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国内における在宅医療へのニーズは、高齢化の流れを受けて年々増加しています。団塊の世代が後期高齢者になることで社会にさまざまな変化が生じる「2025年問題」を目前に、在宅医療の提供体制の整備とさらなる充実が全国各地で進められています。
今回は、専門医取得条件と認定試験、平均年収、求められる役割と資質などについても触れながら、在宅医療専門医について解説します。
在宅医療専門医とは
在宅医療専門医とは、一般社団法人 日本在宅医療連合学会(以下、日本在宅医療連合学会)による専門医制度の認定試験合格者に認められる資格です。
在宅医療専門医の制度認定を行う日本在宅医療連合学会は、日本在宅医学会と日本在宅医療学会が合併して2019年に誕生した団体です。両団体は在宅医療の充実を目的に掲げていますが、設立の経緯と内容は少し異なります。
日本在宅医学会は、在宅医療をエビデンス(科学的根拠)にもとづいた医療として実現するために1999年に設立した団体です。在宅療養者のQOL向上に寄与すると同時に、在宅医療に携わる医師が在宅での治療やケアについてより深く学べる場を設けるために活動を続けてきました。そして、2012年に一般社団法人化しています。
同団体の専門医制度は2002年に発足したもので、2005年度からの経過措置を経て、2008年に研修プログラムの認定が開始されました。その後、2009年にはテキスト『在宅医学』が発行となり、在宅医療専門医研修が始まったのです。
日本在宅医療学会は、在宅癌治療研究会を前身とする団体で1999年に発足しました。1999年に日本在宅医療研究会、2008年に日本在宅医療学会と名称を変え、2015年に社団法人化しています。発足当初の名称が示す通り、同団体はがん患者さまを対象とした在宅医療の確立と充実を目標としていました。その後、対象をがん以外の疾患にも広げ、学術集会の場を中心に在宅医療の問題点を取り上げて、その将来性を考慮した意見交換に取り組んでいます。
日本在宅医療学会の特徴としては、以下の5つがあげられます。
- 理事長として急性期病院の経営にも携わる医師(とくに管理部門経験者)が多数参加している
- 病院と地域における切れ目のない在宅医療体制
- 多職種連携の実現
- 在宅がん治療における連携体制の構築と医療の質向上
- ICTによる情報共有への関心の高さ
一般社団法人 日本在宅医療連合学会
在宅医療専門医の取得条件と認定試験
在宅医療専門医になるには、書類審査による一次試験に加えて、選択式試験とポートフォリオ面接で構成される二次試験に合格する必要があります。
専門医試験の受験資格は以下の通りです。
- 5年以上、医師としての経験を積んでいる
- 1年以上在宅研修プログラムを受講し修了している
なお後者の条件に関連して、5年以上の在宅医療(訪問診療)経験かつ学会の認定を条件に在宅研修施設での研修(常勤勤務)が免除される実践者コースが別途設けられています。
一般社団法人 日本在宅医療連合学会『専門医制度』
在宅医療専門医の平均年収
では次に、在宅医療専門医の平均年収を見ていきましょう。
在宅医療専門医の年収は、平均1,515万〜1,989万円です(※)。医師全体の平均年収と比較すると、高い金額になっています。
在宅医療専門医の平均年収が高い理由としては、「開業医が多い」「往診だけでなく訪問診療もする」といったことが考えられるでしょう。いずれの場合もマンパワーの確保と環境の整備が必要とされているため、診療点数は外来診療の約10倍に設定されています。
在宅医療には、ハード面とソフト面ともに多くの準備が求められます。診療に必要な機材は高額なものが多く、初期投資が必要です。たとえば、訪問先で使用している機器、持ち運び用の検査機器一式などです。機材の準備だけでなく、これらの取り扱い方法などを熟知する必要もあります。
※2022年3月時点のドクタービジョン掲載求人をもとに平均値を算出
在宅医療・訪問診療の役割
一般社団法人 全国在宅療養支援医協会によると、在宅医療は以下のように定義されています。
"在宅医療の定義として、「医療を受ける者の居宅等において、提供される医療。」と定義する事が出来る。外来・通院医療、入院医療に次ぐ、「第3の医療」と呼ぶ場合もある。"
