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救急科は、院内外で突発的に発生した外傷や急病による患者さまに対して、診療科の垣根なく救命処置や集中治療を実施します。病状と重症度に応じて、他の診療科と連携をとりながら対応を進めることも珍しいことではありません。
また、入院患者の術後管理や他の診療科の重症患者受け入れ、災害発生時の計画策定を含む危機管理など、対応を求められる症例が多岐にわたるのも特徴と言えるでしょう。
本記事では、救急医の平均年収と主な仕事内容、仕事のやりがいについてご紹介します。
救急医の平均年収
全診療科での医師の平均年収は1,596万円。これに対して、救急科の平均年収は、1,546万円です(※1)。地域別にみると、救急医の平均年収が高いのは愛媛県・高知県・徳島県で、同額の1,950万円。それに奈良県の1,900万円が続きます。
※1.2020年10月時点のドクタービジョン掲載求人をもとに平均値を算出しています
全国の救急医の年収分布は、独立行政法人労働政策研究・研修機構『勤務医の就労実態と意識に関する調査』に掲載されている主たる勤務先の年収額の資料を読むと、おおよその動向をつかめます。これによると、年収300万円未満は0.0%、300万~500万円未満は6.3%、500万~700万円未満は12.5%、700万~1,000万円未満は18.8%、1,000万~1,500万円未満は21.9%、1,500万~2,000万円未満は25.0%、2,000万円以上は15.6%。このアンケートで年収500万円未満は10%以下、1,000万円以上と回答した医師は62.5%にのぼる計算です。
救急医の医師数と医師全体における割合、構成割合(男女比)、年齢層については、厚生労働省『令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』で調査結果が公表されています。
この調査によると、2020年末時点で医療施設に従事する医師数は323,700人。このうち救急科に所属する医師は3,950名で、医師全体の1.2%。構成割合(男女比)はというと、男性1.3%、女性0.8%で男性医師のほうが多いことがわかります。平均年齢は、医師全体が49.9歳に対して救急医全体は41.8歳で全体平均よりも若手が多い診療科と言えるでしょう。
救急医の仕事内容・働き方
日本の救急医療の歴史は、高度成長期に多発した自動車事故での高エネルギー外傷や、熱湯を浴びたことによる重度熱傷の救命率向上の歩みでもあります。そのため救急診療では、救急患者に対して診療科の隔たりなく、正確な診断と迅速かつ適切な処置が求められます。一昔前までは、救急診療の世界に入ると他の診療科の先輩医師から「救急のどの分野を専門にするのか」と質問されるようなこともあったようです。
本記事では、専門性に主眼を置いて以下3点を解説します。
病院前救急医療と災害医療
病院前救急医療は、救急車あるいは医療機関が有するドクターカーやドクターヘリに救急医が乗り込み、傷病者の発生現場で初期診療を行う仕事です。レントゲンの描出など院内なら即時可能な検査ができない状況下で、患者さんの病状と重症度を予測して処置に入ります。救命から治療までの一連の対応が求められることから、救急医としての手腕が試される現場といえるでしょう。
傷病者の場合は、救急救命士を含めた救急隊員が必要な応急処置を判断。適切な処置を行いながら搬送先の病院へと向かいます。一連の対応は当該地域のメディカルコントロール体制下で進められ、相互連携をより強固なものにするための仕組み作りも、病院の全救急医療に必要な業務です。
地震や津波による自然災害や多重事故・テロなどの人為災害があった際に実施される災害医療も、救急医が最前線で活躍する現場です。災害医療は先にご紹介した病院前救急医療の延長線上にあり、限られた医療資源を活用し、トリアージと必要最低限の治療による人命救助が求められます。
ER型救急
軽症から重症まで、様々な状態で搬送されてくる救急患者の受け入れと初期対応を実施します。前述の病院前救急医療と災害医療は現場で直接対応するのに対して、ER型救急は院内で対応するのが一般的です。診療プロセスも異なり、ER型救急は外来に来た救急患者の重症度と緊急度を見抜いて必要な処置を講じ、専門の診療科に引き継ぐことを主としています。
救急科専門医による専門的集中治療(重症外傷、熱傷、中毒、敗血症など)
救急科では、あらゆる症例を日々受け入れています。そのなかでも、重症外傷(交通事故、多発外傷など)、重度熱傷(広範囲熱傷)、急性中毒、敗血症、DIC(播種性血管内凝固症候群)、多臓器不全などは介入するタイミングが予後を大きく左右することからとくに緊急の対応が求められるものです。
救急科のやりがいは?
第一線で働く救急医にとってのやりがいの一つに、搬送受け入れ時から初期対応、ER、ICUへの移動、もしくは退院まで一貫して対応可能なことを挙げる医師もいます。
たとえば高齢者の場合、高齢化が進行する日本では、既往症を有する患者さんが救急搬送されて来るのは珍しいことではありません。そのため、放置できない疾患の有無を見極め、既往症があれば専門の診療科に取り次ぎ、協力し合いながら治療計画を統括することも、救急医には求められているのです。
また、救急医は悩み抜いた末の判断が患者さまの救命につながることなどにやりがいを感じるようです。一瞬の油断も許されない厳しい現場に立ち続ける救急科だからこそ、患者さまの回復を助けて自身の成長を実感した瞬間の喜びは、かけがえのないものでしょう。
救急医は激務なのに年収が低い?
