臨床現場で頻繁に対応が必要となる、輸液の管理。とくに若手医師の先生方は、現場で対応に悩むことも多いのではないでしょうか。
この記事では輸液(補液)製剤の種類と使い分けについて、研修医や学生の先生方に日々レクチャーされている長澤将先生にご解説いただきました。長澤先生の講義の一部を、ぜひご体感ください。
※この記事は、ドクタービジョンのPDF資料『輸液管理で知っておきたい、ベッドサイドで"使える!"考え方』の一部をご紹介するものです。

輸液(補液)の種類と体内分布
注:「輸液」と「補液」は臨床現場ではほぼ同義として扱われることもありますが、「補液」は体液量減少に対して補充するものを指し、「輸液」は状態を維持する目的の補充も含む、より広い概念を指します。
以下は「補液」という言葉で解説を進めていきます。
補液には1号液や3号液といった種類があり、いずれも生理食塩水(生食)と5%ブドウ糖液の割合を変えて混合したものです。それぞれNaの濃度が異なります。
長澤将 監修『輸液管理で知っておきたい、ベッドサイドで"使える!"考え方』(ドクタービジョン,2024)p.9より
次に、生食とブドウ糖液の体内分布を理解しましょう。イメージ図を提示します。
長澤将 監修『輸液管理で知っておきたい、ベッドサイドで"使える!"考え方』(ドクタービジョン,2024)p.7より
※ICF:細胞内液(intracellular fluid)、ECF:細胞外液(extracellular fluid)
5%ブドウ糖液は体内に入ると自由水となり、ICFとECFの間を均等に移動します。
対して生食は、体内に入ってもICFには移動しません。あくまで理論的な分布ですが、これを基本としておさえてください。
重症例では生食や5%ブドウ糖液が血管内から間質に逃げてしまうこともありますが、基本的にICF:間質:血管内の割合は変わることはないと理解しておきましょう。
外液(細胞外液補充液)
生食(Na 154 mEq/L)と同程度のNa濃度(130~154 mEq/L)で、ICFには分布せず、ECF(間質・血管内)のみに分布します。
間質と血管内の分布は3:1なので、1,000 mL投与すると間質に750 mL、血管内に250 mL分布することになります。
長澤将 監修『輸液管理で知っておきたい、ベッドサイドで"使える!"考え方』(ドクタービジョン,2024)p.8より
1号液
生食と5%ブドウ糖液を1:1で混合したものなので、Na濃度は生食の半分程度=70~90 mEq/Lです。
1,000 mL投与する場合、生食と5%ブドウ糖液が500 mLずつ混合されていることになるので、体内では以下のように分布します。
長澤将 監修『輸液管理で知っておきたい、ベッドサイドで"使える!"考え方』(ドクタービジョン,2024)p.10より
3号液
生食:5%ブドウ糖液=1:3で混合したもので、Na濃度は30~45 mEq/Lです。
1,000 mL投与する場合、生食=250 mL、5%ブドウ糖液=750 mLが以下のように分布します。
長澤将 監修『輸液管理で知っておきたい、ベッドサイドで"使える!"考え方』(ドクタービジョン,2024)p.10より
5%ブドウ糖液
5%ブドウ糖液 100%なので、Na濃度は0 mEq/Lです。
1,000 mL投与するとICFに666 mL、ECFに333 mL(間質250 mL 、血管内83 mL)分布します。
長澤将 監修『輸液管理で知っておきたい、ベッドサイドで"使える!"考え方』(ドクタービジョン,2024)p.8より
輸液(補液)の選択
補液の目的は体液量の補充ですので、まずはNaを補充する意図で外液を選択します。
とくに嘔吐や下痢などで脱水症状がある場合は、体外に水分が出ていくことでECFが減少するため、生食の補液が必要です。
補液後も体内のNaやKを適切なバランスで維持し続ける必要がある場合は、3号液を選択します。
3号液にはKが含まれているため、尿で喪失するKを補うことができるためです(このことから、3号液は「維持輸液」とも呼ばれます)。
使いどころは"体液量のバランスが良くなってから"です。病院に来たばかりで3号液を選択する意義はほとんどありません。病態が読めずKを避けたいという理由であれば、外液でも5%ブドウ糖液でも良いことになりますし(Naも負荷したくないという理由で1号液を選択するケースはしばしばあります)、腎臓が正常に働いていれば、わざわざ3号液を使う必要はありません(腎臓が十分に調整してくれるため)。
補液は病態に応じて選択し、適宜変更すべきものです。患者さんの「体重」を聞き取り、補液の選択や投与状況の評価を判断するのが補液の基本です。
長澤将 監修『輸液管理で知っておきたい、ベッドサイドで"使える!"考え方』(ドクタービジョン,2024)p.12より