地域包括ケアシステムとは?医師に求められる役割

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業界動向

公開日:2022.05.12

地域包括ケアシステムとは?医師に求められる役割

地域包括ケアシステムとは?医師に求められる役割

地域の限られた医療資源を有効活用するための制度に、地域包括ケアシステムがあります。2025年問題を筆頭に少子高齢化など諸問題を抱える日本において、これからの医療体制のあり方を考えるうえで重要な鍵となり得る制度です。そのため、地域医療や訪問診療に関心のある医師はもちろん、介護や福祉など関連する分野に携わる事業者もその動向を注視しています。

そこで本記事では、地域包括ケアシステムとはどのような制度なのかといった概要と、システムを構成する5つの要素、課題点などをご紹介します。

地域包括ケアシステムとは

地域包括ケアシステムとは

地域包括ケアシステムとは、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい生活を継続できるようにするためのサポート体制のことです。

2025年には、団塊の世代が全員75歳以上になるため後期高齢者の数が急増します。認知症を有する高齢者の増加も懸念されていることから、医療や介護に対するニーズは今まで以上に高まることが予想されるでしょう。

そこで保険者(都道府県や市町村など)が主体となって作り上げる、地域包括ケアシステムが誕生しました。高齢者が病気や老化などにより要介護状態になっても、5つの要素「医療」「介護」「生活支援」「介護予防」「住まい」を一体化した状態で提供可能な体制の構築を目指すというものです。また、地域包括ケアシステムは担い手が誰かといった観点から、「自助」「互助」「共助」「公助」の4区分に分類されます。

一般的に、高齢者は介護と医療の両方もしくはいずれかのニーズを有しているケースが多いです。そのため、地域包括ケアシステムは介護保険制度と医療保険制度どちらかの枠組みのなかで完結するものではなく、その双方から地域に住む高齢者を支えることを想定しています。

なお、医療的ケア児、小児難病、若年の障害者や心不全の患者さまも、この地域包括ケアシステムの対象となり得るとする意見もあります。

地域包括ケアシステムに関する窓口や実務面の運用は、地域包括支援センターが担っています。具体的には、介護予防ケアマネジメント、総合相談・支援、権利擁護、包括的・継続的ケアマネジメントなどです。

地域包括ケアシステムを構成する5つの要素

前述の通り、地域包括ケアシステムは次の5つの要素で構成されています。

  • 医療
  • 介護
  • 生活支援
  • 介護予防
  • 住まい

こちらでは、それぞれの内容を確認していきましょう。

●住まい

生活の基盤ともいうべき存在で、自宅や各種サービス付き高齢者向け住宅などを指します。本人の要望や経済力に合った場所であると同時に、プライバシーや尊厳が尊重された環境である必要があります。

●医療

高齢者個々人が抱える疾患や症状などに応じて、専門機関ならびに専門職から提供される医療サービスです。この要素を担う専門機関としては、病気の発症時や増悪時に対応する急性期病院、定期健診や持病の経過観察や日常的な診療などを担う地域の連携医療機関・かかりつけ医を想定しています。

●介護

介護には2種類あります。訪問介護や訪問看護などの高齢者が生活する空間に専門職が訪問する「在宅系サービス」、介護老人福祉施設などの特定の施設に通所もしくは入所して専門職によるサービスを受ける「施設・居住系サービス」です。

●介護予防・生活支援

地域内の高齢者が心身ともに元気に生活できるように支援する体制を指します。自治体単位では、コミュニティカフェなどの交流サロンの運営、配食と見守り、家事援助などがあります。介護予防サービスを積極的に活用することにより、要支援1・2の方でも自宅での生活が可能になります。

地域包括ケアシステムのメリット

地域包括ケアシステムが機能することによるメリットは複数あります。

まず、高齢者は、住み慣れた地域で一体的な医療・介護サービスを受けられるようになります。加えて、在宅医療・介護の充実化が期待されており、要介護の高齢者でも自宅で生活できるようになるでしょう。さらに、社会参加が促進されることで他者との交流が増えて、心の健康維持にも良い影響をもたらすと考えられます。

また、介護者も地域包括ケアシステムの恩恵を受けられます。要介護の高齢者を抱える家族にとって、介護による心身の負担は計り知れないものです。なかには必要な介護の内容や頻度、職場環境によって、介護離職せざるを得ないケースもあります。地域包括ケアシステムの構築は、介護者の心身の健康と生活を守ることにもつながるのです。

地域包括ケアシステムで医師に求められる役割

地域包括ケアシステムで医師に求められる役割

地域包括ケアシステムはいわば地域に密着した医療・介護の提供体制でもあります。そのため、かかりつけ医、郡市区医師会、中小病院・有床診療所の存在は不可欠です。

こちらでかかりつけ医の定義についておさらいしておきましょう。2013年8月8日に示された日本医師会・四病院団体協議会による提言『医療提供体制のあり方』には、以下のように記載されています。

"「かかりつけ医」とは、なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要なときには専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担当する総合的な能力を有する医師。"

生活習慣病を有する患者さまの診療を例に出して考えてみましょう。最初に行うのは日常的な医学管理と重症化予防です。生活指導ならびに処方箋作成と薬剤師との連携による服薬指導が該当します。

次に必要になるのは専門医療機関との連携です。治療や観察を含めた24時間対応、健康相談などがあり、必要と判断した場合には専門医療機関の紹介も行います。

そして最後は在宅療養支援と介護との連携です。要介護認定取得に向けた支援とケアマネジャー(介護支援専門員)との連携、在宅医療の提供がこちらに該当します。

こちらで紹介したのはあくまでも一例で、学校医や産業医との連携、多職種のスタッフに対するメディカルコントロール(MC)、患者さまに対するACP(アドバンス・ケア・プランニング/将来の医療およびケアに関する意思決定の支援)などもかかりつけ医の役割です。地域包括ケアシステムにおいて、かかりつけ医に求められる役割は多岐にわたることがわかるでしょう。

地域包括ケアシステムの現状の課題と今後

地域包括ケアシステムの現状の課題と今後

地域包括システムは全自治体で取り組むべき課題であり、各自治体が地域の実情を反映したうえで能動的に計画を作成して運用するものとの方針が掲げられています。しかし実際には、マンパワーや財源に課題を抱えている自治体が多く、「従前の業務をこなすのが限界」という意見も聞かれます。

ケアマネジャー視点からみた地域包括ケアシステムの課題として、サービス利用者側には移行への仕組み作りや利用者本人の意識改革、対するサービス提供側には資源不足と内容のばらつきなどを指摘する意見があるとの指摘もありました。

ほかにも、介護予防など啓発活動に対する関心が低い層や、関心はあるものの心肺機能の低下により参加困難になった市民への支援、活動の支援者の発掘や仲介人材の強化などの課題が残っています。

地域包括ケアシステムを人生100年時代を支える基盤に

国は、高齢者が住み慣れた環境で継続して生活し、そのまま終末期を迎えられるような基盤の整備を進めています。

医療技術の進歩などの影響もあり、人生100年時代と呼ばれるようになった現代では、「いかに長生きするか」と同様に「いかに自分らしく生きるか」についても重視する方が増えました。2025年問題を目前に控え、医療のあり方はさらに大きく変化するでしょう。地域包括ケアシステムはこうした流れに対応するための仕組みです。地域医療や訪問診療など、地域に根差した医療は今後さらに求められるようになるでしょう。

ドクタービジョン編集部

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