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2024年4月から「勤務医の時間外労働時間を原則として年間960時間までとする」といった、「医師の働き方改革」の施行が掲げられています。
しかし、その一方で高齢化と医師不足の問題や、医師の業務負担の増大などの様々な課題が生じているのも事実。さらに新型コロナウイルス感染症が拡大した場合に備えた医療体制の充実も求められており、働き方改革が実現される前段階でさらなる議論が必要とされています。
そんななか、注目されているのがNP(ナース・プラクティショナー)です。今回は、NPとはどんな存在か、NPが医師の働き方改革にどのように関わっていくかなどをご説明します。また、海外でNPがどのような活躍をしているのかという事例もご参考にしてください。
増える労働時間...。医師の働き方の現状
今日まで、医師の長時間労働の問題は何度も取りあげられてきましたが、改善には至らない印象があるのではないでしょうか。医師が長時間労働になる原因には、(1)慢性的な医師不足、(2)医療ニーズの多様性、(3)医師自身のスキルアップ・知識技能の習得といったものがあり、いずれもすぐには解決できない複雑な状況です。
(1)慢性的な医師不足
日本における対人口比率での医師数の少なさは先進国内でも目立っています。しかし一方で、日本では国民皆保険制度によりすべての国民が同じ医療費で平等に一定水準の医療をうけることができるため、疾患・外傷の程度によらず診療ニーズが非常に多いのも特徴です。そして高齢化により医療の需要はさらに高まり、供給が追い付かない状態にますます拍車がかかっているのが現状でしょう。
(2)医療ニーズの多様性
医療ニーズには、24時間365日の治療体制を必要とするものや救急対応、リハビリ、緩和ケアなど様々な種類があり、区切りのないグラデーションのように常在しています。加えて応召義務、当直やオンコール体制などによって医師の過重労働が暗黙の了解となってきたことも問題視されています。
これらの体制も少しずつ変わってきているという話もありますが、忙しい当直で一睡もできないまま翌日の一般業務をこなしたり、36時間労働が当たり前の風潮が残る医療施設も少なくないようです。過度な睡眠不足のなか重要な判断を問われるのは医療ミスにもつながりかねません。
(3)医師自身のスキルアップ・知識技能の習得
最先端の知識と技能を習得し、より高度で安全な医療を患者さまに提供したいという医師本人の職業意識や病院の体制が、時間外労働の要因になっている場合も考えられます。勤務時間終了後、業務上必要とされている研修や教育訓練に参加する場合は労働に当たりますが、自己研鑽として時間外労働に算入されていないケースは珍しくありません。
さらに、昨今では新型コロナウイルス感染症のため、担当する医療従事者は不眠不休で現場に出ています。海外の調査では、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化した国の医療従事者に不安障害や睡眠障害、うつ病や体重減少などが観察されるとの報告も。また、日本でも大震災の直後、被災地ではマンパワーと医療物資の不足のため医師一人当たりの労働時間が長大化し、医師自身の健康に多大な影響を及ぼしたという研究も発表されました。
医療従事者一人ひとりが限界ギリギリで働いている状態を見逃すと、医療体制のパンク、ひいては医療崩壊につながる恐れがあります。とくに地方やへき地では医療体制の不足が常態化しており、この傾向はますます深刻になっていくと考えられるでしょう。
NP(ナース・プラクティショナー)とは?
