求人者と求職者の適切なマッチングの促進に取り組む企業として認定されています。
医師がキャリアや働き方を考える上で参考となる情報をお届けします。
医療業界動向や診療科別の特徴、転職事例・インタビュー記事、専門家によるコラムなどを日々の情報収集にお役立てください。
高齢化に伴い、認知症の有病率は年々高まっています。医師をはじめとする医療従事者にとって、認知症の有無や程度は、患者さんの治療やケアの方針を決定する上で重要な要素です。患者さん本人だけでなく、家族の生活にも大きな影響を与えるため、継続的なサポートも必要です。
このような状況をふまえて2024年1月に施行されたのが、「認知症基本法」と呼ばれる法律です。この記事では一般医師向けに、この法律の概要を解説します。
執筆者:三田 大介
認知症基本法とは
認知症基本法の正式名称は「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」です。2023(令和5)年6月に成立し、2024(令和6)年1月に施行されました。
「がん対策基本法」や「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」など、がんや脳卒中・循環器病対策にも法律があるように、認知症についても国をあげて対策を強化することが示されたと言えます。
認知症基本法の背景・目的
認知症基本法が作られた背景には、認知症患者数の増加があります。
「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(調査年:2022~23年)*1によると、日本の認知症患者数は2025年に471.6万人、2035年に565.5万人、2045年に579.9万人にのぼると推計されています。
軽度認知障害(MCI:mild cognitive impairment、健常状態と認知症の間の段階)の患者数についても、2025年には564.3万人、2035年に607.7万人、2045年に617.0万人と推計されています。
【軽度認知障害(MCI)の定義】
- もの忘れの訴えがある
- 日常生活動作は自立している
- 全般的な認知機能は正常である
- 記憶力が年齢に比して低下している
- 認知症ではない
参考資料*2(英文)を筆者要約
認知症とMCIを合わせた患者数は2022年に1,000万人を超えており*1、今後も増加が見込まれることから、国は対策の本格化に乗り出しました。「認知症の人を含めた国民一人一人がその個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会(=共生社会)の実現を推進」*3することを目指し制定されたのが、認知症基本法です。
なお、MCIのうち年間10~15%が認知症へと移行する一方、約20%は健常状態に回復すると言われています。
これまでの国の取り組み
認知症に関する国の施策を定めた法律は、認知症基本法が初めてではありません。
2000年には介護保険法が施行されています。介護保険における要介護認定やサービスの調整などは、医師の皆さんにも馴染みがあるでしょう。当時、認知症は「痴呆」と呼ばれていましたが、2004年に「認知症」へと名称変更されました。
2015年には認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)、2019年には認知症施策推進大綱が策定されるなど、認知症になってもその人らしい生活を送るための取り組みが推進されてきました。
しかし昨今、認知症患者数の増加に伴い、患者さんの尊厳や希望を含有する共生社会の実現が重視されるようになり、基本理念や施策の骨組みが必要になりました。これを定めるべく策定されたのが、認知症基本法というわけです。
老人保健健康増進等事業|厚生労働省
令和5年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業) 認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究 報告書|九州大学(*1)
軽度認知障害|厚生労働省
Ronald C. Petersen,et al.:Mild Cognitive Impairment ― Clinical Characterization and Outcome.Arch Neurol 56(3):303-308,1999(*2)
共生社会の実現を推進するための認知症基本法 概要|厚生労働省(*3)