全国在宅療養支援医協会『在宅医療について』
これまで、医療行為を行うのは診療所もしくは病院に限定され、在宅医療は往診時の突発的な状態に対応するための例外的な扱いでした。
しかし、1992年の医療法二次改正により医療を受ける者の居宅なども医療を行う場として認められました。これにより、在宅医療に対する従来の認識も変わったのです。
現在では、在宅医療は「老衰や病気の影響で身体機能が低下し、医療機関への通院が難しい方へ医療従事者が実施する医療」の総称として広く認識されています。
在宅医療に携わるのは、医師だけではありません。以下のように、専門知識を持つ医療従事者が専門的なサービスを提供します。
サービス | 関わる医療従事者 |
---|---|
訪問看護 | 看護師 |
訪問歯科診療 | 歯科医師・歯科衛生士 |
訪問リハビリテーション | 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士 |
訪問栄養指導 | 管理栄養士 |
このように、在宅医療では職種の垣根を越えた連携が求められるため、多くの医療機関が在宅医療専門医の資格を有する医師を求めているわけです。
在宅医療の需要が増加する理由
医科診療のうち、在宅医療が占める比率は上昇傾向にあります。経済産業省によると、2008年に比べて2018年ではほぼすべての年齢層で上昇が認められる結果となりました。
在宅医療が求められる理由としては、医療機関よりも自宅などの住み慣れた環境での暮らしを希望する人の増加、2025年問題を前にした医療費削減という社会的な問題の2つがあります。
在宅医療を受けるのは、高齢者に限りません。同資料によると、2018年6月時点で在宅医療を受ける人の年齢階級別割合は75歳以上が50%です。続く60〜74歳が22%、40〜59歳が14%、20〜39歳が6%、0〜19歳が8%と報告されています。とくに周産期医療の発展により、医療ケアが日常的に必要な「医療ケア児」も増えている状況です。
経済産業省『高齢者だけじゃない!需要増す在宅医療|その他の研究・分析レポート』
在宅医に向いている人の特徴
従前の医療と在宅医療では、多くの場合で求められる内容や対応方法が異なります。こちらでは、在宅医療で必要とされる心構えや姿勢を確認しましょう。
患者さまとご家族の意思を尊重できる
在宅療養中の患者さまの社会性を損なうことなく、家族や介護者など周囲に過度な負担をかけないためにも、介護や生活そのものが抱えている問題を直視して対応を考える必要があるでしょう。
在宅医療では、患者さまの尊厳とそのご家族の希望が尊重されます。その希望をふまえ、在宅医は人生の終末期を迎える患者さまにふさわしい声かけをし、必要な医療を提案するのです。それらはあくまで提案であり、意見を押し付けるものであってはなりません。
医師はサポート役であるという意識を持ち続けることが、在宅医には欠かせないでしょう。
在宅診療の知見と技術を常にブラッシュアップし続けられる
在宅医療のニーズが高まるのに比例して、在宅療法の選択肢も増えています。患者さまに適切な医療を提供するには、新しい技術への知見を広めつつ、並行して手技を磨く必要もあるでしょう。
また、病院診療所とは異なり、使用可能な設備や機材は限られています。制限がある環境下でできることを考えられる、柔軟な思考と対応力が求められるのです。
在宅医は「ときどき入院ほぼ在宅」に欠かせない存在
普段は自宅で過ごし、必要に応じて入院する「ときどき入院ほぼ在宅」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
近年、「最期は住み慣れた環境で心穏やかに過ごしたい」と考え、在宅療養を希望する方は増えています。高齢化が急速に進行する日本では、増大する医療費の削減を狙いとして、在宅医療制度が推進されているため、在宅医療は今後より身近なものになるでしょう。
在宅医療の現場では、病院勤務ではできない経験を数多く積めます。在宅医として働きたい方は、何事も楽しみながら率先して取り組む意識と姿勢を持ち続けることが重要でしょう。
ドクタービジョン編集部
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