医師の残業時間の法律どう変わる?労働時間の上限と請求できる残業代

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公開日:2024.04.24

医師の残業時間の法律どう変わる?労働時間の上限と請求できる残業代

医師の残業時間の法律どう変わる?労働時間の上限と請求できる残業代

休日出勤や当直、オンコール対応に追われる医師は、残業時間が長くなってしまう傾向があります。

医師という職業の性質上、会社員とは規定も異なっており、残業時間の上限が定められていませんでした。しかし2024年4月1日以降は法律が施行され、医師の残業時間にも上限が設けられるようになりました。

〈この記事を読んでわかる内容〉
  • 医師平均労働時間
  • 医師の残業時間が増えてしまう理由
  • 残業代を請求できるケース
  • 残業時間を減らすには

医師自身が健康を維持し、よりよい医療を提供していくために、残業時間の新しい規定について確認しておきましょう。

医師の平均労働時間

医師は人の命を預かる仕事で、緊急時の対応を迫られれば時間は関係ありません。会社員と比べると、残業時間は長くなる傾向にあり、労働時間が長時間になるのも珍しくありません。

令和4年に調査された病院勤務医の労働時間は、以下のようになっております。

労働時間 割合
週40~50時間 32.7%
週50~60時間 23.7%
週60~70時間 12.1%
週70~80時間 5.4%
週80~90時間 2.3%
週90~100時間 0.9%
週100時間以上 0.5%

参照:厚生労働省「医師の勤務実態について」

病院勤務医の23.7%が週50~60時間の労働をしており、32.7%で40~50時間となっています。
一般的な過労死ラインは週80時間ともいわれており、約4%の医師は激務であるとわかります。

医師の残業時間が増えてしまう理由

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なぜ医師は残業時間が長くなってしまうのでしょうか。主に4つの理由が考えられます。

医師からみた医療の特性

医師からみた医療の特性は、厚生労働省によって以下の4つの性質があると記されています。

公共性 医師に国民の命を守る義務があるとするもの
不確実性 疾病の発生や症状の変化が予見不可能であるとするもの
高度の専門性 医師の養成には約10年の長期を要し、業務独占とされている
技術革新性と水準向上性 常に知識・手技の向上が必要となる

参照:厚生労働省「医師の働き方の観点からみた医療の特性」

このような医師の職業としての性質上、残業が多くなってしまうといえます。

応召義務がある

応召義務とは、医師法第19条によりこのように規定されています。

医師法(昭和23年法律第201号)(抄) 第19条 診療に従事する医師は、診察治療の要求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

参照:厚生労働省|医師の応召義務について

このように医師は患者さまが診察を希望していれば、正当な理由がない限り断れません。要求に応じていると残業が続いてしまうのが、長時間労働の要因のひとつといえるでしょう。

残業が当たり前の風潮

医師は医療のプロフェッショナルであり、多少の残業はあって当たり前という風潮があります。また病院と医師で36(サブロク)協定という、長時間残業を前提とした協定が締結されているケースも多いです。医師の働き方改革も20244月から施行されましたので、医師の働き方についても考えていかなければいけない時代になっているといえるでしょう。

診療以外の業務

医師は患者さまを診療する以外にも、多くの業務を抱えています。

  • 院内の委員会活動
  • 会議
  • 診断書などの書類の作成
  • スタッフの教育・指導
  • 自己研鑽のための勉強

特に深夜の当直業務は、急患が運ばれてきたり、入院患者の容体が急変したりと、予測できない事態への対応を迫られるケースもあります。当直で疲弊しきった状態でありながら、翌日診察があり休めないという日もあるでしょう。

外科医であれば、執刀時間が長時間になり休みがとれないというケースも珍しくありません。会議や学会に出席したり、診断書などの書類の作成があったり、最前線で活躍している医師ほど、業務に追われているといっても過言ではありません。

医師の残業時間の法律改訂(2024.4.1以降)

2024年3月31日までは医師の残業時間に、法律上の上限はありませんでした。しかし、医師の長時間労働の実態を経て、202441日以降は働き方改革により、上限の規定が定められました。

