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医師の仕事は国民の健康を守ることですが、医師自身が健康かというと、必ずしもそうではありません。「医者の不養生」ということわざもあるくらいです。
医師として働いていると、健康的な生活を送ることが難しいと感じる場面も多いのではないでしょうか。この記事では、医師の平均寿命について考察していきます。
執筆者:Dr.SoS
医師の平均寿命はどのくらいか
日本人全体の平均寿命は、男性が81.49歳、女性が87.60歳です(2020年)。これに対して、SNSなどでは"医師の平均寿命は短い"とまことしやかに言われることがありますが、実際のところはどうなのでしょうか。
結論としては、2023年末現在、開業医に限定した比較的小規模な調査は散見されるものの、内容に疑義が提唱されているものもあったりと、明確かつ公的な統計データは得られませんでした。
しかし、医師は健康に関する最新の専門知識を持っている集団であるにもかかわらず、平均寿命が明らかに高いとは言えないようでした。なぜそうなのか、考察していきましょう。
令和2年都道府県別生命表の概況|厚生労働省
医師の長時間労働が身体疾患に与える影響
寿命を左右する身体疾患との関わりが想定されるのが、長時間労働です。2012年に労働政策研究・研修機構がまとめた『勤務医の就労実態と意識に関する調査』では、勤務医の平均労働時間は週当たり53.2時間で、全体の40%は週60時間以上働いていました。
この数字から、労働基準法で定められている一般的な上限労働時間「40時間/週」を差し引いて時間外労働時間を抽出すると、それぞれ13.2時間/週、20時間/週。月当たりに換算すると、52.8時間/月、80時間/月。年当たりでは、およそ630時間/年、960時間/年の時間外労働に相当します。
一般に労災や過労死と認定される時間外労働時間(過労死ライン)は、単一月で100時間/月、あるいは2~6カ月間の平均で80時間/月とされています。つまり、2012年ごろの勤務医の40%は過労死ラインに該当しています。
こうした長時間労働は社会問題となり、国をあげて働き方改革が進められるようになりました。時間外労働時間が960時間/年を超える医師の割合は、厚生労働省の2016年の調査で39.2%、2020年は37.8%、2022年は21.2%と漸減しています。医師の労働環境が改善されつつあることが読み取れますが、とくに医師不足が深刻な医療圏の病院では、労働時間の削減が難しい実情もあります。
厚生労働省の『過労死等防止対策白書』では、過労死ラインを超える労働者群は脳血管・心疾患にかかる労災支給件数が多いと報告されており、労働時間と身体疾患の関連性が示唆されます。
労働負担は時間だけで測れるものではなく、勤務時間の不規則性や身体的/心理的負荷なども考慮されます。医師の仕事は当直や待機業務なども含むため、勤務時間が不規則になりやすいのが特徴です。労災認定基準より短い労働時間でも、身体に強い負荷がかかる場合もあります。いわんや労働時間が長ければ、さらに負荷がかかっていると言えるでしょう。
医師の長時間労働や業務内容が精神状態に与える影響
長時間労働は、身体面だけでなく精神面にも悪影響を及ぼします。先述の『過労死等防止対策白書』で、精神障害に係る労災請求や支給決定件数は近年増加し続けています。
勤務問題が動機の一つになった自殺者数は、2022年は2,968人にのぼりました。勤務問題とは、職場の人間関係(26.5%)、仕事疲れ(24.4%)、職場環境の変化(19.8%)、仕事の失敗(11.8%)などで、医師も例外とは言えません。
少し古いですが、2007年に全国保険医団体連合会が、医師の精神状態に関するアンケートを実施しました。回答者数約3,000人の医師のうち、うつ状態にあると答えた人が27.3%と、4人に1人を占めました。そのうちの4人に1人はうつに対して何らかの薬を服用していたといい、報告者はこの結果を「異常な状態」と結論付けています。この時、回答者の65%は労働時間が40時間/週を、8.8%は60時間/週を超えていたとのことです。
長時間労働だけでなく、業務の内容も精神状態に影響します。診療科によって程度の差はあるものの、医師の仕事は他人の生死やQOLを大きく左右する、責任の重い内容です。自覚症状がなくても心的ストレスがかかっている場面は多く、健康寿命の観点からは、あまり良い環境とは言えないでしょう。
開業医の4人に1人がうつ状態 疲弊が顕著に...保団連調査|全国保険医団体連合会
令和5年版過労死等防止対策白書 過労死等の現状|厚生労働省
令和5年版過労死等防止対策白書 自殺の状況|厚生労働省
医師が健康寿命を伸ばすためにできること
ここからは、私たち医師一人ひとりが、健康寿命を伸ばすためにできることを考えていきましょう。
参考になるのが、国が推進する『健康日本21』です。2024年度に運用が始まる第三次目標では、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」が基本的な方向性の一つとされています。具体的には、メタボリックシンドロームの該当者や予備群を減らす、適切な量と質の食事を取る人を増やす、睡眠時間が十分に確保できている人を増やす、などが国の目標として定められています。
これらを一人ひとりの行動に落とし込むと、下記のようなことが挙げられます。医師として働く上では難しいことも多くありますが、こうしたことに留意して生活できれば、健康寿命を伸ばすために有益と考えられます。
- 喫煙や過度な飲酒を控える
- 適切な量と質の食事を取る(塩分は控えめにする、野菜や果物を摂取する など)
- 当直時の間食・夜食を控える
- 十分な睡眠時間を確保するため、業務内容を調整・交渉する
- 病棟移動で階段を利用するなど、運動する習慣をつくる
- 他科の先生との人脈を大切にし、健康相談にも乗ってもらう
今の生活に取り入れられることから始められれば良いですが、仕事が忙し過ぎて時間があまりにも取れないのであれば、転職や転科を通じて自分の健康に気を配れる時間を確保することも、選択肢の一つとなり得るでしょう。
健康日本21(第三次)|厚生労働省
「健康日本21(第三次)」を推進する上での基本方針を公表します|厚生労働省
▼「健康日本21」に関する詳しい記事はこちら
「健康日本21」とは?2024年度に始まる第三次目標についても解説
まとめ
今回は医師の平均寿命について見てきました。結論を出すのに十分なデータ量ではありませんが、複数の調査報告などから労働負担と寿命との関係はおわかりいただけたかと思います。
医師は業務負担が大きく、自身の健康への注意が疎かになりやすいと考えられます。医師として長く働くためにも、自分の健康を気遣う時間を取れるよう、少しずつでも意識していけると良いのではないでしょうか。
執筆者:Dr.SoS
皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。
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