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2018年に導入された新専門医制度にともない、2020年度採用分から新しくスタートした「シーリング制度」。これは、地域間・診療科間の医師偏在を緩和するために設置された制度ですが、複雑な仕組みもあってなかなか理解が進まないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一度選択したら、数年はその地域・診療科での研修を積まなければなりません。ご自身のキャリア形成のためにも、現時点での制度をしっかりと理解しておきましょう。
この記事では、シーリング制度が取り入れられた背景から内容、制度上の課題、希望するキャリアを形成していくために必要なことをご説明します。ぜひご自身の理想とするキャリア形成のためにお役立てください。
新専門医制度における「シーリング制度」とは?
2018年度からはじまった新専門医制度にともなって、地域間・診療科間の医師偏在を解決するために、2020年度より新しいシーリング制度(採用数の上限設定)が設けられました。
この制度の考え方は、すでに必要医師数を確保できていると思われる都道府県・診療科にシーリング(限度)を設け、採用された一部の専攻医を医師不足の都道府県に派遣し研修させるというものです。
シーリング制度は、医師数の均衡化を目指してはじまった制度。しかし、各専攻医は希望とは異なった都道府県で研修を受ける可能性があるなど、まだいくつかの課題を残しています。
シーリング制度を設けた背景
そもそもシーリング制度が導入された背景には、2018年度からはじまった新専門医制度が深く関わっています。従来の専門医制度は、各学会がそれぞれの専門医資格を規定していたため、医師の質が担保されているのかが不透明であることが課題となっていました。そこで、日本専門医機構という中立的な第三者機関により、認定の統一基準を持つ専門医養成プログラムが構築されたという流れがあります。
しかし、要件が厳しくなったことで、対応できる基幹施設の数が減ってしまい、一部の地域・診療科に人気が集中してしまうようになったのです。結果的に、地域間・診療科間にあった医師偏在の問題が助長されてしまう懸念が医療現場から上がってきました。
医師が都市部に集中し、診療科によって数に大きな差があることで、地方では人手不足がさらに深刻化し、勤務時間にも倍近くの差が生じていたことが発覚...。また、働き方改革の観点からも、医師数の均衡化が急がれました。
新しく提案されたシーリング制度の内容
シーリング制度は、まず2018年の新専門医制度導入当初に五大都市(東京都・神奈川県・愛知県・大阪府・福岡県)で実施されました。しかし、効果検証が行われると、東京都への一極集中が是正されていないことが判明し、また、大都市ではあるものの神奈川県や愛知県では医師数が過剰でなかったため、地域格差の解消としてうまく機能していないという指摘がされていました。
そこで2020年度から、必要医師数と必要養成数をもとにした以下の新しいシーリング案が提案されました。
「2016年医師数」が「2016年または2024年の必要医師数」を上回る都道府県・診療科が設定対象となる
2.採用数の一部は「連携プログラム」枠となり、シーリングのない都道府県で研修を行う
シーリング上限のうち約20%の「連携プログラム」枠内で採用された専攻医は、研修プログラムの50%以上をシーリングの設けられていない都道府県で行う
3.連携プログラム枠のうち一部を医師不足が顕著な都道府県で研修を行う
連携プログラムの一部(上限5%)を医師不足が顕著な都道府県で、研修プログラムの50%以上を行う ※都道府県別ではなく、医師が不足している地方ブロックごとに区分けして足下充足率を計算する「ブロック単位連携プログラム」も導入検討中
シーリングの対象となる診療科
2020年11月現在では、外科、産婦人科、病理・臨床検査、救急・総合診療科を除いた診療科が対象となっています。また、診療科以外では、地域枠や自治医大卒の医師は対象外です。
内科、小児科、泌尿器科、脳神経外科、整形外科、形成外科、耳鼻咽喉科、放射線科、皮膚科、精神科、麻酔科、眼科、リハビリテーション科
専攻医におけるシーリングについて(令和2年1月29日)
希望の診療科を専攻できないことはある?シーリング制度の課題と注意点
シーリング制度により上限が設定されることで、「希望する地域・診療科を専攻できなくなるのでは?」という懸念もあるかもしれません。たとえば実際に人気の高い東京都の内科を希望した場合は、狭き門となることが予想されます。そのためもし採用されなかった場合は、シーリングのかかっていない都道府県を研修先に選ぶ必要が出てくるでしょう。
また、採用された場合も連携プログラム枠内であった場合、研修プログラムのうち一定期間(2021年度の場合:1年半)は別の都道府県で受けることになります。さらに、連携プログラムのうち一部(上限が5%)は、医師不足が顕著な青森、岩手といった東北地方をはじめとする都道府県に派遣されることとされています。
※シーリングの計算方法は、「2018年と2019年の平均採用数」から(「2018年と2019年の平均採用数」-「2024年の必要医師数を達成するための年間養成数」)×20%を除いた数です。計算式に基づいて年度ごとに変わる点に注意が必要です。
日本専門医機構2021年プログラム募集 シーリング(3月27日理事会決定)
ここで注意したいのは、シーリングを受けて隣接する地域を選択したとしても、隣接の地域の医師数も変動する可能性が非常に高いという点です。たとえば東京都で採用されず、シーリングのかかっていない神奈川県を研修先に選んだとします。しかし、同じような希望を出した人が多ければ神奈川県の採用数が増えるため、「2016年または2024年の必要医師数を上回る」ことになり、シーリングの対象になってしまいます。
また、この制度の問題点として、必要医師数が医師の診療エフォートでしか算出されておらず、教育・研究エフォートについての議論が十分でない点が指摘されています。医育機関への専攻医採用の制限と基礎医学研究に携わる若い医師の減少が続けば、医療分野における日本の研究力の大幅な低下は避けられないでしょう。次世代の医師を育成する教育力を維持すべく、教育・研究の人材確保という観点も組み込みながら制度を活用していく必要があります。
シーリング制度下で希望するキャリアを形成するために
2018年度に新専門医制度、2020年度にはシーリング制度がはじまり、凄まじいスピードで様々な議論を繰り広げながら運用されているのが現状です。
今後も制度の対象となる地域・診療科が変わってくる可能性が高く、前述の通り医師数に応じてシーリング枠数は毎年変動します。そのため、日頃から情報収集を欠かさないことが何よりも大事です。人気の高い地域での専攻を希望する場合は、とくにその地域と周辺地域の研修状況をチェックしておきましょう。
情報収集とプランニングを重ね、計画的なキャリアプランを
医師の質の均等化と向上、および地域間・診療科間の格差と偏在の是正など、医療問題を解決する目的で新専門医制度とシーリング制度ははじまりました。
いまだ医師数の不足が目立つ地域での活用法や、教育・研究領域への影響をはじめ課題は絶えませんが、今後もさまざまな変化が予想されます。
まずは自分の希望するキャリアを明確にし、どのように実現していけばよいか、日頃から情報収集とプランニングを重ねていく必要があるでしょう。
ドクタービジョン編集部
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