「DPC制度」とは?医師向けにわかりやすく解説―対象や診療報酬算定の具体例

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公開日:2024.07.01

「DPC制度」とは?医師向けにわかりやすく解説―対象や診療報酬算定の具体例

「DPC制度」とは?医師向けにわかりやすく解説―対象や診療報酬算定の具体例

入院患者さんの診療報酬請求がどの程度あり、実際にいくら負担しているかを考えたことはあるでしょうか。急性期病院の多くが包括支払い制度として利用しているのが「DPC制度」です。うまく活用すれば医療費を抑制でき、患者さんや病院の利益につながります。また、DPCのデータは臨床疫学研究にも用いられ、医学の発展にも貢献しています。

この記事ではDPC制度とは何か、わかりやすく解説します。

三田大介医師プロフィール写真

執筆者:三田 大介

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DPC制度とは

DPC制度は診断群分類を利用した診療報酬算定制度の一つです。「DPC/PDPS」(Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System)とも表現されます

DPCは「Diagnosis Procedure Combination」の略称で、「Diagnosis」(診断)と「Procedure」(診療行為)の「Combination」(組合せ)*による、日本で開発された患者分類手法(診断群分類)のことです。

厚生労働省令和6年度診療報酬改定の概要資料p7_DPCの基本構造

厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅴ(DPC/PDPS・短期滞在手術等)】」(令和6年3月5日版)p.7より
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001221678.pdf(2024年7月1日閲覧)

この分類に基づき策定されている包括支払い制度 (定額報酬算定制度)が「DPC制度」です。

※DPC制度を「DPC」と略し、DPCの本来の意味(診断群分類)と混在するケースがあったことから、2010年の厚生労働省分科会で定義が再確認され、DPC制度の略称は「DPC/PDPS」と表現することになりました。

DPC制度と診療報酬との関係

DPC制度(DPC/PDPS)は2003(平成15)年に導入されました。簡単に言うと「この疾患でこの処置を行った場合の診療報酬は○点」というのが細かく定められており、これに沿って診療報酬を請求していく制度です。

前述のとおりDPCに基づく制度のため、入院期間中に医療資源を最も投入された傷病名(ICD-10による定義)と提供された手術・処置などの診療行為(診療報酬上の医科点数表上の区分(Kコードなど))で診療報酬が決まります。

報酬額は、DPCごとに設定される包括評価部分と、出来高評価部分の合計額です。DPC制度の対象病院であれば、在院日数に応じた3段階の定額点数に、医療機関ごとに設定される医療機関別係数を乗じた点数を算定できます。

厚生労働省令和6年度診療報酬改定の概要資料p9_DPC/PDPSにおける診療報酬の算定方法概要

厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅴ(DPC/PDPS・短期滞在手術等)】」(令和6年3月5日版)p.9より
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001221678.pdf(2024年7月1日閲覧)

DPC制度の細かな内容は診療報酬改定のたびに見直されます。2024(令和6)年度の改定でも、DPC対象病院の基準、医療機関別係数、診断群分類が見直されました。

DPC制度のメリット・デメリット

DPC制度のメリットとしては、定額制のため全体としてコスト削減になり、過剰診療を避けることで医療を効率化できることが挙げられます。入院期間Ⅰのうちに入院診療を終えることができれば収益性も高くなります。また、データによる標準化がされやすいことも利点です。

対してデメリットとしては、定額ゆえに過小診療になるリスクがあります。ある検査を行った方が良い場合でも、包括評価では検査の有無にかかわらず得られる診療報酬は一定だからです。また、何らかの理由(退院調整など)で入院が長引くと、収益性も下がってしまいます(後述)。

DPC制度の実際

Hospital recovery room with beds and chairs

DPC制度の対象

DPC制度に参加する病院は、2003年より段階的に増えてきました。2024年6月1日時点の見込みで1,786病院、約48万床にのぼり、これは急性期一般入院基本料等に該当する病棟の約85%を占めます*

このうち、「DPC算定病床」と呼ばれる病床(DPC制度の算定対象となる病床の区分)には以下のようなものがあります(一部抜粋)。

  • 一般病棟入院基本料
  • 特定機能病院入院基本料
  • 専門病院入院基本料
  • 救命救急入院料
  • 特定集中治療室管理料
  • 新生児特定集中治療室管理料
  • 総合周産期特定集中治療室管理料 など
出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅴ(DPC/PDPS・短期滞在手術等)】」(令和6年3月5日版)p.5
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001221678.pdf(2024年7月1日閲覧)

DPC制度の対象は一般病棟ですが、障害者施設等入院基本料や回復期リハビリテーション病棟入院料、緩和ケア病棟入院料などを算定する病棟は対象になりません。精神病棟、結核病棟、療養病棟なども一般病棟の定義には含まれませんので、DPC制度の対象とはなりません。

DPC制度の包括範囲

前述のとおり、包括評価は病院設備を使用した対価とする"ホスピタルフィー"的な報酬なのに対し、出来高評価は患者さんの状態や医療従事者の技術により算定される"ドクターフィー"的な報酬になっています。

DPC算定病床がいかなる場合も包括評価になるわけではありません。以下のような患者さんは、DPC算定病床に入院しても出来高評価となります。

DPC算定病床でも出来高評価となる患者

  • 出来高算定の診断群分類に該当する患者
  • 特殊な病態の患者(入院後24時間以内に死亡した患者、生後7日以内の新生児の死亡、臓器移植患者の一部、評価療養/患者申出療養を受ける患者 等)
  • 新たに保険収載された手術等を受ける患者
  • 診断群分類ごとに指定される高額薬剤を投与される患者
厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅴ(DPC/PDPS・短期滞在手術等)】」(令和6年3月5日版)p.5より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001221678.pdf(2024年7月1日閲覧)