「救急医は激務なのに年収が低い」という話を聞いたことがある方もいるでしょう。救急医は自身の勤務状況についてどのように感じているかは、先にご紹介した独立行政法人労働政策研究・研修機構の『勤務医の就労実態と意識に関する調査』から知ることができます。
同資料によると、職場で医師不足を感じたことがあると回答した救急医は77.8%、ほとんど感じないとの回答はありません。主たる勤務先の当直の有無と月間回数は、日直ありは91.8%で5回以上との回答は33.4%、宿直ありは94.4%で5回以上は63.9%。週あたりの平均労働時間は54.0時間で、医師全体平均時間の46.6時間を大幅に上回る結果となりました。とくに60時間以上勤務しているとの回答は41.7%にのぼります。80時間以上との回答も11.1%見られたことから、長時間勤務が恒常化していると言えるでしょう。興味深いのは、疲労感・睡眠不足感・健康不安を感じている割合です。
救急医の72.3%が疲労感を、63.9%が睡眠不足感と健康不安を感じていることがわかっています。給与と賃金の支給額に対する満足度も、やや厳しい現状にあります。医師全体では満足40.3%、不満足37.7%に対して、救急医の回答は満足36.1%、不満足55.5%となり、両者の割合が逆転しているのです。
これらは、救急医は全体数が少なく日当直を含めて長時間勤務が恒常化して疲弊しているにも関わらず、給与面に不満を感じている人が多いと言えるでしょう。
救急科には、初期臨床研修を終えたばかりの若手医師が多くいます。平日休日・昼夜問わず、救急搬送されてくる患者さまへの対応に気力や体力の限界を感じ、やがて転科する医師も一定数います。そのため、救急科の中堅やベテランは少なく、平均年収も低くなる傾向があるのです。
日本救急医学会・医師の働き方に関する特別委員会では、救急科の労働環境と待遇改善を目標とした働き方改革への対策として、労務管理徹底とタスクシフティング導入、地域を対象に救急医療資源の適正利用啓発などを推進しています。こうした動きが活性化すれば、救急科が抱えている業務量と給与水準の均衡は少しずつ改善していくでしょう。
転職時のチェックポイント
救急医が転職を検討する際に気をつけるべきポイントは、以下5点です。これから救急専門医を取得しようと考えている若手医師の方は、転職希望先が資格取得に必要な条件を備えているか確認しましょう。
症例数・手術数の確認
日本救急学会の認定する救急専門医取得には、座学の知識はもちろん実務経験も必須です。救急搬送応需率と手術実施件数は、転職希望先を絞り込む際の目安になるでしょう。
指導体制・教育体制
上司や先輩医師による指導・教育体制の充実度も指標です。専門医取得実績などから、転職希望先の教育体制の充実度を推察してもよいかもしれません。
担当業務内容(救急対応数、救急科の対応領域など)
病院前救急医療とER型救急では診療手順と求められるスキルは異なります。そのため、どちらの経験を積みたいのか、自身のキャリア形成も考慮しながらの検討が必要です。また、ドクターカーやドクターヘリを有している医療機関はかなり限定されることから、これらを有する先での勤務を希望する場合、希望エリアをより広く設定することが望ましいでしょう。
同僚医師のそれぞれの専門領域
救急医療をより円滑に実施するには、内科外科問わず幅広い対応ができる知識と経験が求められます。救急科は、実は他科から転科してくる医師が多い診療科でもあり、一緒に働く先生が脳神経外科や心臓血管外科出身だったということも珍しくありません。その職場にはどのような特色があるのか、どのような専門性を有する医師が在籍しているのか着目するのも、転職希望先を絞り込む上で重要な要素です。
他科との連携体制
近年、設立が増えている社会医療法人は、年間750件以上の時間外救急受入が設立の条件として課されています。こうした環境下では、ファーストタッチからのトリアージ、該当診療の医師との協議などが救急科に求められるようになるでしょう。また、得意とする領域や強い診療科などは、医療機関によって異なります。そのため、他の診療科の状況と関係性次第で救急科が担当する業務領域が変わる可能性には留意しましょう。
救急医の年収や働き方を知って計画的なキャリア形成を
緊急度と重症度に応じて、冷静な判断や柔軟な対応が求められる救急医療。「初期臨床研修時のローテーションで救急医療の現場にふれた」、「他の診療科で実務経験を積んで救急分野への理解が深まった」などをきっかけとして、救急医を目指す医師は多いです。
救急医として働きたいと考えている方は、キャリア形成を考えて譲れない条件を整理した上で進路を考えていきましょう。
ドクタービジョン編集部
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