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多様な働き方が注目される昨今、医師も副業について検討されたことがあるのではないでしょうか。
医師の知識やスキルを活かすことができ、すぐにでも始められる副業に「医師ライター」があります。医師がライターとして活動することには多くのメリットがありますが、実際に始めようとすると何から手をつければ良いのかわからなかったり、本当にやる意味があるのか、医師としての本業と両立できるのか、疑問や不安を持ったりすると思います。
この記事では、医師ライターとして活動する私自身の経験を含めて、医師ライターをおすすめする理由、医師ライターに求められる条件、医師ライターを始める方法や必要なスキルなどを紹介します。
執筆者:Dr.Ma
医師ライターとは
医師ライターとは、医師の立場で文章作成や記事執筆を行う人を指します。
医師は新聞や雑誌に健康情報を寄稿したり、論文を作成したりと、文章を書く機会の多い職業です。そのため、あえて「医師ライター」という言葉が使われる場面は、これまで多くはありませんでした。
しかし近年、ライター業を活発に行う医師が増えています。その理由は、医師が文章を寄せるメディアの種類が増えていることです。
とくにオウンドメディア(企業が管理する自社のwebサイト)や、クリニックのホームページなど、一般公開されているwebサイトに医療記事を掲載するケースが多くなり、医師が持つ専門知識の需要が増しているのです。
医師側にとっても、働き方改革の影響で今後収入が減少するのではないかと不安を感じている人も少なくないでしょう。専門知識を活かした多様な働き方の一つとして、医師ライターに注目が高まっていると言えます。
メディカルライターとの違い
医師ライターと似た言葉に、「メディカルライター」があります。メディカルライターという言葉は以前から知られており、確立された仕事です。
メディカルライターは、医療に関する専門的な文章作成を行います。主に薬事申請などに関わる文書、医薬論文の執筆・翻訳などです。作業量が非常に多く時間を要するため、医療関連の企業などに所属し、本業として行う人が多い職種です。
一方、この記事で扱う「医師ライター」は、専門的な医療情報を、知識を持たない一般の方にわかりやすく伝えるような記事を作成する人を指します。普段の診療で患者さんに説明している内容を記事にするようなイメージに近いため、抵抗なくできる仕事です。
両者の区別が曖昧になることもありますが、医師ライターとメディカルライターは別の職務と言えるでしょう。
医師がライターとして働くメリット
収入を補填できる
医師ライターとして働くメリットは、第一に収入の面が挙げられます。医師の働き方改革で今後、時間外労働時間の制限が本格的に始まることで、これまで時間外労働が多かった医師は収入が減少すると考えられます。ライター業を本業の診療行為と区別して行うことで、収入の減少分をある程度補うことができるでしょう。
ライティングをしている時間も労働時間ではありますが、作業量に応じて報酬を得る仕組みの案件が多いため、時間で制限されることはほぼ無いと考えられます(ただし、所属先への確認が必要です)。
そのほか、留学や大学院進学、産休など、何らかの理由で臨床に出られなくなった際の収入の補填にも適する仕事ではないでしょうか。
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知識の習得や定着につながる
とくに一般の方向けのライティングでは、専門的な医療情報を平易な言葉に変換し、文章にします。これは自分自身のためにもなると感じています。文章にすることで情報が整理され、知識が自分自身にも定着することが期待できるためです。
年次や経験の浅い医師は、このメリットをより感じやすいかもしれません。ベテランの医師の場合は、日常診療で接している疾患について今さら基本事項を見直す必要はありませんが、接する機会の少ない疾患や、専門外の領域について勉強し直す良い機会になります。
社会に情報を提供できる
Webサイト上には、以前ほどではないにしても、正確な内容と思えない医療記事がしばしば存在します。医師として持っている正しい知識を一般の方へ広く届けることができるのも、医師ライターならではの醍醐味と言えるでしょう。