対象項目については、以下に示す「出来高評価の対象項目」以外の入院料や検査・画像診断・投薬・注射・処置・薬剤料などはすべて包括評価になります。

出来高評価の対象項目

  • 入院料(患者ごとに算定される加算等)
  • 検査(心臓カテーテル検査、内視鏡検査、診断穿刺・検体採取料)
  • 画像診断 画像診断管理加算、動脈造影カテーテル法(主要血管)
  • リハビリテーション、精神科専門療法(薬剤料を除く)
  • 手術・麻酔・放射線治療
  • 病理診断(術中迅速病理組織標本作製、病理診断・判断料)
  • 薬剤料(HIV治療薬、血友病等に対する血液凝固因子製剤等)
  • 処置(1,000点以上処置、慢性腎不全で定期的に実施する人工腎臓及び腹膜灌流に係る費用)
出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅴ(DPC/PDPS・短期滞在手術等)】」(令和6年3月5日版)p.12
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001221678.pdf(2024年7月1日閲覧)

DPC制度による算定の具体例

ここからは、いくつかの疾患を例にDPC制度を具体的に見てみましょう。

※わかりやすいように医療機関別係数を1とし、包括評価部分を記載します。
※2024(令和6)年診療報酬改定に対応済みのソフトウェアを使用して計算・閲覧しました。
※実際の診療報酬では、包括評価に手術やリハビリなどの出来高評価部分が加わります。入院費には食事代や差額室料などがさらに加わります。これらを合算後、個人の状況に応じた自己負担や高額療養費制度などが適応されます。

誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎の診療は多くの医師に経験があるでしょう。診療報酬点数は以下のように定められています。

入院期間Ⅰ ~9日 3,004点
入院期間Ⅱ 10~19日 2,131点
入院期間Ⅲ 20~60日 1,812点

10日目以降から、1日あたりの報酬が大きく下がりますね。

「誤嚥性肺炎で入院し、人工呼吸器を使わずに7日間の抗菌薬加療を行い10日目に退院した場合」の包括部分の金額は以下のようになります。

{3,004(点)×9(日間)+2,131(点)×1(日間)}×10(円/点)=291,670円

神経調節性失神

続いて、入院期間Ⅰが短い疾患の例として神経調節性失神を見てみます。

入院期間Ⅰ ~2日 4,129点
入院期間Ⅱ 3~4日 2,287点
入院期間Ⅲ 5~30日 1,944点

入院期間Ⅰの報酬が高いのは、心原性失神の除外などを目的とする検査や、補液などの必要性が反映されているのでしょう。経過観察目的であれば、早めの退院を目指さないと1日あたりの入院料が大きく下がってしまいます。

虫垂炎

虫垂炎で手術を行う場合は以下のようになります。膿瘍を伴うか、結腸切除を行うかで期間と点数が異なります。

【手術なし】

入院期間Ⅰ ~4日 3,341点
入院期間Ⅱ 5~7日 2,225点
入院期間Ⅲ 8~30日 1,891点

【虫垂切除術(虫垂周囲膿瘍を伴わないもの等)】

入院期間Ⅰ ~2日 4,115点
入院期間Ⅱ 3~5日 1,854点
入院期間Ⅲ 6~30日 1,943点

【虫垂切除術(虫垂周囲膿瘍を伴うもの等)】

入院期間Ⅰ ~4日 4,114点
入院期間Ⅱ 5~9日 1,846点
入院期間Ⅲ 10~30日 1,980点

【結腸切除術(小範囲切除等)】

入院期間Ⅰ ~7日 3,590点
入院期間Ⅱ 8~14日 2,312点
入院期間Ⅲ 15~30日 1,965点

DPCデータの活用

DPCデータを活用する医療施設と通信ネットワークのイメージ

ここでは「DPC」そのものについても少しご紹介しましょう。冒頭で触れたとおりDPCは診断群分類であり、以下のようなデータが含まれているため臨床疫学研究にも活用されます

  • 医療機関情報
  • 患者基本情報(年齢、性別、入退院日・経路、救急搬送の有無、在院日数など)
  • 入院中に実施した検査・処置、使用した薬剤 など

従来の研究では、ランダム化比較試験(RCT)がエビデンスの創出に大きく寄与してきました。しかし、倫理的な問題やコスト面からRCTが行えない、RCTによる厳密な比較では実臨床と乖離してしまうなど、弱点もあります。

DPCデータのような「ビッグデータ」を用いた研究は、このような弱点を補完できる可能性があります。データへのアクセスや交絡因子の調整が必要となるデメリットもありますが、新たな知見が得られる研究分野として注目されます。

なお、一部のデータは「退院患者調査」として公表されています。診断群分類や医療機関ごとに集計されているので、興味のある方はのぞいてみるのも良いでしょう。

まとめ

今回はDPC制度やDPCの言葉の意味から、DPC制度の具体的な点数などを紹介しました。DPC制度は定期的に見直されており、詳細まで理解することは難しいでしょう。しかし病院の収益構造を知れば経営に貢献できるかもしれませんし、DPC制度を通して国が何を重視しているのか知ることもできます。医療ビッグデータの活用ともあわせて、知識を深めていくのが良いと思います。

三田 大介

執筆者:三田 大介

理学療法士から再受験し、現在はリハビリテーション科医師として病院勤務。より多くの人に正しい医療知識を届けたいとライター活動を開始。医師、理学療法士の両方の視点を活かしながら、企業などのオウンドメディアを中心に医療・健康に関する記事を執筆。


▶X(旧Twitter)|@sanda_igaku

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