「痴呆」に替わる用語に関する検討会報告書|厚生労働省
認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)パンフレット作成について|厚生労働省
認知症施策推進大綱について|厚生労働省
認知症基本法の基本理念
認知症基本法は、「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができる」よう、7つの基本理念を掲げています。以下は、筆者による解釈を含む要約です。原文は厚生労働省の資料で確認してください。
①基本的人権の尊重 | 認知症になっても、すべての人が自らの意思で生活を営むことができる。 |
---|---|
②正しい知識と理解の普及 | 国民が認知症に関する理解を深めることができる。 |
③バリアフリー化と、社会参画機会の確保 | 認知症の人も、社会の構成員として個性と能力を発揮することができる。 |
④サービスの提供 | 認知症の人の意向を尊重した、良質な保健医療・福祉サービスが切れ目なく提供される。 |
⑤家族への支援 | 認知症の人だけでなく、家族も安心して生活を営むことができる。 |
⑥研究の推進と成果の還元 | 予防・診断・治療・リハビリテーション・介護などに関する科学的知見を国民が享受できる。 |
⑦関連分野の連携 | 教育、地域づくり、雇用、保健、医療、福祉などが総合的に取り組みに参加する。 |
厚生労働省「共生社会の実現を推進するための認知症基本法 概要」をもとに筆者編集
https://www.mhlw.go.jp/content/001212852.pdf(2024年10月31日閲覧)
認知症基本法の下で展開される施策は、この基本理念に基づいて実施されます。
認知症基本法の基本的施策
上記の基本理念に沿った施策を策定し実施するのは、国と地方自治体です。そのための計画を「認知症施策推進基本計画」(地方自治体の場合は「都道府県計画・市町村計画」)といい、計画策定時には認知症の患者さんや家族の意見を聞くことが求められています。
基本的施策として求められている項目は、以下の8つです。
- 認知症の人に関する国民の理解の増進等
- 認知症の人の生活におけるバリアフリー化の推進
- 認知症の人の社会参加の機会の確保等
- 認知症の人の意思決定の支援及び権利利益の保護
- 保健医療サービス及び福祉サービスの提供体制の整備等
- 相談体制の整備等
- 研究等の推進等
- 認知症の予防等
厚生労働省「共生社会の実現を推進するための認知症基本法 概要」p.2より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/001212852.pdf(2024年10月31日閲覧)
認知症基本法に関する取り組みの実施スケジュール
上述した「認知症施策推進基本計画」は、2024年秋に閣議決定されることになっています。 政府は8月上旬までパブリックコメントを募集し、9月に計画案をとりまとめており、間もなく内容が確定されると思われます。
その後、2030年ごろにかけて、各自治体が都道府県計画・市町村計画を作成していきます。今後、自治体から順次、さまざまな発表がなされるでしょう。ご自身の地域でどのような計画が打ち出されていくか、報道や動向を確認してみてください。
認知症施策推進基本計画策定に向けた今後のスケジュール|内閣官房 第1回認知症施策推進本部(2024年1月)
認知症施策推進基本計画(案)の策定について|内閣官房 第6回認知症施策推進関係者会議(2024年9月)
認知症施策推進基本計画(案)の概要|内閣官房 第6回認知症施策推進関係者会議(2024年9月)
認知症施策推進基本計画(案)|内閣官房 第6回認知症施策推進関係者会議(2024年9月)
認知症と地域包括ケアシステム
認知症施策を語る上で重要なのが、地域包括ケアシステムです。認知症基本法においても、地域包括ケアシステムの機能が重要視されています。
地域包括ケアシステムは「団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう」*4、構築されています。要介護の原因の1位は認知症(18.1%)*5であるため、認知症の人を支える上でも重要な仕組みです。
地域包括ケアシステムを構成する要素は、住まい、医療、介護、介護予防、生活支援です。地域包括ケアシステムに関する窓口や実務面の運用は、地域包括支援センターが担っています。
