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医学部の学生時代、講義にて多くの心電図所見を学んでいても、臨床現場でとまどう機会は少なくないと思います。実際、筆者も健康診断などに携わる医師から、心電図判読に関する問い合わせを受けることがしばしばあります。
この記事では「脚ブロック」の心電図判読のポイントについて、周辺知識や臨床的意義などとあわせて解説します。
刺激伝導系の基本
刺激伝導系とは、心臓が効率的に収縮し血液を全身に送り出すための電気信号を伝達する経路です。洞房結節(SA結節)から始まり、房室結節(AV結節)を経て、ヒス束、右脚、左脚に分かれます。
画像提供:stock.adobe.com
右脚で右心室に電気信号が伝わると、右心室が収縮します。左脚は左脚前枝(LAF)と左脚後枝(LPF)に分かれ、LAFは左心室前部、LPFは左心室後部に信号を伝達します。
解剖学的特徴として、LAFはLPFよりも長く、薄く、幅の狭い線維束です。また、LAFは左冠動脈の前下行枝(LAD)から血流供給を受けますが、LPFは左冠動脈の回旋枝や右冠動脈の房室枝・後下行枝など複数から血液供給を受けます。したがってLPFよりもLAFの方が、伝導障害が起こる頻度が高いと考えられています。
脚ブロックとは
脚ブロックとは、左脚または右脚の興奮伝導時間が延長、あるいは伝導が途絶した状態を言います。
心電図上では、QRS幅の延長が0.12秒以上(小マス3つ分)であるか否かによって、完全脚ブロックと不完全脚ブロックに分けられます。QRS幅が0.12秒以上の場合は完全ブロック、0.10秒以上~0.12秒未満のときは不完全ブロックと分類します。
診断においては、伝導の途絶が左右いずれの脚に生じたかにより、下記のように分類されます。
- 右脚ブロック(RBBB)
- 左脚前枝ブロック(LAFB)
- 左脚後枝ブロック(LPFB)
- 左脚ブロック(LBBB)
左脚ブロック(LBBB)はLAFとLPFの両者に伝導が伝わらない状態です。
脚ブロックを見たら
右脚ブロックの対象者は約1,000人に3人、左脚ブロックは約1,000人に1人と、医師にとっては目にすることが多い不整脈です。
一般的に無症状で発見されることが多く、自覚症状がない場合、大部分は経過観察で良いでしょう。ただし、中には器質的心疾患を合併し、心臓が効率的に血液を送り出せなくなる場合があり、治療対象となることがあります。この場合は見逃しが許されません。
脚ブロックの心電図判読のポイント
右脚ブロック(RBBB)
右脚ブロックは右心室への電気信号の伝導が遅れたり、途絶えたりする状態です。比較的良性であることが多く、右脚ブロック自体を治療することはありません(前述のとおり、器質的心疾患の存在が疑われる場合には追加検査が必要です)。
【右脚ブロックの心電図所見の例】
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【診断ポイント】
QRS幅 | 0.12秒以上に広がる。 |
---|---|
波形の形状 | V1誘導でrsR'(※)またはMパターンを示す。 |
S波 | 左側の誘導(Ⅰ・V5・V6など)でスラーあるいは結節を伴った幅の広いS波を示す。 |
ST-T変化 | V1~V3の右側胸部誘導で二次性ST-T変化を示す。 |
(※)振幅が0.5 mV未満のときは、小文字(q、r、s)を用いる。
左脚ブロック(LBBB)
左脚ブロックは左心室全体への電気信号の伝導が遅れたり、途絶えたりする状態です。しばしば心筋梗塞や心筋症などの重大な心疾患と関連するため、その場合は早急な診断と治療が必要です。
【左脚ブロックの心電図所見の例】
画像提供:stock.adobe.com
【診断ポイント】
QRS幅 | 0.12秒以上に広がる。 |
---|---|
Q波 | V5・V6で欠如する。 |
波形の形状 | Ⅰ・aVL・V6でMパターンの幅広いQRSがみられる。 |
S波 | V1~V3で幅広く深いS波があり、QS型またはrS型QRSである。 |
ST-T変化 | Ⅰ・aVL・V6で二次性ST-T変化を示す。 |
その他 | V1~V4 のST上昇、T波増高、V1~V3のQS型QRSなどの所見が認められることがある。 |
左脚ブロックは、右脚ブロックと比べて臨床的意義が大きいです。左脚の前枝と後枝が共に障害されるため、心筋障害を考える必要があります。初めて左脚ブロックが診断された場合は、器質的疾患の有無をしっかり検査し、治療が必要か否かを検討することが必要でしょう。
器質的疾患として、狭心症などの虚血性心疾患、心筋症、高血圧性心疾患などが考えられます。これらが見つかれば原疾患に対する治療を行いますが、以下のケースは緊急性を要することもあり注意が必要です。
- 胸部症状を伴う「新規」の左脚ブロック:ST上昇の急性心筋梗塞と同等の扱いが必要で、緊急を要します。