書くことが好きであれば趣味をする感覚で仕事ができるので、それもメリットと言えるかもしれません。
医師がライターとして働くデメリット
このようなメリットがある一方、医師ライターとして働く上でのデメリットは、時間を取られることです。医師ライターはクライアントから発注を受けて作業を行いますが、納品には締め切りが設けられています。本業が忙しいから先延ばしにする、ということはできません。
これを聞くと、「ライターなんかやる時間はないよ」と思う医師も多いかもしれません。しかし、ライティングはまとまった時間が取れなくても、ちょっとした空き時間で進めることができます。通勤時間・昼休みなどのスキマ時間や、当直待機中の時間などを有効活用できるのです。私自身も、ライターになってから時間の使い方を意識してみると、思った以上に空き時間があることに気が付きました。
また、本名を出して作業を行う場合、記事の内容によっては本業にネガティブな影響を与える可能性もあります。誰でも見られる記事を作成する場合はとくに、掲載する情報には慎重になった方が良いでしょう。こうした懸念から、匿名やペンネームで活動している医師ライターも多いようです。
とはいえ、なりすまし医師による活動がしばしば社会問題になることから、クライアントから本人確認や医師であることの確認を求められる場合があります。クライアントとは事前に意思疎通を図り、記事上で公開するプロフィール情報の程度などを確認しておく必要があるでしょう。
企業に個人情報を伝えることに不安を感じる人もいるかもしれませんが、こうしたコミュニケーションを図れるクライアントかどうか、事前に確認しておくことは重要です。本人確認や個人情報管理などをきちんと行っているクライアントであれば、業務自体も安心して進めやすいと言えます。
医師ライターに必要な条件
医師ライターを行う前提として、所属先が副業としてライター業を許可していることが必要です。所属先によっては届け出が求められることもあり、必要な書類や条件を必ず確認しましょう。
加えて、ライターはクライアントから発注を受けて作業を進めるため、良好なコミュニケーションを図ることも重要です。適切な言葉遣いや締め切りを守ることなど、一社会人として恥ずかしくない行動を取れることも前提となるでしょう。
これらをクリアできれば、ライターを名乗る上で必要な資格はなく、いつでも始めることができます。
ただし、医師ライターとして継続的に仕事をこなしていくには、以下の2点が重要になると考えています。ライティングを行う理由を明確にする
「思ったより空き時間がある」とはいえ、忙しい日常業務の合間にライティングの時間を作ることは簡単ではありません。何のためにライティングを行うのか、メリットとデメリットを把握しつつ、自分が納得できる理由を明確にしておくことが、質の高いライティング業務を継続していく上で必要になってきます(後述)。
医師ライターに求められるスキルを身に付ける
情報収集力
医師として専門知識は身に付けているとはいえ、詳細やエビデンスの確認は必要不可欠です。また、医療は日進月歩であるため、最新の情報を提供できるよう、常に情報をアップデートする必要があります。
文章作成力
多くの医師は学生時代からの勉強やカルテ作成、論文執筆などで、多様な文章作成の経験を有しており、基本的なスキルは身に付いていると思います。ただし、webライティングでは「リード文を書く」「ユーザーを意識して書く」「離脱されない工夫をする」など、紙媒体とは若干異なるスキルが求められます。
SEOの知識
SEOとは、Search Engine Optimizationの略で、検索エンジンで上位に表示されるよう対策することを言います。Webライティングの場合、多くのクライアントはSEOのために医療記事を作成し、自社(クリニックなど)のwebサイトが表示されやすくなることを目指しています。医師ライターが作成する医療記事も、クライアントの目的や求める成果を意識して作成する必要があります。
医師ライターになるには
それでは、医師ライターになるには何から始めれば良いのかを見ていきましょう。
必要な道具
医師ライターを始める上で必要なのは、文章を作成するためのツールとインターネット環境です。文章作成はパソコンで行うのが一般的ですが、スマホやタブレットなどでも可能です。最近は音声入力の精度が向上しており、作業効率が上がっています。
