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トラブルを起こさず、スムーズかつ円満に退職するには、小さな配慮や事前準備の積み重ねが大切です。
そこで今回は、病院側からの引き留めへの対応法や業務引継ぎの注意点、挨拶回りの順番など、円満退職のポイントを時系列でまとめました。
時系列で分かる、医師が円満退職するための流れ
1年半~1年前:新しいキャリアや生活の計画を立てる
転職に向けて、漠然とした希望を具現化するためにリサーチを始める時期。新天地を求める理由を明確にし、行動を起こす前にキャリアアップの展望や生活の基盤となる収支バランスについてしっかりと計画を立てておきましょう。転職の前に「退職」という難関が待ち受けていることを念頭に置き、対処法を想定しておくと流れがスムーズになります。
情報収集の方法は、WEB検索や読書といった独学のほか、経験者からアドバイスを受けたり転職セミナーに参加したりとさまざまです。情報の質の高さと時短を求めるなら、プロのコンサルタントに依頼して方向性を定めるのも有効です。
1年~半年前:転職先を決定し、退職の意思表明を行う
リサーチを十分に行い将来の展望が見えてきたら、転職に向けた準備を始めます。待遇面などの定量的な条件のほか、職場の雰囲気や面接官の人柄などといった定性的な要素も加味して慎重に選択しましょう。不明点はうやむやにせず、細かな諸条件もできる限り書面を通して契約を交わしておくのが得策です。
再就職が決まったら、いよいよ現在の勤務先に退職の意思を伝えます。民法第六百二十七条では、退職について以下のように定められています。
- 期間の定めのない場合...雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
- 期間によって報酬を定めた場合...使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
- 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合...解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。
雇用期間の定めの有無や年俸制であるか否かによって退職を申し出るべき時期は変わりますが、医師の場合、周囲への影響を鑑みて半年前もしくは遅くても3ヶ月前までに退職を申し出るのが望ましいでしょう。
医局が次年度の人事体制を決定するまでに要する期間は、同じく半年から3ヶ月程度です。自身が抜ける影響を最小限にするため、人員配置が確定する前に退職を申し出る配慮が求められます。まずは直属の上司に相談し、退職に向けた面談の約束を取り付けましょう。
半年~3ヶ月前:退職日を決定する
退職日を決定するには、自身の意向だけでなく勤務先や転職先との調整が必要です。場合によっては病院側から退職のタイミングについて譲歩を求められることもあります。グループ病院がある場合は病院間の人事異動も絡んでくるため、状況はさらに複雑です。医局内に暗黙のルールが存在する場合、それに則って動くと周りの心象もよくなります。
また、転職先が入職日の融通を効かせてくれるかどうかをあらかじめ確認しておくことも重要です。各方面に気を配り、折衝に努めましょう。
1ヶ月~2週間前:業務の引継ぎを行う
業務の引継ぎにおいて最優先すべきは、患者さまのケアを滞らせないことです。後任医師の手に渡るカルテには、治療方針や処方の根拠・経過・患者さま本人や家族とのやり取りなどを詳細に記載しましょう。退職後も後任医師と連絡が取り合える間柄でない場合は、カルテのほかに引継ぎ書も作成すると親切です。早めの引継ぎを心掛ければ、在籍しているあいだに後任医師からの質疑にも対応できます。
受け持ちの入院患者やかかりつけ医として長年担当している患者さまがいる場合は、人づてではなく自ら退職の旨を伝え、病院に対して誤解や不信感を抱かせないよう努めましょう。引継ぎのタイミングで後任医師を紹介できれば、患者さまもさらに安心できます。
1週間~数日前:退職手続き、周囲への挨拶回りを行う
退職へのラストスパートともいえるこの時期には、事務的な手続きやお世話になった方々への挨拶回りを行います。以下にそれぞれの要点をまとめました。
