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昨今、「NAVA」という言葉を目にしたことのある先生方も多いのではないでしょうか。日本では2013年から使用可能になった新しい技術で、患者さんの自発呼吸に合わせることで自然な呼吸管理を実現できる人工呼吸器モードです。とくに新生児は呼吸が浅く不規則なためNAVAの利点が大きいとされ、注目を集めています。
新生児に限らず成人でも使用でき、従来の課題が解決される可能性もあるため、非専門医でもおさえておきたい知識と言えるでしょう。この記事ではNAVAの概要について紹介します。
執筆者:Dr.Ma
NAVAとは
NAVAは神経調節補助換気(neurally adjusted ventilatory assist)の略称で、呼吸補助のタイミングや換気量などを制御する人工呼吸器モードの一つです。
日本では2013年から使用可能になった比較的新しい技術で、患者さんの自発呼吸に合わせることで自然な呼吸管理を実現できます。
NAVAが注目される背景
重症例や呼吸器疾患など、呼吸管理が必要な患者さんには人工呼吸器による治療を施すことがあります。人工呼吸器にはさまざまな方法や設定(モード)があり、患者さんの状態に応じて最適な手法が選択されます。
自発呼吸がない・少ない場合は強制換気、自発呼吸がある場合は補助換気が主に使用されます。補助換気は患者さんの呼吸に合わせて呼吸補助をする方法です。呼吸努力に応じた補助のため、自発呼吸を阻害することなく自然な呼吸を維持することができます。
従来の補助換気では、回路内の圧力や流量の変化で呼吸努力を感知します。このためリークなどで圧力変化を感知できなかったり、誤作動が生じたりすると患者さんの呼吸を阻害してしまうことが課題でした。
これを解決できる新しい補助換気モードとして、NAVAが注目を集めるようになりました。
NAVAの原理
NAVAは補助換気の一つですが、呼吸努力を感知する方法が従来とは異なり、横隔膜電気的活動(EdiまたはEAdi:electrical activity of the diaphragm)に基づいている点が特徴です。
Ediとは、横隔膜を収縮させる神経の働きによる電気的活動です。自発呼吸は、脳の呼吸中枢から発生したシグナルが横隔神経を伝わり、発生したEdiが横隔膜を収縮させることで起こります。Ediを感知し、それに合わせて呼吸を補助する仕組みがNAVAです。
Ediは、経鼻または経口的カテーテルで感知します。胃食道接合部付近の食道に電極を設置すると、横隔膜の筋電位を感知することができます。
感知したEdiに応じて補助圧を決定するため、Ediと補助圧の波形は同一の形状になります。
NAVAの利点
同期性が高い
Ediは呼吸の前段階で発生し、かつ圧力や流量の変化が感知できない微弱な呼吸や不規則な呼吸でも発生しています。これを測ることで患者さんの呼吸努力を迅速かつ正確に感知でき、より自然な呼吸補助が可能となります。
過剰な呼吸補助を避けられる
従来の補助換気では、補助圧や換気量は一定であり、呼吸のたびに大きさを調節することはできないため、呼吸補助が過剰になってしまう可能性があります。一方、NAVAではEdiの大きさに基づいて補助圧を決めることができます。
酸素が不十分だと、呼吸中枢から発生する呼吸刺激が強くなるためEdiが大きくなり、その結果高い圧力で呼吸補助が実施されます。一方、酸素が足りていればEdiも減少するため、補助圧は低下します。
このような生理的なフィードバックが行われることで、NAVAでは過剰な呼吸補助を防ぐことができるのです。
新生児の呼吸管理に適している
新生児や乳児の呼吸管理には、特有の注意点がいくつかあります。
たとえば、内径の太い挿管チューブを選択する目的で「カフなしチューブ」を使うケースが多い点です。カフがないとリークが発生しやすいため、圧力の変化を正確に感知することが難しくなります。また、新生児や乳児は呼吸が速いため、呼吸補助のタイミングが問題になりやすい点にも注意が必要とされています。
NAVAであればEdiに基づく呼吸補助ができるため、たとえリークがあっても同期性の高い呼吸管理ができます。また、圧力変化よりも素早く呼吸努力を感知できるため、呼吸補助の遅れを減らすことができます。
NAVAは年代を問わず使用できるモードですが、以上の理由から新生児や乳児の呼吸管理にとくに有用とされています。
NAVAの問題点・注意点
利点の多いNAVAにも、問題点や注意点がないわけではありません。どのようなことが起こり得るのか見ていきましょう。
カテーテル使用に伴う問題点
先述のとおり、NAVAではEdiを感知するためのカテーテルを経鼻または経口的に挿入します。そのため口腔や食道に問題を抱える患者さんには使用できません。
また、カテーテル留置に伴う合併症に注意が必要です。留置によって胃壁を損傷した事例も報告されています*1。
そのほかの問題点
同期性に優れるNAVAでも、すべての呼吸に同期できるわけではありません。心臓の拍動やEdi以外の電気信号を感知し誤った呼吸補助をしてしまった事例(オートトリガー)や、二重に補助してしまう事例(ダブルトリガー)が報告されており*2、注意が必要です。
また、Ediは個人や体位で大きさが異なるため、補助レベルを都度調節する必要があります。患者さん同士の比較や経時的変化の検討はできません。
さらに、Ediは呼吸中枢からの刺激で生じるため、中枢に異常がある場合は対応することができません。呼吸中枢が未熟な場合も同様で、新生児や乳児では呼吸補助が不十分になる可能性があります。SIMV(同期式間欠的強制換気)への変更で改善した事例も報告されており*3、患者さんに適するモードはケースバイケースであることを念頭に置く必要があるでしょう。
まとめ
比較的新しい技術であるNAVAの概要について紹介しました。NAVAは小児科や新生児科で注目されていますが、人工呼吸器に関わるすべての医師にとって重要な技術と考えられます。近年新たな書籍が発行されたり、ワークショップが開かれたりしていますので、興味がある方は調べてみてはいかがでしょうか。
髙橋大二郎ほか:Neurally adjusted ventilatory assist(NAVA).人工呼吸 29(2)Web版,2012
瀬川祐貴ほか:神経調節補助換気(Neurally Adjusted Ventilatory Assist:NAVA)の功罪を示唆する超低出生体重児4例.浜松医科大学小児科学雑誌 3(1):22-30,2023(*1)
内藤祐介・竹内宗之:Neurally adjusted ventilatory assist(NAVA)は乳児でこそ最適! 日本集中治療医学会雑誌 26(3):161-162,2019(*2)
高橋大二郎:新生児呼吸管理におけるNAVAの使用経験.人工呼吸31:226,2014(*3)
執筆者:Dr.Ma
2006年に医師免許、2016年に医学博士を取得。大学院時代も含めて一貫して臨床に従事した。現在も整形外科専門医として急性期病院で年間150件の手術を執刀する。知識が専門領域に偏ることを実感し、医学知識と医療情勢の学び直し、リスキリングを目的に医療記事執筆を開始した。これまでに執筆した医療記事は300を超える。
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