「特定機能病院」とは?定義・承認要件と医師の業務内容

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働き方

公開日:2024.11.21

「特定機能病院」とは?定義・承認要件と医師の業務内容

「特定機能病院」とは?定義・承認要件と医師の業務内容

特定機能病院」は高度な医療を提供する医療機関であり、大学医学部の附属病院や、がんセンターのような病院を指します。医療技術の開発や、研修・教育機能を併せ持つことも特徴です。

この記事では、特定機能病院の概要や特徴、医師として働く際のメリット・デメリットなどを見ていきます。ぜひ最後までご覧ください。

特定機能病院の定義と役割

特定機能病院とは

特定機能病院制度の趣旨として、厚生労働省は下記のように定めています。

高度医療の提供、高度の医療技術の開発及び高度の医療に関する研修を実施する能力等を備えた病院について、厚生労働大臣が個別に承認するもの。

厚生労働省「特定機能病院制度の概要」より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001018535.pdf(2024年11月21日閲覧)
(リンク元:厚生労働省webサイト「特定機能病院について」

承認要件には、下記のような内容が含まれます(一部抜粋)。

  • 病床数:400床以上
  • 人員配置:医師は通常の2倍程度の配置が最低基準で、半数以上がいずれかの専門医。薬剤師や看護師等も一般病院の1.5~2倍強が最低基準
  • 構造設備:集中治療室、無菌病室、医薬品情報管理室が必要
  • 査読のある雑誌に掲載された英語論文数:年70件以上
厚生労働省「特定機能病院制度の概要」をもとに筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001018535.pdf(2024年11月21日閲覧)
(リンク元:厚生労働省webサイト「特定機能病院について」

上記以外の要件もあり、こうした厳しい条件を満たす特定機能病院は、2024年10月時点で88施設です*1。全国に8,000施設ほどある病院のうち*2、特定機能病院に選ばれているのは1%程度ということになります。その多くは大学病院の本院や、がんセンターなどです。

特定機能病院はすべての都道府県に存在しますが、1施設しかない県もある一方、東京都には16施設存在しており*1、所在地の偏りがみられます。

特定機能病院と一般病院の違い

特定機能病院の概要を理解する上で、一般病院との違いを見てみましょう。

そもそも「病院」とは、20床以上の病床を有するものと定義され(0〜19床は「診療所」)、以下の6つに分けられています。

  • 一般病院
  • 特定機能病院
  • 地域医療支援病院
  • 臨床研究中核病院
  • 精神科病院
  • 結核病院
出典:厚生労働省『令和6年版厚生労働白書 資料編』p.37
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/23-2/dl/02.pdf(2024年11月21日閲覧)

これらはそれぞれ、医療において果たす役割が異なります。特定機能病院は、先述のとおり高度の医療提供が中心です。

これに対して「地域医療支援病院」は、かかりつけ医の支援が中心となります。多くは市民病院など、地域医療で中心的役割を果たす病院が該当し、2023年9月時点で全国に700施設あります*3。「精神科病院」「結核病院」は、それぞれ専用病床のみを有する病院です。

「臨床研究中核病院」は臨床研究等の中心的役割を担う病院で、研究件数や論文数などの条件を満たす必要があります。現在は特定機能病院の一部が臨床研究中核病院として承認されています。

これらに該当しないものが「一般病院」です。一般的な医療を提供する病院で、数としては最も多く、とくに民間病院が該当する傾向にあります。

診療報酬による評価

特定機能病院には厳しい承認要件があり、その点は診療報酬で評価される仕組みになっています。

具体的には、入院患者の算定方法が異なります。一般病院への入院では「一般病棟入院基本料」が算定されますが、特定機能病院では「特定機能病院入院基本料」が算定されます。点数は看護配置によっても異なりますが、令和6年度診療報酬改定では下記のように定められています。

急性期一般入院料1 1,688点
特定機能病院入院基本料(一般病棟、7対1入院基本料) 1,822点
出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定 個別改定項目について(令和6年2月14日、改3月7日)」p.18、20
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001220531.pdf(2024年11月21日閲覧)

つまり、同じ入院でも、特定機能病院では10%近く診療報酬が高いことになります。

特定機能病院における業務の特徴

特定機能病院の手術室でロボット手術に携わる医師たち

ここからは医師の方々向けに、特定機能病院で働く場合の業務内容や、そのほかの病院と比較した場合のメリット・デメリットについて見ていきます。

特定機能病院における医師の業務内容

医師の業務の基本は診療行為であり、これは特定機能病院であっても大きく変わることはありません。主な業務は下記のとおりです。

  • 患者さんの診療
  • カンファレンスへの参加
  • 学会発表や論文執筆
  • 研修医や学生の指導

ただし、特定機能病院の機能・目的に伴って、通常とはやや異なる性質の業務も発生します。主な違いを見ていきましょう。

対象疾患の違い

特定機能病院は、その性質から希少・難治性疾患や重症例の患者さんが多く通院・入院する傾向があります。一般病院では実施されることの少ない検査や治療にあたる機会も多いでしょう。

