アドバンス・ケア・プランニング(ACP/人生会議)とは?医師向けにガイドラインのポイントを解説

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医療知識

公開日:2024.06.07

アドバンス・ケア・プランニング(ACP/人生会議)とは?医師向けにガイドラインのポイントを解説

アドバンス・ケア・プランニング(ACP/人生会議)とは?医師向けにガイドラインのポイントを解説

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは、人生の最終段階についてまわりの人々と共有する取り組みのことで、日本語で「人生会議」とも呼ばれます。神戸大学の木澤義之先生はACPについて「いのちの終わりについて話し合いを始める*1ことと表現しています。

勤務医の皆さんは「DNAR」という言葉(心肺蘇生を行わないこと)に日常的に接していると思いますし、終末期医療の現場では患者さんやご家族の意思を尊重することが当たり前となっています。しかし、いざそのときが来ても、事前の相談や検討が足りないと、適切な意思決定はできません。突然の病状変化などで意思決定が間に合わず、患者さんやご家族の希望に合わない措置になってしまうこともあるでしょう。

ACPは、そうならないように準備しておくことであり、そこに医療者が果たす役割は小さくありません。この記事ではACPの概要と関連ガイドラインのポイントについて紹介します。

アドバンス・ケア・プランニングとは

アドバンス・ケア・プランニングについて考える老夫婦

アドバンス・ケア・プランニング(ACP:advance care planning)は、高齢化社会で在宅や施設における看取りが増える中で必要とされている考え方・取り組みです。厚生労働省は2018年に「人生会議」という愛称も設けるなどし、ACPの普及・啓発に尽力しています。

人生の最終段階で意思決定を支援する

ACPの定義として、文部科学省の検討会は「人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス*2と説明しています。

終末期医療の在り方については以前から議論があり、とくに延命治療の是非については広く論じられてきました。近年では治療方針に患者さんや家族の意向を反映することが一般的になっています。

病院での医療のみならず、在宅医療や看護・介護においても、人生の最終段階でどのようなケアを受けたいのか事前に話し合っておくことは重要です。これがACPの概念です。

ACPは終末期医療に限らず、救急医療の現場でも必要です。不測の事態はいつ来るかわかりません。一人ひとりが事前に検討し、プランを立てておく必要があるのです。

しかし、話し合っておく・意思決定をしておくといっても、医療知識を持たない患者さんが必要十分に検討できるとは限りません。また、いざというときにどうしたいかは時間とともに変わっていくこともあるでしょう。ACPは専門家として「医療・ケアチーム」が加わること、"繰り返し"話し合うことの必要性を強調しています。

AD・リビングウィル・委任状との違い

ACPと似た概念・言葉に「アドバンス・ディレクティブ」(AD:advance directive、事前指示)があります。終末期ケアについて自分の意思を記録したもので、「リビングウィル」や「医療に関する委任状」などが含まれます。

リビングウィルは患者さんがどのような治療を希望するか医師に伝える書面、委任状は医療に関する決定を代理人に委ねる文書です。

ADには、一度書いてしまうと修正が簡単ではない、医療知識がない状態で判断せざるを得ないといったデメリットがあります。ACPは医療・ケアチームや家族・親しい人など複数人で作り上げることと繰り返し話し合うことを通して、こうした問題をクリアすることができます。

生命倫理の4原則

ACPの考え方の前提には「生命倫理の4原則」があります。1979年にBeauchamp(ビーチャム)とChildres(チルドレス)が提唱した、医療や医学研究において守るべき原則です。

  1. 自律の尊重(respect for autonomy):患者さん自身の決定や意思を大切にして、患者さんの行動を制限したり、干渉したりしないこと
  2. 無危害(non-maleficence):患者さんに危害を及ぼさないこと
  3. 善行(beneficence):患者さんのために最善を尽くすこと
  4. 公正(justice):患者さんを平等かつ公平に扱うこと
参考:日本医療教育財団「医療通訳」第2部 3-1.医療倫理
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000385186.pdf

ACPでもこの原則を守るため、時間をかけた慎重な検討が必要になります。

アドバンス・ケア・プランニングのガイドラインとそのポイント

それでは、実際に私たち医療者がACPに携わるには、どうすれば良いのでしょうか。参考にしたいのが、厚生労働省と日本医師会が作成・公開しているガイドラインです。その具体的な内容とポイントを見ていきましょう。

人生の最終段階における医療・ケアの在り方

ベッドサイドに立つ孫に微笑む高齢女性

ACPの重要性を強調しているのが、『人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン』です。2018年に『終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン』を改訂したもので、「終末期医療」から「人生の最終段階における医療」へ名称を変更した理由について「最期まで本人の生き方(=人生)を尊重し、医療・ケアの提供について検討することが重要であることから*2と説明しています。