- 重症心不全(左室駆出率35%以下)が基礎疾患にある左脚ブロック:QRS幅が150 msec以上の左脚ブロックでは、心室間の同期障害により心不全のさらなる悪化が予想されるため、再同期療法(両室ペーシング:CRT)を検討する必要があります。
右脚ブロックと左脚ブロックの、簡易的な診断ポイントもご紹介します。
左脚前枝ブロック(LAFB)・左脚後枝ブロック(LPFB)
続いて、左脚前枝ブロック(LAFB)と左脚後枝ブロック(LPFB)について考えましょう。これらは軸変異に着目すると理解しやすいです。
解剖学上、LAF(左脚前枝)は左心室を上から覆うように、LPF(左脚後枝)は左心室を下から覆うように走行しています。したがって、LAFが伝導障害を起こした場合はLPFから、LPFが伝導障害を起こした場合はLAFから伝導が伝わることになり、QRS軸の方向が変わります。
つまり、LAFBでは高度の左軸偏位、LPFBでは高度の右軸偏位となるのです。
LAFBおよびLPFBは、2本ある左脚のうち1本のみに伝導障害が出ている状態です。したがって、左脚と右脚の間の伝導は正常な状態と比べると劣るものの、残存しています。そのためQRS幅の延長をきたすまで、心電図所見を認めないのが一般的です。
LAFB・LPFBにも"ブロック"という言葉が入っていますが、こうした点が左脚ブロックや右脚ブロックとの違いと言えるでしょう。
器質的心疾患がなければ病的意義はありませんので、経過観察で良いでしょう。なお、先述のとおりLPFはLAFと比べて障害をきたすことは少ないです。
【左脚前枝ブロック(LAFB)】
先述のとおり、LAFBは左心室前部への電気信号の伝導が遅れたり途絶えたりする状態で、心電図上では左軸偏位がみられます。
ⅠおよびaVL誘導で小さなQ波と高いR波(qR)、Ⅱ・Ⅲ・aVF誘導で小さなR波と深いS波(rS)が特徴です。
【左脚後枝ブロック(LPFB)】
LPFBは左心室後部への電気信号の伝導が遅れたり途絶えたりする状態で、心電図上では右軸偏位がみられます。ⅠおよびaVL誘導で小さなR波と深いS波(rS)、Ⅱ・Ⅲ・aVF誘導で小さなQ波と高いR波(qR)が特徴です。
LPFBもほかの心疾患との関連性が高いため、詳細な検査が推奨されます。
二枝ブロック・三枝ブロック
二枝ブロック(bifascicular block)
刺激伝導系において、2つの枝が障害された状態です。
主に以下の2つの組み合わせとなります。LPFの方が丈夫なため、LPFBの方がより臨床的に重視する必要があるでしょう。
【右脚ブロック(RBBB)+左脚前枝ブロック(LAFB)】
右脚ブロックと左軸偏位が現れ、ⅠおよびaVL誘導で小さなQ波と高いR波(qR)、Ⅱ・Ⅲ・aVF誘導で小さなR波と深いS波(rS)がみられます。
【右脚ブロック(RBBB)+左脚後枝ブロック(LPFB)】
右脚ブロックと右軸偏位が現れ、ⅠおよびaVL誘導で小さなR波と深いS波(rS)、Ⅱ・Ⅲ・aVF誘導で小さなQ波と高いR波(qR)がみられます。
二枝ブロックが認められる場合、残る1本の伝導路がいつ切れるかが心配ごとになりますが、予想がつかないのが現実です。切れた場合は完全房室ブロックに移行することもあり、体内式ペースメーカー治療が必要となります。そのため定期的なフォローアップが重要です。
三枝ブロック(trifascicular block)
刺激伝導系の3つの主要な枝(右脚、左脚前枝、左脚後枝)のすべてに伝導異常が認められ、刺激伝導系が著しく障害された状態です。
【診断ポイント】
- 右脚ブロック(RBBB)の所見
- 左脚前枝ブロック(LAFB)または左脚後枝ブロック(LPFB)の所見
- PR間隔の延長(不完全三枝ブロックの場合)
完全房室ブロックへの移行を常に念頭に置く必要があり、自覚症状がある場合は早期のペースメーカー植込み術が検討されることがあります。器質的疾患(心筋梗塞、心筋症、心不全など)が存在する可能性も高いため、早期の精査が必要です。
まとめ
脚ブロックの心電図のポイントと、診断と治療の基本事項について解説しました。脚ブロックは診療のみならず健診時にも目にすることが多い心電図所見です。脚ブロックというと、QRS延長と考えることが多いですが、当てはまらないこともあります。一般的には経過観察で良い所見ですが、緊急性を要する場合もあるので注意しましょう。
執筆者:cvmed
北海道大学医学部・同大学院医学研究科(循環病態内科学)卒業。循環器内科医師として大学病院をはじめ各地の総合病院に勤務した後、現在は大学で臨床医学を教えている。専門は循環器予防医学。医学博士。日本内科学会認定医、日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医の資格を有する。
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