情報収集はインターネットからの情報で事足りる場合も多いですが、専門性が高い案件では情報が足りないことがあります。できれば文献へアクセスする方法を確保しておくと良いでしょう。私はPubmedや医中誌など一般的な文献検索ツールのほか、多くのフルテキストを提供している「メディカルオンライン」を利用しています。
メディカルオンライン
仕事の受注方法と単価・必要な作業時間
医師ライターの業務は、仕事を受注することから始まります。受注には以下のような方法があります。
- クラウドソーシングサービスを利用する
- ライティング会社などにライターとして登録し、仕事の紹介を受ける
- クライアントへ営業し、直接契約を取る など
報酬は案件ごとに文字数で決められることが多く、医師ライターが担当する案件はその専門性の高さから、比較的単価が高くなりやすいようです。相場は文字単価2~3円程度のこともあれば10~15円以上とされることもあり、案件の内容やライター側のスキルなどによって、大きな開きがあります。
分量は、2,000~4,000文字程度であることが多いように思います。慣れないうちは2,000文字の文章を作成するのに1日がかりになることもありますが、慣れとスキル向上によって短縮していけます。
なお、ライティングによる報酬は「執筆料」となるため、源泉徴収税がかかります。クライアントや案件によりますが、基本的には毎回の支払い時に、源泉徴収税が差し引かれた金額が振り込まれますので、その点あらかじめ把握しておいた方が良いでしょう。この源泉徴収税は、年間で払い過ぎている場合は確定申告をすることで、戻ってくる場合があります。
源泉徴収が必要な報酬・料金等とは|国税庁
医師ライターを続けるには
医師ライターを始めるなら、長く続けられるようにしたいものです。続けていくと作業に慣れて効率が上がるとともに、取引先が増えてやりがいも高まるからです。
しかし、ライティングで得られる報酬は先述の通り、必ずしも割の良い仕事とは言えません。とくに初めのうちは単価も安く(0.5円/文字などの案件もよくあります)、苦労が報われない感覚があると思います。
モチベーションをどう維持するかが課題になりやすいため、ライター業を行う理由を明確にし、自身で適宜再確認していく必要があると思います。作業に慣れて余裕が出てくれば、自分にとって意義のある仕事や、やりがいのある仕事を選ぶこともできるようになり、続けていきやすくなるのではないでしょうか。
監修やアドバイザーという選択肢も
長文を作成するほどの時間が取れない、文章を書くのがそれほど得意ではないという人も、医療監修やアドバイザーという形で文章作成に関わることができます。すでにできあがった文章に対して、医学的な正確性・妥当性を意見したり、内容を調整したりする業務です。一から作成する手間がないため、コスパが高いと言えるかもしれません。
ただし、監修やアドバイザーの場合、医師としてのネームバリューや肩書きが求められているため、本名の提示を条件とする案件が多くなります。本名を使ってこうした活動をすることは、自分自身が目指したいキャリアによって、メリットにもデメリットにもなり得ます。医師としてキャリアをどう形成していきたいのかをよく考えて選択する必要があるでしょう。
まとめ
この記事では医師ライターの仕事について紹介しました。私自身はもともと特別なスキルや知識があったわけではありませんが、現在まで300件を超える案件を担当させていただいています。
専門外の領域や、医療情勢について勉強の機会があることが今のモチベーションになっています。医師ライターに興味がある方は、案件探しから始めてみてはいかがでしょうか。
執筆者:Dr.Ma
2006年に医師免許、2016年に医学博士を取得。大学院時代も含めて一貫して臨床に従事した。現在も整形外科専門医として急性期病院で年間150件の手術を執刀する。知識が専門領域に偏ることを実感し、医学知識と医療情勢の学び直し、リスキリングを目的に医療記事執筆を開始した。これまでに執筆した医療記事は300を超える。
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