前述のとおり、病院における延命治療だけでなく在宅医療や介護の現場で役立てることも想定されており、次の4点を「人生の最終段階における医療・ケアの在り方」としています。

人生の最終段階における医療・ケアの在り方

① 人生の最終段階での医療・ケアは、医療従事者からの情報提供と説明に基づく本人の意思決定が中心です。本人の意思は変わる可能性があり、家族も含めた繰り返しの話し合いが重要になります。本人が意思を伝えられなくなることも想定し、信頼できる家族を意思推定者として定めることも大切です。

② 人生の最終段階の医療・ケアでは、医療行為の開始・中止などは医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性を基に慎重に決定すべきです。

③ 医療・ケアチームは、疼痛や不快な症状の緩和および本人・家族への精神的・社会的援助を含めた総合的なケアを行う必要があります。

④ 本ガイドラインでは、生命を短縮させる意図のある積極的安楽死は対象外です。

文部科学省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン 解説編」p.3~4をもとに筆者要約
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197702.pdf

前述のとおり、ここでも"繰り返し"の話し合いが重要であること医療・ケアチームの介入が必要であることが強調されています。

人生の最終段階における医療・ケアの方針の決定手続き

続いて、ACPの方針を決める手続き(プロセス)について、患者さん本人の意思を確認できる場合・できない場合に分けて見ていきましょう。

本人の意思を確認できる場合

方針の決定には、医療従事者による専門的な検討と本人への適切な情報提供・説明が必要です。本人と医療・ケアチームの合意に基づいた意思決定を基本とします。

本人の意思は時間の経過や心身状態の変化により変わる可能性があるため、医療・ケアチームはその都度、家族を含む話し合いを繰り返すことで本人が意思を示せるようにする必要があります。話し合った内容は文書に記録します。

本人の意思を確認できない場合

本人の意思を推定できる場合は、その推定意思を尊重して最善の方針を決定することを基本とします。

推定できない場合は、家族との話し合いを通じて本人にとっての最善の方針を追求し、必要に応じてこのプロセスを繰り返します。家族などが不在、または家族が判断を医療・ケアチームに委ねる場合も、本人にとっての最善を基本とします。こちらも話し合った内容は文書に記録します。

複数の専門家からなる話し合いの場の設置

方針の決定が困難な場合、たとえば医療・ケアチーム内で意見をまとめるのが難しいケースや、本人や家族との合意形成が得られないケースでは、複数の専門家による話し合いの場を設け、チーム外の人も交えた検討が必要になります。

ACPは医療だけでなく、倫理的・社会的・心理的なアプローチなど、あらゆる領域からの全人的な対応が求められます。多職種連携が必須であることは言うまでもありません。医師には医療・ケアチームの中心的な役割が求められますが、状況を冷静に見極め、専門家(医療倫理の専門家や国の研修会修了者など)に必要な助けを求めることも重要と言えるでしょう。

延命措置の中止について

終末期医療や救急医療では、蘇生の見込みが得られない場合など、一度開始した延命措置をいつまで続けるのか・中止して良いのか、判断が難しいことがあります。日本医師会の『人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドライン』では、延命措置の中止について以下のように記載されています。

患者が延命措置を望まない場合、または本人の意思が確認できない状況下で ACP等のプロセスを通じて本人の意思を推定できる家族等がその意思を尊重して延命措置を望まない場合には、このガイドラインが示した手続きに則って延命措置を取りやめることができる。それについて、民事上及び刑事上の責任が問われるべきではない。

日本医師会「人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドライン」(令和2年5月)p.8より引用
https://www.med.or.jp/dl-med/doctor/r0205_acp_guideline.pdf

見通しの厳しい延命措置は、患者さんだけでなく、医療者にとってもつらいものです。もちろんケースバイケースの判断になりますが、延命措置を中止する検討が必要になることもあります。その場合はガイドラインに則って手続きを進める必要があります。

まとめ

アドバンス・ケア・プランニングにチームでのぞむ3人の医師

アドバンス・ケア・プランニングの概要と、各種ガイドラインのポイントについて紹介しました。高齢の患者さんが増える中、人生の最終段階を迎える方の意思決定に医師が関わるべき場面は増えています。科にかかわらず、主治医として、チームの一員として、自分が果たすべき役割を見直してみてはいかがでしょうか。

Dr.Ma

執筆者:Dr.Ma

2006年に医師免許、2016年に医学博士を取得。大学院時代も含めて一貫して臨床に従事した。現在も整形外科専門医として急性期病院で年間150件の手術を執刀する。知識が専門領域に偏ることを実感し、医学知識と医療情勢の学び直し、リスキリングを目的に医療記事執筆を開始した。これまでに執筆した医療記事は300を超える。

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