退職時に必要な手続きと受け取る書類
健康保険の手続き
退職後すぐに新しい職場に移籍する場合は病院経由で健康保険の切り替えが行われるため、個別に手続きをする必要はありません。
再就職先が未定もしくは離職期間が発生する場合は、前職の健康保険を任意に継続することが可能です。手続きの期限は、退職日の翌日から20日以内です。
個人で国民健康保険に加入し直す場合は、退職日の翌日から14日以内に手続きを行う必要があります。
年金の手続き
再就職先が決まっている場合は、年金手帳を新しい勤務先に提出して手続きを一任します。
就職先が未定の場合やクリニック開業などで個人事業主になる場合は、厚生年金を脱退して国民年金に再加入する必要があります。
雇用保険の手続き
退職時に受け取った「雇用保険被保険者証」と「離職票」を新しい職場に提出すれば、その後の手続きは病院側で行われます。
再就職先が未定で2ヶ月以上の離職期間が見込まれる場合は、ハローワークで雇用保険の受給申請ができます。
住民税と所得税の手続き
これまで住民税を給与から天引きする「特別徴収」で納付していた場合、退職と同時に「普通徴収」へと切り替えられます。各自治体から送られてくる通知書の指示に従って、個人で納付手続きを行ってください。再就職先で「切替届出書」を提出すると、給与からの天引きを再開できます。
所得税は退職時に受け取る「源泉徴収票」を再就職先に渡すことで問題なく引継ぎが完了しますが、転職先が未定もしくは開業予定の場合は税務署で確定申告を行う必要があります。
退職時に勤務先から受け取る書類
- 雇用保険被保険者証
- 年金手帳
- 退職証明書
- 離職票(※後日郵送またはメール送信)
- 源泉徴収票
退職時に勤務先へ返却するもの
- 健康保険被保険者証
- 通勤定期券
- パソコン(周辺機器)
- 制服
- 社員証
- 名刺
- 各施設の鍵
- 通信機器(社内用スマホなど)
挨拶回りは数日に渡って行う
これまでの経験で痛感されている通り、医療現場のスタッフは多忙を極めている上、時間の制約もあります。退職の挨拶は簡潔に話せるよう準備しておきましょう。ネガティブな話題は避け、退職理由は「一身上の都合」でまとめるのが無難です。加えて、感謝の気持ちや今後も精進するという意気込み、居合わせた人たちの健康と多幸を祈る言葉を添えると好印象を残せます。
関係者一人ひとりに伝えるのが難しい場合は、朝礼などで挨拶の時間を設けてもらうと効率的です。勤務最終日に不在のスタッフには、事前に声を掛けておきましょう。
医師の円満退職は「退職理由」が肝
医師の退職は引き留めにあうことが多い
優秀な医師ほど病院は強く引き留めます。代わりの医師が見つかるまで勤務を続けて欲しいと頼まれるケースや、給与や勤務体制の改善提案が行われるケース、使命感や罪悪感を盾に情緒的に訴えられるケースが代表的です。医師の偏在などで後任者の採用が難しい地域では、長期的な退職時期の譲歩を求められることもあります。
思わぬところで足止めされないよう、「やむを得ない退職理由」と共に、転職先への入職日のような「決定事項」を伝えるのが引き止めを回避するための鉄則です。人間関係や待遇面への不満などネガティブな理由は、病院側から改善案を出されると断りにくくなるので避けたほうがよいでしょう。
強い引き留めによって気持ちの揺らぎを見せたり閉口したりすると、「しばらく考えてまた返事がほしい」と二次・三次の面談に持ち越され、タイミングを逸脱する可能性もあります。退職の意思表明をする際は、上司が引き留めを試みると想定し、あらかじめ以下のような回答を用意しておくと良いでしょう。
引き留めを回避できる退職理由とは
引き留めを回避できる退職理由には、「やむを得ない」と了承を得やすい要素が含まれている、または現在の勤務先では改善が難しいという共通点があります。
これらの理由に、「家族からの同意を得ている」「すでに内定をもらっている」「思い付きではなく熟考した結果である」といった内容を加えると、さらに説得力が高まります。
引き留めを回避しやすい退職理由例
- 結婚や親との同居に伴い引っ越す必要がある
- 育児や介護が必要になり、現在の働き方を継続できない
- 知識を広げるために、今の病院にはない診療科に転科したい
- 新規開業する、または実家の事業を継承する