国が認めた新たな制度、診療看護師(Nurse Practitioner:ナース・プラクティショナー、以下NP)は、医師と同様の診療・処方を一定の制限のもとで行える看護師のことを指します。
たとえば、人工呼吸器を患者さまの状態に合わせて調整しウィーニングを促進したり、疾患の兆候がある患者さまに適切な処置を行ったり、従来は医師からの指示がなければ実行できなかった医療行為を、NPは自らの判断に基づいて行うことができます。いわば、医師と看護師の中間にあたる存在です。
NPは看護師のバックグラウンドがあり、患者さまの療養・介護といった視点から症状マネジメントを意識できます。医師は疾病マネジメントという役割を果たしており、NPと医師が連携・役割分担しながら患者さまの状態を総合的にアセスメントし、患者さまのQOLを高めていくことが可能です。
ちなみにNPは、日本に従来ある認定看護師と専門看護師とは別の制度です。認定看護師は、緩和ケアなどの特定分野の看護で高い専門性を発揮しながら、実践・指導・相談を通じて看護の質向上に貢献していく存在です。一方、専門看護師は、がん看護や精神看護など、複雑な看護問題を持った患者さまとその家族に水準の高い看護ケアを提供します。いずれも医師の指示がなければ、診断や薬の処方は認められていません。
海外におけるNPの活躍の事例
NPは1965年にアメリカで開始した制度で、現在は約25万人のNPが州と国の医療を支えています。もともと熟練の看護師がプライマリ・ケアを提供できるようにと発案されたもので、1980年代にはNPのプログラムの大半が修士課程になり、地方のクリニックや保健施設、地域保健センターや外来など多くの医療施設に進出しました。
アメリカのNPは高度実践看護師に属し、診断・治療・教育啓発を担います。急性・慢性問わず患者さまに問診を行い、薬を処方する権限を有しています。1997年にはメディケア(高齢者医療保険)の対象に認められ、全米で法的認可が明確になりました。州ごとにNP業務を規定する法律が存在したため、共通のモデルと教育プロトコルの構築に時間がかかったものの、オバマ政権下で米国国民皆保険制度(オバマケア)が施行された際は、NPなど高度実践看護師が管理・指導するヘルスセンターが数多く発足しました。現在、薬局などでもNPが開業するクリニックを日常的に見られます。
アメリカのほかにも、NPはカナダ、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、オランダ、シンガポールなどで導入されています。
NPによって医師の働き方が変わる可能性も
日本で公的にNPが議論されはじめたのは3月、「医師の包括的支持の下で診療の補助行為を実施できる特定看護師(仮称)」の活用が提案された頃からです。
まだ国内でのNPの数は少ないですが、一般社団法人日本NP教育大学院協議会が実施する「NP資格」試験に合格したNPは359人(2018年3月現在)となり、すでに病院や訪問介護ステーション、介護施設などで活躍しています。また、各医学校の大学院修士課程でもNPの養成教育がスタートしています。
NPは経過観察や療養指導、身の回りの世話など、患者さまとその家族に寄り添うかたちの看護業務に高いスキルを有し、そのうえで医師と同等の医学知識・技能を発揮できる存在です。
たとえば、外科、脳神経外科などでは、医師が担当できない一部の診療業務をNPが担当します。また、麻酔科との連携により効率的に手術室を稼働させたり、救急医との連携で診療シフトを充実させたりすることも可能でしょう。
タスクシフティング(業務移管)は高齢化と医師不足が進むなかで不可欠です。NPはそのタスクシフティングを引き受けることで、医師の働き方改革にも大きな影響をもたらす可能性があると考えられています。
さらなる連携と医療のクオリティ向上に貢献するキーパーソン
NPは看護師として、患者さまとその家族・関係者に寄り添うサポートを提供しながら、効率的・効果的に診断と治療を実行する能力を併せもっています。診断の結果を医師と同じレベルの言語で通達することで、より迅速に適切な医療を提供できるようになるでしょう。医師・NP・看護師によるチーム医療に対して、さらなる連携とクオリティ向上に貢献するキーパーソンとして期待されています。
それは、地域医療体制の基礎体力を底上げすることや、医療従事者の過重労働問題を解決に導くことにもつながっていくでしょう。
今後、さらに多くのNP人材が育ち、医療の現場で活躍するようになります。そのとき、医師一人ひとりにも、タスクシフティングと連携によって優良なチーム医療体制を構築していく意識が求められています。
ドクタービジョン編集部
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