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世間では、医師は離婚しやすい職業と思われることも多いようですが、医師の皆さんの実感としてはいかがでしょうか。この記事では、医師の離婚率や離婚の理由、離婚を回避するためにできることなどを考察します。
執筆者:Dr.SoS
日本人全体の離婚率と医師の離婚率
「離婚率」という指標は、統計学においては「人口1,000人当たりの離婚件数」を表します。厚生労働省の「人口動態調査」で毎年その数値が示されており、2022年は1.47でした。
ただ、一般に「離婚率」と言われて想起するのは「結婚した夫婦が離婚する確率」ではないでしょうか。この記事では、こちらの意味で「離婚率」という言葉を使っていきます。
日本人全体の離婚率
医師の離婚率を見る前に、日本人全体の離婚率を見ていきましょう。
「結婚した夫婦の3組に1組は離婚する」と聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。近年の年間婚姻件数が60万件ほど、離婚件数が20万件ほどであったことから、このような表現が使われていると考えられます(2022年は婚姻50.5万件、離婚17.9万件)。
しかし、これをもって「離婚率が33%である」と言えるわけではありません。というのも、離婚件数は結婚したばかりの夫婦から、結婚して数十年経過した夫婦まで含んでいるためです。
日本では少子高齢化が進み、若年者の人口が減少傾向にあります。30〜34歳の人口は約640万人、45〜49歳は約900万人、50〜54歳は約960万人と、40歳前後を境に人口分布の差がみられます*1。結婚適齢期を迎えている人口は少ない一方、離婚件数には若年人口が多かった時代に結婚した夫婦の離婚も含まれるため、「近年結婚した夫婦の3組に1組が離婚する」と言うのはやや過大な見積もりではないでしょうか。
男女共同参画白書 令和4年版 第1節 家族の姿の変化・人生の多様化|男女共同参画局
令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況|厚生労働省
人口推計―2023年(令和5年)11月報―|総務省(*1)
医師の離婚率
それでは、医師の離婚率はどれくらいなのでしょうか。結論としては、現時点で日本の医師を対象とした、比較的規模の大きな公的調査は実施されていないようです。
ただし「人口動態調査」から、離婚者の夫・妻の大まかな職業を読み取ることができます。2020年度の調査では、離婚した夫の職業として最も多いのは「専門的・技術的職業従事者」、離婚した妻の職業として最も多いのは「無職」(専業主婦)という結果でした。専門的・技術的職業従事者の中には医師も含まれるため、医師は離婚数の多い職業グループに含まれていると言えるでしょう。
アメリカでは、医師の離婚率をテーマとした、比較的規模の大きな研究*2があります。医師に加えて歯科医師、看護師、薬剤師、弁護士などの離婚率を調査した結果、医師48,881人(男性68.3%/女性31.7%)の離婚率は24.3%でした。この数値は一見高そうですが、看護師の33.0%や、その他職業(非医療従事者)の35.0%と比べると、低い数値です。つまりアメリカにおいては、医師は離婚率が高い職業とは言えないことがわかります。
人口動態調査 人口動態職業・産業別統計 離婚(2020年度)|政府統計の総合窓口 e-Stat
Dan P Ly,et al.:Divorce among physicians and other healthcare professionals in the United States: analysis of census survey data.BMJ 350,2015(*2)
医師の離婚に関係する理由
一般的な離婚の理由として、男女ともに最も大きな理由は「性格が合わないこと」(性格の不一致)とされています。これとは別に、医師ならではの理由としては、大きく以下の4つがあると推測されます。
仕事の多忙さ・不規則さ
医業という仕事の特殊性から、医師は長時間労働や夜間の呼び出し、休日出勤などが常態化している職業です。そのため仕事と家庭の両立が難しく、夫婦関係が悪化するケースは少なくないでしょう。
夫婦ともに医師や医療従事者であれば、医療業界の不規則な労働体系に理解が得られやすいでしょうが、そうでない場合は理解が得られにくい場合も多いと言えます。