一般的な残業規定と同様に、月45時間、年360時間となります。医師の職業の特性上、特例措置が設けられていますので内容を確認しておきましょう。

▼法律改定について

  • 公布日・施行日
  • 残業時間の上限が月45時間/360時間に
  • 複数月平均80時間以内の規制なし
  • 100時間超が許される
  • 年間上限時間の水準

公布日・施行日

良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律(参考:厚生労働省「医師の働き方改革について」)の公布日・施行日はこちらです。

公布日 2021年5月28日
施行日 2024年4月1日

これらの法律を遵守しなければいけませんので、各医療機関は変化を余儀なくされます。これまで長期間、当たり前とされてきた風習を改革するので、現場の理解を得るところから始める必要があるでしょう。

残業時間の上限が月45時間/360時間に

一般的な規則では、残業は月45時間を超える月は年6回までとされています。しかし医師の場合は、月45時間を超える月の上限はありませんでした。医師はその業務上、緊急処置が必要になったり、受け持ちの患者さまの状態により手が離せなくなる状況も考えうるからです。

しかし残業時間の法律改正により、時間外労働の上限が原則として月45時間、年360時間へと変更になりました。

複数月平均80時間以内の規制なし

一般的な規則では、残業時間が月45時間を超える場合は、月100時間未満であり、なおかつ2~6ヶ月の平均が80時間という規制があります。一方、医師の場合はこの平均80時間以内という規制はなしとされています。

こちらも医師という職業の性質上残業時間の調整が困難であるための配慮だとされています。

100時間超の場合は面接指導がある

一般的な規則では、いかなる臨時業務があろうとも月100時間超えの残業は認められません。一方、医師は時間外・休日労働時間が月100時間超えの医師に対して面接指導実施医師による面接指導があるなど、超えることを想定した取り組みが用意されております

ただし連続勤務は28時間まで、勤務の後は9時間のインターバルを確保するといった規則があります。

年間上限時間の水準

医師の特例には細かくこのような水準があります。

上限時間/年 面接指導 休息時間の確保
A
(一般労働者と同程度)
960時間 義務 努力義務
連携B
(医師を派遣する病院)
1,860時間
※2035年度末を目標に終了
義務
B
(救急医療等)
C-1
(臨床・専門研修)
1,860時間
C-2
(高度技能の修得研修)

参照:厚生労働省|良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律

医療機関の属性により水準が異なり、A水準であれば休日労働や時間外労働を含む年間の時間外労働の上限時間が960時間までとなります。B水準とC水準は年間の時間外労働の上限時間は1,860時間となっており、こちらも休日労働や時間外労働が含まれています。

医師の残業代請求について

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これだけの残業や時間外労働をしている医師なので、残業代はきちんと請求しなくてはいけません。中には残業代を請求できないと言われているケースもあるようですが、残業代を払わない行為は違法である可能性があります。これらの給与形態での医師の残業代請求について、ご説明します。

▼給与形態ごとの残業代請求

  • 年俸制
  • 固定残業代制
  • 管理監督者

年俸制

事前に決められた年俸に基づき、毎月一定額を受け取っている年俸制の医師でも残業代を受け取れます。年俸制の医師であっても、使用者と労働者の労働契約関係には労働基準法が適用されているためです。

  • 明確に年俸に残業代が含まれている
  • 基本給と残業代の区別が明確である

上記の条件を満たしていれば、年俸の一部を残業代としてすでに受け取っています。この条件を満たしていない状態であれば、残業代が支払われていないと言えます。「年俸制だから残業代が出ない」というだけの説明を受けているのであればそれは間違いの可能性があり、残業代を請求できるようになるかもしれません。

まずは基本給と残業代の区別がついているか、確認してください。

固定残業代制

残業代とは一般的に所定労働時間を超過した分の労働に対して支払われるものですが、固定残業代制は予め給与や年俸に残業代が含まれているものとなります。拘束時間が長くなるという懸念がありますが、たとえ残業をしていなくても固定残業代は支払われます。固定残業代制の場合は、こちらの区分が明らかになっているかを確認してください。

