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オンライン診療の適切な実施に関する指針とは?
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」は、近年注目されているオンライン診療が安全かつ適切に運用されるためのガイドラインで、2018年3月に厚生労働省より発表されました。
この指針が作成された背景として、地方や離島における深刻な医師不足の緩和や医療システムの効率化のため、情報機器を活用した医療が必要とされていることが挙げられます。
さらに2020年以降、新型コロナウイルス感染症の拡大によりオンライン診療への対応が急務となり、2023年3月に指針が一部改訂されました。
この記事では、オンライン診療の現状や「オンライン診療の適切な実施に関する指針」のポイントを解説します。
オンライン診療とは?
指針による定義では、オンライン診療とは「遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為をリアルタイムにより行う行為」であると示されています。
指針ではオンライン診療の基本理念も定められており、下記の理念に沿って提供されるべきであると提唱しています。
- 患者の日常生活の情報も得ることにより、医療の質のさらなる向上に結び付けていくこと
- 医療を必要とする患者に対して、医療に対するアクセシビリティ(アクセスの容易性)を確保し、よりよい医療を得られる機会を増やすこと
- 患者が治療に能動的に参画することにより、治療の効果を最大化すること
では、実際にオンライン診療を導入すると医師側・医療機関側にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
<オンライン診療のメリット>
- 患者さまの待ち時間が短縮される
- 診療の継続につながる
- 遠方の患者さまも受診できる
- 事前問診を行うことにより、治療方針が立てやすい
<オンライン診療のデメリット>
- 機器導入の初期費用やアプリ等の継続費用がかかる
- PC等に不慣れな場合は手間がかかる
- 対面で行う触診や検査はできない
- リスクの高い医薬品は処方できない
オンラインならではの制限や導入コストといった懸念点もありますが、通院がないことで受診へのハードルが下がるため早い段階で患者さまを診察できること、一定の集患効果があることなどが大きなメリットといえます。
日本のオンライン診療の普及状況
総務省の令和3年版情報通信白書から、オンライン診療の普及状況をみてみましょう。
「電話やオンラインでの診療を実施できる」とする医療機関数について、2020年4月から5月にかけて、初診から実施できる医療機関数は約4,300件から約6,100件へ増加、電話・オンライン診療に対応する医療機関数は10,812件から15,226件へ増加しました。コロナウイルスの感染拡大によるオンライン診療の要件緩和が増加の大きな理由です。ただし、その後の推移をみると16,000件前後で横ばいとなっています。
「実際に初診から電話・オンライン診療を実施した医療機関数」についても同じく2020年4月から5月にかけて793件から1,313件まで増えましたが、その後は700件前後で横ばいが続いています。
データから鑑みると、オンライン診療の普及が進んでいるとは言い難い状況です。その理由として、以下の3点が挙げられます。
(1)対面診療と比較すると診療報酬の点数が低い
以前は対面診療とオンライン診療との報酬差が大きいことが普及率を下げる一因でした。
しかし、2022年の診療報酬改定によってオンライン診療に対する要件の緩和や診療報酬の引き上げが行われています。
(2)高齢の患者さまはオンライン診療に消極的である
総務省の「令和3年版情報通信白書」から電話・オンライン診療を受診した方の年齢階層別のデータをみてみると、40歳以下の割合が全体の約4分の3を占める結果となっています。高齢者の人口が増えているにも関わらず、中高年層はまだまだ対面での診療を希望する傾向が高いと推察できます。
(3)疾患や検査・処置内容によってはオンライン診療に適さない
オンライン診療は情報機器を通して診察を行うため、触診や精密検査、緊急の対応を要する疾患には適していません。
一方で、高血圧などの症状が安定した慢性疾患にはオンライン診療が適しています。また、軽い風邪症状の場合は受診による二次感染防止も期待できます。
オンライン診療に対応するべきか
一般的には、オンライン診療は患者さまにとって次のようなメリットがあると言われています。
- 通院に要する時間的、経済的コストが削減できる
- 受診時の待ち時間を短縮できる
- 遠方の患者さまや来院が困難な患者さまも受診できる
- 薬が自宅に届く
- 感染予防になる
MMD研究所の「オンライン診療に関する調査」では、20~60代のどの世代でも半数以上が「オンライン診療に関心がある」と答えています。