こうした要素に関する事業・活動と地域包括支援センターは、認知症施策における現場の担い手です。どれが欠けても良質な支援はできないので、しっかり連携ができることが望まれます。
地域包括ケアシステム|厚生労働省(*4)
令和4年版高齢社会白書 第1章第2節 高齢期の暮らしの動向(2)(*5)
地域包括ケアシステムの捉え方|厚生労働省
▼関連記事はこちら
地域包括ケアシステムとは?医師に求められる役割
地域医療構想の現状は?2025年以降の取り組みについても解説
医師にとっての認知症基本法
認知症基本法に基づく施策において、かかりつけ医には認知症への対応力を高めていくことが期待されます。
かかりつけ医が認知症を早期に発見することで、専門医療機関への受診を促すことができます。また、かかりつけ医が患者さん本人だけでなく、ご家族にとっても身近な存在となることで、介護の負担や不安を理解・軽減する役割も担えます。
かかりつけ医への助言をする「認知症サポート医」という存在もあります。認知症サポート医は地域医師会や地域包括支援センターとの連携協力や、認知症に対する知識の啓発・普及も担うため、認知症基本法が掲げる理念を実現する上で重要な存在です。より良い認知症医療のために、かかりつけ医などの対応力向上研修、認知症サポート医の養成研修事業も行われています。
2023年12月には、認知症抗体医薬レカネマブの国内販売が始まりました。レカネマブはアルツハイマー病によるMCIや軽度認知症の進行抑制に用いられますが、認知症の専門診療を適切に行える医療機関のみで使用できる薬です。今後、かかりつけ医には専門医療機関との連携がより強く求められるでしょう。
主な認知症施策|厚生労働省
└医療従事者等の認知症対応力向上の促進【かかりつけ医の認知症対応力向上研修・認知症サポート医の養成研修】
認知症サポート医養成研修|国立長寿医療研究センターアルツハイマー病の新しい治療薬について 2)レカネマブ(レケンビⓇ点滴静注)について|厚生労働省
まとめ
認知症は患者さん本人だけでなく、家族や周囲の人の生活・人生にも大きな影響を与える疾患です。現時点で認知症を根本的に治療する方法はなく、薬物療法や非薬物療法を併用しながら、患者さん本人が可能な限り自立した生活を送れるよう支援することが重要です。
認知症基本法の施行により、認知症に対する理解と支援体制の構築が社会全体で加速することが望まれます。医療だけでなく、介護や福祉などの各分野の専門家が連携し、社会のニーズや変化に対応していくことが求められます。
共生社会の実現を推進するための認知症基本法|e-Gov 法令検索
認知症施策推進本部|内閣官房
認知症施策推進関係者会議|内閣官房
認知症施策|厚生労働省
└2.共生社会の実現を推進するための認知症基本法について
執筆者:三田 大介
理学療法士から再受験し、現在はリハビリテーション科医師として病院勤務。より多くの人に正しい医療知識を届けたいとライター活動を開始。医師、理学療法士の両方の視点を活かしながら、企業などのオウンドメディアを中心に医療・健康に関する記事を執筆。
▶X(旧Twitter)|@sanda_igaku
人気記事ランキング
おすすめ記事
スキルアップコンテンツ
医師の疑問や悩みを解決
特集ページ
INFORMATION
医師求人特集一覧
高額、クリニック、女性活躍求人などおすすめ求人特集満載
-
【常勤】新着医師求人特集
全国の常勤医師求人はこちらで毎日更新しております。気になる求人がございましたら、まずはお気軽にご相談ください。 先生のご希望に合わせて給与や就業条件の交渉もさせて頂きます。
-
【常勤】2025年4月入職可の求人特集
2025年4月(来春)入職可の求人特集です。 理想の働き方を実現できるよう、コンサルタントがサポート致しますので、お気軽にお問合せ下さい。
-
【非常勤】新着医師求人特集
全国の非常勤医師求人はこちらで毎日更新しております。気になる求人がございましたら、まずはお気軽にご相談ください。 先生のご希望に合わせて給与や就業条件の交渉もさせて頂きます。
INFORMATION
-
-
一定の基準を満たした、「適正な有料職業紹介事業者」として認定されています。
-
厳密な管理基準に従って、求職者の個人情報を適切に取り扱っております。
SNS公式アカウント
すべての医師に役立つ情報を発信中!
ドクタービジョン
Facebook公式アカウント
ドクタービジョン
X公式アカウント
ドクタービジョン
LINE公式アカウント
私らしく働く女性医師を応援
女性医師向け
Instagram公式アカウント