周囲からのプレッシャー
医師は社会的地位が高い職業とされており、周囲から結婚や家庭生活、子どもの教育などに対して高い期待を寄せられるケースが散見されます。「両親とも医師、あるいは家族代々が医師で病院を世襲経営しており、子どもも医師になってもらわないと困る」といった事例はしばしば耳にする話です。
夫婦の一方、あるいは双方がこのようなプレッシャーに耐えられず、離婚に至ってしまう場合があります。
浮気問題
離婚に至る理由としてわかりやすいのが、不倫・浮気の問題です。
医師は男性の割合が高いですが、医療従事者の代表格である看護師は、90%以上を女性が占めています。看護師以外にも、医療現場は女性スタッフの割合が高い傾向があるため、職場での不倫関係を理由に離婚に至ってしまうケースがみられます。
経済的自立
一般に「離婚したいができない」と悩む女性が抱える大きな理由に、経済的な事情が挙げられます。女性医師の平均年収はおよそ1,140万円*3。女性全体の平均年収約250万円*4と比較すると、かなり高額です。そのため女性医師は、経済的な問題で離婚に踏み切れないということは少なく、離婚のハードルが下がると推測できます。
結婚経験のある医師のうち、女性医師の離婚経験者が男性医師と比較して高いという先述の結果も、この仮説を支持するものと言えるでしょう。
令和4年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種|政府統計の統計窓口 e-Stat(*3)
「第1表:職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」より、女性医師の「きまって支給する現金給与額」×12+「年間賞与その他特別給与額」で算出
令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況 性別|厚生労働省(*4)医師が離婚を避けるには
先述したとおり、一般的な離婚理由として最も大きいのは「性格が合わないこと」(性格の不一致)とされています。
性格の不一致と言っても、結婚するくらいなので、最初からまったく合わないわけではないでしょう。夫婦としてともに生活し家庭を築いていく中で、生活習慣や金銭感覚、子どもの教育方針などのすれ違いが生じ、それを修復できなくなることで、離婚へと至るものと考えられます。
最初のすれ違いは小さなことから始まるわけなので、その時点で夫婦2人の時間を作って話し合い、夫婦共通のビジョンを持つことが、後の離婚という大きな決裂を避けるために必要です。
しかし、医師の場合は夜間・休日出勤なども多く、夫婦の時間を疎かにしがちです。夫婦で歩み寄るには、お互いが相手のために時間を取ることが大切ですが、多忙で休みが取れない、もしくは夫婦で休みを合わせられない環境では、時間を確保することも難しいでしょう。
長時間労働や休日労働の是正、育児休業や介護休業の取得、時短勤務など、多様な働き方を実現することが、離婚を避けるために必要です。
2024年度からは「医師の働き方改革」がスタートし、医師の過重労働も現在より改善していくことが期待されています。とはいえ改革には時間がかかり、すぐに労働環境が改善するというわけではありません。働き方は個人の努力で変えられる面もあるため、今の生活を変えるために少しでもできることはないか、考えてみることが必要です。当直や待機業務が少ない勤務先へ転職することも、選択肢の一つとなり得るでしょう。
まとめ
今回は医師の離婚率や、離婚の理由について考察してきました。よほど特殊な例を除けば、離婚することを望んで結婚することはないでしょう。結婚したころはうまくいくと考えていた夫婦関係がすれ違い、離婚へ至ってしまうことを避けるには、夫婦2人で時間を作り、よく話し合って同じ方向を向いて進んでいくことが大切です。
そのためにはできる範囲で働き方を見直し、仕事と家庭の両立がしやすくなるような環境を構築することが望ましいです。医師の働き方改革をきっかけに、今後のキャリアやワークライフバランスについて考えてみてはいかがでしょうか。
執筆者:Dr.SoS
皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。
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