特に、オンライン診療利用経験者の66.7%が「オンライン診療が増えて欲しい」と回答しており、86%が利用したい意向を示しています。
また、総務省の「オンライン診療の普及促進に向けたモデル構築に係る調査研究」では、オンライン診療を受けた患者63名中54名が「大変満足」または「概ね満足」と回答しています。患者側のメリットとして「医師と問題なくコミュニケーションが取れた」「受診にかかる経済的・身体的な負担が軽減された」「処方や処置について必要な指導・指示を得やすかった」との声が挙がっています。
こうしたニーズの高まりに加えて、そもそも受診自体が困難である高齢または遠方に居住する患者さまにとっては、オンライン診療が重要なインフラになる可能性があります。
少子高齢化社会及び過疎化が急速に進行していくと予想される日本において、これらの社会変化で起こる医療課題の対策として進められているのが「医療のネットワーク化」や「遠隔医療の普及」です。それに伴い、オンライン診療に対するニーズも高まっていくのは当然といえるでしょう。
将来的な需要に備え、早期にオンライン診療の導入を検討するのも一案です。
オンライン診療の適切な実施に関する指針が定める「診療の際に守るべきこと」
オンライン診療を提供する際のポイント
(1)医師-患者関係/患者合意
オンライン診療を行うには医師と患者さまそれぞれの合意が必要ですが、患者さまがオンライン診療を希望することを明示的に確認しなければなりません。
合意を得る前に患者さまに説明すべき事項は次の通りです。
- 触診を行うことができない等の理由により、オンライン診療で得られる情報は限られていることから、対面診療を組み合わせる必要があること
- オンライン診療を実施する都度、医師がオンライン診療の実施の可否を判断すること
- 「診療計画」に含まれる事項((3)で後述)
ただし、オンライン診療を緊急に実施した場合は説明可能になった時点での説明でよいとされています。
(2)適用対象
オンライン診療を行うのは、原則として「かかりつけの医師」です。それ以外の医師の場合、必要な医学的情報を診療録などから把握できれば初診からのオンライン診療が可能となっています。
上記以外の場合は、診療前相談を行う必要があります。
オンライン診療が適切かどうかは、一般社団法人日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診に適さない症状」を踏まえて医師が判断します。オンライン診療が適さない場合や緊急の場合には、対面診療を速やかに実施したり、対面診療が可能な医療機関を紹介しましょう。
(3)診療計画
オンライン診療を行う前に、診療計画の作成が必要です。
診療計画は2年間の保存が義務づけられており、診療計画に含まれる内容は次のとおりです。
- オンライン診療で行う具体的な診療内容
- オンライン診療と対面診療、検査の組み合わせに関する事項(頻度やタイミング等)
- 診療時間に関する事項(予約制等)
- オンライン診療の方法(使用する情報通信機器等)
- オンライン診療を行わないと判断した場合は直接の対面診療に切り替える旨
- 患者が診察に協力する必要がある旨
- 急病急変時の対応方針
- 複数の医師がオンライン診療を実施する予定がある場合は、その医師の氏名及びどのような場合にどの医師がオンライン診療を行うか
- セキュリティリスクに関する責任の範囲
(4)本人確認
オンライン診療の重大なリスクの一つが、医師または患者さまの「なりすまし」です。
なりすましを防ぐために、社会通念上当然に本人であると認識できる状況以外では、顔写真付きの身分証明書の提示が求められます。
<身分証明書の例>
患者の証明:健康保険証・マイナンバーカード・運転免許証・パスポート
医師の本人証明:HPKIカード(医師資格証)・マイナンバーカード・運転免許証・パスポート
医師の資格証明:HPKIカード(医師資格証)・医師免許証
(5)薬剤処方・管理
オンライン診療では診察手段が限られるため、医薬品の処方には慎重さが求められます。現在服薬している医薬品がないか、必ず患者さまに確認を行いましょう。
処方については、一般社団法人日本医学会連合の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に記載されている「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」等の診療ガイドラインが参考になります。
初診で処方できない医薬品は次のとおりです。
- 麻薬及び向精神薬の処方
- 基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する、特に安全管理が必要な薬品(診療報酬における薬剤管理指導料の「1」の対象となる薬剤)
- 基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する8日分以上の処方
