「心腎連関」を考慮した診療とは―5つのポイントを腎臓専門医が解説【医師向け】

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医療知識

公開日:2024.11.12

「心腎連関」を考慮した診療とは―5つのポイントを腎臓専門医が解説【医師向け】

「心腎連関」を考慮した診療とは―5つのポイントを腎臓専門医が解説【医師向け】

心臓と腎臓は密接に関連しており、どちらかが悪くなるともう一方も悪くなることがわかっています。負の連鎖を止めるために、心腎連関を考慮して診察することが大切です。

この記事では、心腎連関を考慮した診療ポイントについてお話しします。

※実際の診療や薬剤の処方にあたっては、最新のガイドラインや治療指針、各種薬剤の添付文書などをご確認ください。

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執筆者:大塚 真紀

医学博士、腎臓専門医、透析専門医、総合内科専門医

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心腎連関のメカニズム

心腎連関」とは、心臓と腎臓の機能が、お互いに影響し合っていることを意味する概念です。さまざまな要因が相互に作用し、悪循環を形成すると言われています。

心腎連関が起こるメカニズムの詳細には不明な点も多いですが、現時点では下記が要因になると考えられています。

  • 高血圧
  • 動脈硬化
  • 体液調節障害
  • レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化
  • 炎症
  • 交感神経活性
  • 酸化ストレス
  • 貧血 など

ここでは高血圧レニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系の活性化酸化ストレスの3つをピックアップし、どのように心腎連関に関わっているか解説します。

高血圧

高血圧の状態が続くと血管に負担がかかり、動脈硬化が進みます。心臓は血液を送り出すために強く収縮するようになり、心臓の筋肉が厚くなります。結果的に、心臓の機能が低下し不整脈心不全の原因になり得ます。

同様に、高血圧が続くと腎臓の血管にも負担がかかります。腎臓の血流が悪くなるため、腎機能が低下すると言われています。

レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系の活性化

腎臓の細胞から分泌されるレニンは、アンジオテンシノーゲンを活性化し、アンジオテンシンⅠというホルモンを作ります。アンジオテンシンⅠは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)によってアンジオテンシンⅡに変換されます。アンジオテンシンⅡは血管を収縮させ、血圧を上げることがわかっています。

一方、アルドステロンは腎臓に作用してナトリウムを保持するため、血液量が増えて血圧が上がります

このRAA系は心臓などの循環器系でも重要であり、心機能が低下するとRAA系の活性化が促進され、心肥大や、腎血流低下による腎機能低下が引き起こされます。

酸化ストレス

活性酸素の産生が過剰になると、体の中の細胞を酸化し傷つけます。これにより細胞の構造や機能に変化が起こり、病気や老化の原因になることがわかっています。とくに酸化ストレスは、心臓疾患慢性腎臓病(CKD)の進行だけでなく、心腎連関にも関与していると言われています。

心腎連関を意識して診療する意義

心血管疾患の患者さんは腎疾患を合併する可能性が高いことが知られています。また、CKDの患者さんでは心血管疾患の発症率が上昇するとも言われています*1

日本の研究で、55歳以上の血行再建術を受けた冠動脈疾患症例の40%以上、心不全による入院例の70%以上がステージG3~5のCKDを合併していたことが明らかになっています。また、心血管疾患の予後はCKDの重症度が上がるほど悪くなることも報告されています*1

一方、腎機能障害が心不全における全死因死亡、心血管死亡、入院のリスク増加と関連していることも報告されています*1心・腎機能の低下で互いに悪影響を及ぼす負の連鎖を止め、生命予後を延長させるためには、早期発見・早期治療が大切です。

日本循環器学会・日本心不全学会の『急性・慢性心不全診療ガイドライン』でも、心不全治療において腎機能を考慮した治療戦略を立てることが望ましいとされていますし、日本腎臓学会の『CKD診療ガイドライン』でも、CKD治療において心血管疾患の発症リスクが高いことを意識した診療が推奨されています。

心腎連関を考慮した診療ポイント

血圧計で高血圧が示されている入院患者のイメージ

ここからは、実際に心腎連関を考慮して診療するためのポイントを5つ、ご紹介します。

①血圧を適正にコントロールする

高血圧は、心血管疾患やCKDの発症リスクを上昇させることがわかっています。日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2019』でも、心血管合併症の予防のために降圧目標を達成することが推奨されています。

降圧治療として降圧薬を使う場合、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、利尿薬、β遮断薬などの選択肢がありますが、合併症の有無によって推奨される第一選択薬は異なります。

②血糖や脂質を適正にコントロールする

高血糖や脂質異常症は動脈硬化を促進し、心血管疾患・腎疾患を増悪させることがわかっています。日本糖尿病学会は血糖コントロール目標値を目的別に定めており、血糖正常化を目指す場合の目標値はHbA1c 6.0%未満、合併症予防の場合は7.0%未満、治療強化が困難な場合は8.0%未満です*2

脂質異常症の診断基準は、LDLコレステロール 140 mg/dL以上、トリグリセライド 空腹時150 mg/dL以上、随時175 mg/dL以上、non-HDLコレステロール(=総コレステロール-HDLコレステロール) 170 mg/dL以上、HDLコレステロール40 mg/dL未満です。治療目標は既往歴や合併症、危険因子の有無などで異なり、糖尿病やCKDなどの持病がある場合はLDLコレステロール120㎎/dL未満、心筋梗塞や狭心症などの既往歴がある場合は100㎎/dL未満などが目標値となります*3

③定期的に尿検査をする

健常者の方においても、30 mg/gCr以上のアルブミン尿は心血管疾患の危険因子であることがわかっています。腎機能の異常に早く気付くためには定期的な尿検査が大切です。

糖尿病の患者さんの場合は尿アルブミン/クレアチニン比、非糖尿病では尿蛋白/クレアチニン比を用いて、定量的に評価すると良いでしょう。30 mg/gCr以上のアルブミン尿または 0.15 g/gCr以上の蛋白尿は腎機能障害を示唆する所見と考えられます*1

④心機能スクリーニング検査をする

CKDにおける心不全の新規発生率は17~21%と報告されています*1腎機能が低下している患者さんを診察したら、心血管疾患の発症リスクが高いことを念頭に置き、心電図検査や心エコー検査、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)などの心機能スクリーニング検査を定期的に行うと良いでしょう。

⑤貧血の治療をする

貧血は心負荷を増大し、CKDを進行させることが明らかになっています。女性はヘモグロビン(Hb)の数値が12 g/dL未満、男性は13 g/dL未満の場合に貧血と診断されます。定期的な血液検査でHbの数値を確認し、貧血が確認されたら原因を調べ、適宜治療する必要があります。

まとめ

心血管疾患やCKDは、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病によって引き起こされることが多いため、どの診療科でも診る可能性の高い疾患と言えます。こうした患者さんを診たら、現時点で心臓・腎臓の一方に異常がなくても、将来的に双方の機能低下が起こる可能性も想定し診療することが大切です。今回紹介したポイントが先生方の診療の一助になれば幸いです。

大塚 真紀

執筆者:大塚 真紀

東京大学大学院医学系研究科卒。医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医。都内の大学病院勤務を経て、夫の仕事の都合で渡米し、アメリカでは研究員として勤務。現在は日本に帰国し、在宅で医療関連の記事の執筆や監修、医療系YouTube監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作、医療系生成AIのアドバイザー、オンライン診療、医学意見書作成、看護師や一般向けの書籍執筆など幅広く行う。

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