  • 通常の労働時間に対する賃金
  • 時間外労働等の割増賃金

たとえば「給与70万円(固定残業代を含む)」という書き方ではなく、「給与70万円(固定残業代〇万円を含む)」というように、基本給と残業代の区別がついているかがポイントとなります。

医療機関側は、固定残業代を超過した残業代を支払わなければなりません。

管理監督者

医療機関内で「スタッフの管理は当たり前」「役職がついている」という理由で、残業代が支払われないケースがあるようですが、それは間違いです。確かに「管理監督者」であれば残業代を支払わなくても問題ありませんが、例えば病院内で管理監督者の方が多いなんてことはないので、該当しない人の方が多いはずです

このような条件を満たすようであれば、管理監督者となります。

  • 病院の経営に関与できる立場である
  • 病院職員採用の権限を持っている
  • 賃金面ですでに高い待遇を受けている
  • 勤務時間の制限を受けていない

勤務医であれば多くの場合でこのような条件を満たさないので管理監督者とはならず、残業代の請求が可能です。

残業時間60時間超の割増率

60時間を超えた残業に対しては、50%以上の割増率で賃金を支払わなければいけません。(参照:厚生労働省「改正労働基準法」)

2023年4月以降より、医療業界に限らず全ての企業が対象となっています。そのため月60時間以上の残業をしているようであれば、残業代の計算方法も変わってきますので、正しく支払われているか確認しましょう。

医師の残業を減らすには

「医療は公共事業で残業は当たり前」と考えず、より良い働き方ができるように残業を減らせるような働きかけをしていきましょう。患者さまの健康を守る前に、医師や看護師の健康を確保していかなくてはいけません。

残業を減らすための働きかけとして、このような方法を試してみましょう。

▼残業を減らす手段

  • 病院に業務改善を依頼する
  • 地方公務員として勤務する
  • 残業の少ない病院に転職する

病院に業務改善を依頼する

まずは勤務先である病院に、業務改善を依頼するというのがひとつの方法です。しかしただ要求を出すだけでは通りにくいので、業務効率化の提案ができると理想的です。

マニュアル化できるものはないか、患者さまにとっても身近である地域の病院との連携がとれないか等を検討してみましょう。地域の病院との連携がとれれば、同じ検査を繰り返す必要がなくなり、無駄がなくなるので患者さまにとってもメリットとなるでしょう。

医師や看護師が疲弊した状態では、医療に不可欠な判断力や行動力が鈍ってしまう可能性もあります。簡略化できる業務を改善し、働き方改革をして、より高度な医療を提供できる環境を整えていきましょう。

公務員医師として勤務する

大学病院のように最前線で医療に携わっていると、労働時間の改善にも限界があるかもしれません。労働時間の上限に関する規則が厳しい公務員医師として、勤務先を変えるのも手段のひとつとなるでしょう。

都道府県立病院や市立病院、警察医として県警に勤める医師もいます。地域ごとの差はありますが、公務員と同等の水準で時間外労働の上限が決められています。

残業の少ない病院に転職する

現在の病院の体制に疑問を持っているのであれば、残業が少ない病院へ転職するという方法もあります。救急外来や時間外外来がある、入院を受け入れている、さらにその病床数が多い病院は、労働時間が長くなってしまう傾向にあります。

例えば、リハビリテーション科や慢性期病棟では急患が少なく、業務の内容の予定が立てやすいので、残業は少なくなると考えられるでしょう。

医師の残業時間に関するまとめ

医師が残業をするのが当たり前という時代は終わりました。しかし、救急や産婦人科などは、特に緊急の対応が必要な場合が多く、昼夜を問わず激務になってしまうかもしれません。

医師自身も健康を確保し、医療の質や安全性が高い状態で保たれていくべきです。医療業界では2024年4月から働き方改革が行われておりますので働き方改革の施行に伴い、今後そのような環境が整っていくことが求められています。

ドクタービジョン編集部

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