- この病院では取得できない専門医の資格取得を目指したい
- より多くの臨床経験を積める環境で経験を積みたい
- 大学病院からクリニックに転職したい
- クリニックから大学病院に転職して専門的な医療技術を身に付けたい
- 新しい環境に身を置くことで実力を試したい
- 通勤時間の長さが負担になってきたため、近場の病院へ転勤したい
一方、ネガティブな退職理由は、「考えが甘い」「逃げ口上である」「病院内で改善の余地がある」「どこへ行っても同じような状況は起こりうる」と思われ、上司からのより強い引き留めを受ける可能性があります。
引き留めを回避しにくい退職理由例
- 医局内のチームメンバーと反りが合わない
- 患者さまとのトラブルが多く、対応に自信がない
- 自分の働きに対する評価に納得がいかない
円満退職のために考えておきたいポイント
説得力のある退職理由を揺らがぬ気持ちで伝える
退職の理由によっては、強い引き留めに合って情緒的に揺らいだり、病院との折り合いがつかず話し合いが長引いたりする可能性もあります。事前に説得力のある退職理由を用意しておきましょう。
伝える順番や方法に配慮して挨拶をする
どの順番で誰に挨拶するか、しっかりとシミュレーションしておきましょう。相手の解釈で話が思わぬ方向に広がり、余計な対応に追われるといった事態を防げます。
職場が大人数の場合はさらに工夫が必要。個人的に親しい人へは感謝の気持ちを一筆したためる、顔見知り程度の人とは立ち話で簡単にコミュニケーションを取るなど、有限の時間をうまく使って挨拶を済ませましょう。
時間と労力を掛けるべき対象を見誤らない
転職時に注力すべきは、キャリアアップへ向けた準備です。退職意思を上司に伝える段階を長引かせ、時間を浪費しないようにしたいものです。時間と労力の使い道を冷静に見極め、適切な配分で事を進めるようにしましょう。
上司の引き留めに対する切り返しを用意しておく
上司は、退職の決意や信念を試すためにあえてさまざまな手段で引き留めを試みるかもしれません。退職希望者が述べる理由のパターンを熟知し、説得する方法を心得ているとも考えられます。引き留めの際に上司が述べるであろうコメントに対し、考えうる限りの切り返しを用意しておきましょう。
可能な根回しをできる限りしておく
病院内に退職の意向を支持してくれる人がいれば、上司に口添えしてもらえるよう依頼するのもひとつの手です。すべて一人で行うよりも、効果的に退職へ向かう手助けとなるでしょう。信頼関係を築けている人からの協力は、精神的に大きな支えとなります。
譲歩できるポイント・譲れない条件を整理しておく
退職が決まったあと、残りの期間に病院側から要求される条件をある程度受け入れるのは妥当な姿勢です。しかし、退職後のキャリアプランをスムーズに開始するために、対応できる範囲を定めておくことも重要です。どの程度までなら退職時期を調整できるか、これまで以上の残業を打診されたらどうするか、今まで断っていたオンコールを引き受けるかどうかなど、具体的に決めておきましょう。
プランBやプランCを用意し柔軟に対応する
退職の手続きがイメージしていた通りに進まなくても、柔軟に状況を捉える余裕が必要です。予想外の展開に対応できるよう、常に幾通りかの行動パターンを用意しておくのがベストです。経験者やプロのコンサルタントに相談すれば、一人で考えるよりも計画は盤石になります。
医師の円満退職のための注意点
退職の準備を始めるに入念な計画を立てる
退職後に充実した毎日や経済的安定を得るために、再考を重ねて将来設計をしてから行動しましょう。例えば1ヶ月前など、直前に退職の話や届け出を出すのは職場の混乱を招くので避けるべきです。
必要に応じて弁護士や司法書士、開業コンサルタントや転職アドバイザーなどを雇い、アドバイスを受けるのも有効な手立てです。自身の盲点となっている部分に考えが及び、トラブルに見舞われても軌道修正しやすくなるでしょう。
「なぜ退職するのか」「転職先では何がしたいのか」といった明確な将来設計をしておけば、病院側を納得させる材料にもなります。
最後まで節度のある言動を心掛ける
現在の職場に対して少なからず不満があった場合、その状況から抜け出せる解放感や次のステップへ進める高揚感で気持ちが浮き足立ちやすくなるもの。ただし、負担を掛ける今の現場に配慮し、謙虚な姿勢を貫くのが最低限のマナーです。