特に重篤な副作用のおそれがある医薬品の処方は慎重に行い、リスク管理に最大限努めなければなりません。
(6)診察方法
オンライン診療では、患者さまについて十分に必要な情報が得られていないと医師が判断する場合は、速やかに直接の対面診療へ切り替えます。
診察の補助的な手段として、画像や文字等による情報のやりとりを活用することは可能です。また、他の医療従事者等が同席する場合は、その都度患者さまに同意を得ること、とされています。
オンライン診療を行う場所や体制についてのポイント
(1)医師の所在
医師がオンライン診療を行う際は、医療機関以外の場所でも可能です。ただし、診療の妨げになるような騒音やネットワーク障害のない場所、第3者がいないなど物理的に外部から隔離された場所で行うことが求められます。
診療録など、オンライン診療中に患者さまの医学的情報を確認できる体制も必要です。
(2)患者の所在
医療法上、医療は病院・診療所等の医療提供施設または患者の居宅等で提供されなければなりません(医療法1条の2第2項)。この取り扱いはオンライン診療でも同様です。
患者さまの所在場所は清潔かつ安全でプライバシーが保たれる場所であることが求められますが、場合によっては患者さまの勤務する職場等も認められます。
(3)患者が看護師等といる場合のオンライン診療(D to P with N)
「D to P with N」は、患者さまの同意のもとオンライン診療時に看護師等が患者さまの側にいる状態で診療を受けることです。例えば訪問看護師が患者さま宅で同席してオンライン診療を受けるといった状況が想定されますが、この場合も指針に定められた「最低限遵守するべき事項」に則って診療を行うことが必要です。
D to P with Nを行えるのは、原則、訪問診療等を定期的に行っている医師のみです。「看護師等」は同一医療機関の看護師等、あるいは訪問看護の指示を受けた看護師等に限定されます。
(4)患者が医師といる場合のオンライン診療(D to P with D)
「D to P with D」は、患者さまが主治医等の医師といる場合に行うオンライン診療のことです。これにより、遠隔地にいる医師の専門的な知見・技術を活かした診療が可能となります。
ただし「D to P with D」を行うためには、以下の条件が必要となります。
- 患者さまの側にいる医師は、既に直接の対面診療を行っている主治医等である
- 遠隔地にいる医師は、あらかじめ十分な情報提供を受けること
- 診療に問題が生じた場合の責任分担等についてあらかじめ協議しておくこと
(5)通信環境(情報セキュリティ・プライバシー・利用端末)
オンライン診療の実施に当たっては、セキュリティリスクへの対策が重要です。
想定されるリスクとして、機密情報の漏洩や不正アクセス、データの改ざん、サービスの停止といったことが挙げられます。
このようなリスクを防ぐために、以下のような対策を行いましょう。
- 患者さまに対してセキュリティリスクを説明し、同意を得る。その旨を診療録に記載する
- 患者さまがいつでも医師の本人確認ができるように、医師の情報及び医療機関への問い合わせ先をオンライン診療システム上に掲載する
- 外部のPHR等の情報を取り扱うことが、医療情報システムに影響を与える場合は「医療情報安全管理関連ガイドライン」に沿った対策を行う
オンライン診療の質向上のために求められるポイント
(1)医師教育/患者教育
<医師教育>
オンライン診療を実施する医師は、厚生労働省指定の研修受講が義務づけられています。
研修はe-learning形式で、ガイドラインや情報通信機器の使用方法、情報セキュリティなどの知識を習得できる内容です。厚生労働省の特設ホームページからいつでも申し込むことができます。
<患者教育>
患者さまに対しては、医師より「オンライン診療には医師に伝達できる情報等に限界があること」を伝えなくてはいけません。
医師がオンライン診療の中止を決めたときは、医療の安全を確保する観点から医師の判断が尊重されます。
(2)質評価/フィードバック
オンライン診療では、診療の質の評価やフィードバックができる仕組みの整備が必要です。
診療録の記載は、対面診療における診療録と同等の品質を保つように注意しましょう。
動画や画像など診断に必要な情報を保管する場合には、医療情報安全管理に関するガイドラインに従ってセキュリティを確保することが求められます。
(3)エビデンスの蓄積
オンライン診療の安全性や有効性に関する情報は、個々の医療機関のみならず社会全体で共有・分析することが望まれます。
そのため、医師はカルテ等の記録において日時や診療内容などについて具体的に記載することが必要です。また、オンライン診療であることがわかるようにしておきましょう。
ドクタービジョン編集部
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