教育の位置付けの違い

特定機能病院の多くを占める大学病院では、医学生の教育(学生講義や臨床実習)が業務内容に入ってきます。医学部卒業後は自大学で臨床研修を受ける医師が多いため、研修医教育も重要になります。

勤務医の人数の違い

所属する医師や他職種の人数が多いため、情報共有のためのカンファレンスが重視される傾向にあると言えます。また、高度な医療知識・技術が必要なことに加え、施設要件に論文数も含まれることから、医療内容や結果を学会講演や論文でアウトプットすることも求められやすいでしょう。

特定機能病院で働くメリット

続いて、特定機能病院で医師として働くメリット・デメリットを考えてみます。

メリットとしては、下記のようなことが考えられます。

  • 最新の医療に触れることができ、キャリアアップにつながる
  • 学術的活動の機会が多い
  • 医学教育に携わることができる
  • 所属する医師数が多いため、多様な人材に出会える

高度な医療の提供や技術開発・教育が責務であるため、最新の医療に触れることで自身のキャリアアップを図ることができるでしょう。技術開発や論文執筆に関わることで、学術的評価が得られる可能性もあります。学生や研修医指導を通して、医学教育に携わることも可能な環境です。

また、医師の数が多いことで、さまざまなバックグラウンドの医師が存在し、多様性を学ぶことができるでしょう。専門性の高い医師が多いことから、高度な知識や技術を学び、スキルアップする機会が得られやすい環境と言えます。

特定機能病院で働くデメリット

一方で、下記のような点はデメリットと言えるかもしれません。

  • 経験症例が偏る場合がある
  • 雑務や会議などが多い傾向にある
  • 所属医師・スタッフ数が多く、給与が低い傾向にある

専門性の高い治療を提供するため、入院・外来いずれも希少・難治性疾患が多い傾向にあります。このため一般的な疾患(common disease)の経験を積むことが難しいほか、経験できる症例が偏る可能性があります。

また、特定機能病院はいわゆる大病院であり、勤務するスタッフの人数が多いことから、意思決定のための会議や委員会の数・頻度が増える傾向にあると考えられます。医師も参加を求められやすい立場であり、人によっては負担に感じるでしょう。

医師数が一般病院より多いことで、タスク・シェアや他職種へのタスク・シフトが進みづらく、いわゆる雑務が多くなります。一方で大学病院をはじめとした特定機能病院は、一般病院と比較して給与水準が低い傾向にあります。

特定機能病院で働くには

都市の前に立つ白衣の女性医師

それでは、実際に特定機能病院で働くためにはどうすれば良いのでしょうか。

特定機能病院の多くを大学病院が占めるため、まずは大学医局に所属することが近道です。

その上で、高度医療を提供するための技術を持つ、最新の検査・治療に関する知識を積極的に吸収する、といった自己研鑽に励むことのできる人材であることが望ましいでしょう。医学研究にも携わるため、業界の現状や課題を把握し探求していくリサーチマインドを持つことも必要と言えます。

もちろん、どの医療機関で働く場合でも自己研鑽は必要ですし、リサーチマインドを持つことが望ましいのですが、特定機能病院にはそのような素養を持つ医師がよりふさわしいと言えるでしょう。

勤務したいと考えている特定機能病院が、現在所属している医局とは関連のない機関の場合は、医師向けの転職コンサルティングサービスを利用するのも選択肢の一つになると思います。まずは、希望する条件の求人募集がないか、サイトで探してみるのも良いでしょう。

まとめ

今回は特定機能病院について見てきました。多くは大学病院が占め、高度な医療の提供や研究開発、教育に関する役割が求められる病院群です。高度な医療に携わることで、スキルアップやキャリアアップの機会が得られやすいと言えるでしょう。そのためには最新の医療を学ぶ姿勢や、より良い医療を提供するためのリサーチマインドが重要です。

特定機能病院のあり方については定期的に見直しが図られており、2024年現在も厚生労働省の検討会で議論が進められています。最新の課題や今後の方向性を知りたい方は、下記の参考資料を確認してください。

この記事が特定機能病院について理解を深める一助となれば幸いです。

Dr.SoS

執筆者:Dr.SoS

皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。

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