急性の高い患者さんを対応する機会は少ないため、精神的な負担も少なくなりやすいでしょう。
転職コンサルタントの活用
自分一人の力では、たくさんの医療機関の中からニーズに合う職場を探すのは困難です。転職サイトやコンサルタントの活用も検討しても良いでしょう。とくに下記のような方は、コンサルタントの活用がおすすめです。
- 転職の仕方がわからない
- 日々多忙で転職活動に時間を割けない
- 条件交渉が苦手
能力や希望条件にマッチする求人を紹介してもらえるほか、第三者に相談することで思考の整理ができたり、鮮度が高い転職情報を得られたりすることも、コンサルタントを利用するメリットでしょう。
女性の生涯に必要不可欠な産婦人科医
産婦人科は平均年収が高い上に、とくに出産や育児を考えている女性医師にとっては働きやすい診療科です。業務がハードなイメージは根強くあるものの、生殖医療や女性医学(女性ヘルスケア)など、何を専門としていくかによっては、仕事とプライベートのどちらも充実させられます。
年収を上げる手段として開業もありますが、地域や診療内容によっては、勤務医のままでも転職で年収アップがかないます。
近年はライフスタイルの多様化で晩婚化が進み、不妊治療のニーズが高まっています。産婦人科医の活躍は今後もますます期待されるでしょう。この記事が産婦人科医の皆さまや、産婦人科の専攻を考えている方のお役に立てば幸いです。