本記事は、ドクタービジョンで2024年9月に開催したウェビナー
『勤務医のための働き方とお金のリテラシー』の一部を書き起こし、加筆したものです。

皆さま、はじめまして。産業医を本業として活動しております、平野と申します。本日は「働き方改革」時代に知っておきたい、働き方とお金のリテラシーというテーマで、お金のことだけでなく、働き方も含めた総論的な内容を、皆さまにご紹介できればと考えております。
勤務医も「労働者」である
労働者の定義は、基本的には労働基準法に則っています。第九条には、労働者は「職業の種類を問わず、事業又は事務所(に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」*と書かれています。
つまり病院に雇われている、病院と雇用契約を結んで働いている方は、医師であっても看護師であっても薬剤師であっても、基本的には「労働者」です。
対照的なのが、第十条で定められている「使用者」です。事業主とか経営担当者、つまり開業医さんや、ご自身が院長として病院や医院の経営をしている立場の先生であれば、この「使用者」側になりますので、医師であっても労働者ではないということになります。
たとえば「バイト医」と言われる方や、内視鏡のパート・アルバイトをやっているという方もいると思いますが、正社員や嘱託社員、契約社員などさまざまな形を含めて、雇われて使用される側であれば「労働者」です。
読めますか?「給与明細」
さて、ここまでの労働条件の話をちゃんと理解した上で、「給与明細」を読んでほしいんですね。自分の労働条件がどうなっているのか、そして給与明細がどうなっているのか。
けれどもおそらく皆さん、「労働条件通知書、家のどこにあったっけ...」ってなると思います。毎月受け取っている給与明細から見て行くほうが受け取りやすいかなと思いますので、労働法規の話は頭に置いた上で、ここからは給与明細の話をしっかりしていきたいと思います。
給与明細の全体像を理解する
給与明細のモデル書式を見てみます。通常こんな感じになっています(下図)。
一番上の勤怠の部分に深夜残業時間や休日出勤時間がなぜ書かれているのか。先ほどお話しした「割増賃金」を計算するためなんですね。
講演映像より
そして真ん中に支給額、下のほうに控除額といって、引かれる額が書かれています。
これだけ見ると、なんか言葉が多いなあと思うわけですね。ちゃんと整理するために、図にしてみました(下図)。大体こんなイメージと思ってもらって大丈夫です。
講演映像より
シンプルに言うと総支給額、皆さんが「額面」と言うものと、差引支給額、いわゆる「手取り」があります。手取りは自分の手元にどれくらい入ってきているか、ですね。この2つの言葉の関係性を、この図に表しています。
総支給額は、基本給、つまり皆さんがもらえる基本のお給料から、手当と呼ばれるものが付いて決まります。あとで説明しますが、このうち通勤手当だけ非課税になりますので、それ以外のものが「課税支給額」になっています。
そこから(図の)階段のところ、社会保険料、所得税・住民税などの税金、そして会社でかかっている諸費用を「控除額」と言います。要は、皆さんが給料をもらう前に、会社や国によって引かれる分ですね。これを引いた残りが差引支給額、つまり手取りが見えてくるわけですね。
ここまでで給与明細が見えてきましたか...?いや、これだけで見えるわけがないと思うので、ここからさらにちゃんとご説明していこうと思います。
「給与」の中身
まずは「入ってくるお金」から見ていきましょう。給与のもっとも基本となるのが「基本給」です。時給1,000円であれば1,000円×労働時間、時給10,000円であれば10,000円×労働時間の金額が、皆さんの手元に入ります。
しかし、基本給だけで給与は決まらないんですね。勤続手当、役職手当、地域手当、資格手当、危険手当、家族手当、住居手当などなど、いろんな「固定手当」が乗ってきます。
基本給と固定手当がなぜ違うかというと、一つは基本給がボーナス算定の基準になることです。そして、基本給は基本的には労働者同士で平等です。
たとえば養っている家族がどれくらいいるかとか、仕事で放射線を浴びているかとか、役職や役割、属性といった個人の状況に合わせるためのものが手当なんですね。
ただし、同じ手当でも、固定手当に該当しないものもいくつかあるんです。一つは「通勤手当」です。通勤は当然、人それぞれ距離が違いますが、働くために必ずかかるものなので、実態に応じて支払われるべきものです。実際の通勤代を会社がカバーしているだけなので、非課税として税金が取られない形での支払いが認められています。
それから、先ほど出てきた「労働契約」上の「時間外(残業)手当」「休日手当」「深夜手当」。実態によって毎月金額が変わるため「変動手当」と呼ばれます。これも当然、毎月支払われるべきものとして給与に乗ってくるものです。
この変動手当の一つとして、労働基準法に定めはないけれども支払われるのが「宿日直手当」です。1日給与の3分の1以上が支払われます。
固定手当はその月に支払われるのですが、変動手当は「月末締め・翌月払い」のことが多いので、注意が必要です。
ちなみに私の昔の給与明細を見ると、2020年の3月に研修医を退職し、その次の4月の給与明細で当直手当と超勤手当、つまり時間外の当直代が、別で入ってきています。このように月末で締めて翌月払いになるので、勤務最初の月は残業代が入らないですし、辞めた次の月に残業代だけ支払われる、ということがあります。
講演映像より
さて、ここまでで画像の左端、赤くした部分をご理解いただけたでしょうか。基本給に加えて固定手当が、毎月必ず入ってくるものと思って良いです。それに残業した分、当直した分と、通勤代が乗ってきて、総支給額=額面が決まります。
ぜひ給与明細の真ん中の「支給額」のところを、ご自身の給与明細と見比べながら、こうなっているんだとイメージしていただけると、次の話に進みやすくなるかと思います。
さて、次は「天引きされるお金」です。皆さんが知らないうちにそこそこのお金が引かれているわけですが、これは少ないほうが良いのでしょうか?
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ここまで、平野翔大先生のご講演の一部をご紹介しました。
本ウェビナーのアーカイブ動画を用意していますので、続きが気になる方はぜひご利用ください。(32:06~)
平野 翔大
産業医/産婦人科医/医療ジャーナリスト/
「医師100人カイギ」キュレーター/Affiliated Financial Planner
慶應義塾大学医学部卒業後、産婦人科医を経て現在は産業医として活動。またヘルスケア事業コンサルティングも行い、男性の育児・育休、働き方改革、女性の健康経営やDE&I、不妊治療や健康管理など幅広いテーマを扱う。単著『ポストイクメンの男性育児』(中公新書ラクレ)はじめ、多数のweb記事執筆・講演も行う。