また、勤務先と転職先の両方に注意が分散されると普段ならしないようなミスをする確率が高まります。「退職するからといって気が緩んでいる」と厳しい視線を送られぬよう、日頃よりも一層注意深く業務をこなしましょう。
退職する旨を伝える相手は必要最小限に留める
退職に関する周りへの周知はごく慎重に進めたいもの。口の軽い同僚などにうっかり話してしまうと、不本意な噂を立てられて計画に横槍が入る要因にもなりかねません。できるだけ波風を立てないよう、退職日が近づいたら必要な相手に適切なタイミングで告知するようにしましょう。
上司に伝える退職理由は前向きな内容に徹し、最後まで円満な関係性を維持できるよう努めましょう。「いつまでに辞める」といった具体的な期限についても併せて言及しておくとトラブルを回避できます。
現職場の人脈も大事にする
医師が順調にキャリアを築くには、人脈づくりと情報収集を積極的に行う必要があります。退職を機に関係を切ってしまうのではなく、今のコミュニティも大切にしましょう。後々思いがけない場面で有効な情報を提供してもらえるかもしれません。
特に病院は、さまざまな職種の人が行き交う場所です。それぞれが複数の医療機関を出入りしており、院内では得られない情報を持っています。関係性を良好に保っておけば、転職先についてそれとなくリサーチするといった働きかけも容易になります。
自己ケアやメンタルヘルスも忘れない
退職の過程や新たな環境への適応においては、ストレスを感じる場面が少なからず出てくるものです。十分な睡眠やバランスの良い食事など、自己ケアにも気を配りましょう。
不安や葛藤は1人で抱え込まず、転職や開業の経験者またはプロのコンサルなど頼りになるメンターに相談してみるのが得策です。自分の発想とは違う角度からのアドバイスを受ければ、困難な状況でも解決に繋げやすくなるでしょう。
また、忘れてはならないのが家族の協力です。「家族に相談せず退職を決めてしまい、転職には成功したものの家族仲が悪くなってしまった」という例も実は意外と多いものです。職場にばかり意識が向きがちですが、家族を不安にさせないためにもできるだけ早く家庭内で話し合いをしておきましょう。公私ともに信頼関係を維持することで、キャリアアップに専念できる基盤が強固になります。
思わぬトラブルが起きた時の対処法を知っておく
退職の意向を取り合ってもらえない
まずは、「辞職を希望する者を職場が引き留める権利はない」と民法で定められているということを知っておきましょう。引き留めを回避するには、入職日などの明確なスケジュールを提示するのが有効です。
直属の上司が退職の意思を取り合ってくれない、話し合いの場を設けてくれないといったケースなら、上司の上役や人事部などに掛け合ってみるのも有効です。深刻な場合は、代理人を立てるなどの対処が効果的です。
いやがらせを受ける
退職までの僅かな出勤日数を考えれば、少々の居心地の悪さには目をつぶるのが賢明です。しかし、あからさまないやがらせを受けるなど対応が悪質な場合は、労働基準監督署や裁判所への相談も検討をしましょう。「発言を録音しておく」「残業時間を記録した勤務表のコピーを残しておく」など、物的証拠を残しておくと有利になります。
こうした一連の労力を鑑みて、対応するに値するか冷静に判断しましょう。
新しい職場について探りを入れられる
院内で噂が広まったり自分の評判が新しい職場へ伝わってしまったりといったトラブルの要因となるため、上司や同僚などから新しい職場を聞かれても、在籍中は伏せておくほうが無難です。
「今はまだ伝えられないが、改めて報告する」といった返答で濁しておくとよいでしょう。
今後のキャリアへの影響を理解する
医療業界は広いようで狭く、上司や教授同士がどこで繋がっているか分からないものです。退職時にトラブルがあると、転職先へ悪評を流されたり開業に支障が出たりといった事態に発展しかねません。万が一新しい職場で馴染めなかった場合や独立開業に失敗してしまった場合に、保険として「古巣に戻る」という選択肢が断たれるのも大きなリスクです。円満な関係を維持できるよう努めましょう。
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