高齢者総合機能評価(CGA)とは?21年ぶり新ガイドラインの概要・評価項目や診療報酬加算を解説

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医療知識

公開日:2024.09.27

高齢者総合機能評価(CGA)とは?21年ぶり新ガイドラインの概要・評価項目や診療報酬加算を解説

高齢者総合機能評価(CGA)とは?21年ぶり新ガイドラインの概要・評価項目や診療報酬加算を解説

高齢者診療で問題となるのは、主訴の元となる疾患だけではありません。背景にある疾患や併存症、認知機能、社会的背景など多くのことが要因となり、診療を難しくしています。多様な問題を明らかにする一つの流れが高齢者総合機能評価(CGA)です。

この記事では、2024年に実に21年ぶりに作成されたガイドラインにも触れながら、CGAについて解説します。

三田大介医師プロフィール写真

執筆者:三田 大介

リハビリテーション科医師

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高齢者総合機能評価(CGA)とは

高齢者総合機能評価(CGA:comprehensive geriatric assessment)とは、文字どおり"高齢者の機能を総合的に評価する"ことです。機能評価そのものだけでなく、そのプロセスも含みます。

患者さんが抱える疾患だけでなく、日常生活動作(ADL:activities of daily living)、認知機能、気分・意欲・生活の質(QOL)、療養環境や社会的背景などが評価項目に含まれます。

ADLは、移動・歩行・排泄などの基本的ADLと、買い物・食事の準備・服薬や金銭の管理などの手段的ADLに分けられます。

高齢者総合機能評価(CGA)の歴史

CGAの始まりは、イギリスの医師 Wallenの提案とされています。Wallenは"捨て置かれた患者"の状態について、医学的な評価だけでなく、ADLやコミュニケーションの観点からも評価を行いました。その結果を元に療養方針を調整し、症状の改善をもたらしました。

これは1935年ごろの話なので、CGAにはすでに100年近い歴史があると言えます。

その後、1984年にはアメリカの医師 Rubensteinが、CGAが患者の予後改善に寄与すると述べ、アメリカにもCGAの概念が広がるようになりました。

日本では、1990年に高知医科大学(当時)で取り入れられた臨床研究が、CGAが知られるきっかけになったと言われています。

高齢者総合機能評価(CGA)の重要性・目的

日本は少子高齢化社会であり、2023年の総人口に占める高齢者の割合は29.1%*に上っています。高齢者に対する医療やケアを考えることは、日本の医療における最優先課題の一つと言えます。

高齢者には複数の疾患や老年症候群・フレイルが存在するケースが多く、疾患による直接的な機能低下や、生活範囲が狭くなることによる副次的な機能低下も徐々に進みます。"元気"な状態に戻すことは難しく、QOLも下がっていくことは想像しやすいでしょう。

より問題になるのは、QOLの低下により、症状や機能がさらに低下する"悪循環"です。

CGAは、患者さんを多角的に把握し、介入を検討することで、この悪循環に陥らないようにする効果があると期待されています。

医師にとって身近な「CGAの考え方」の一つに、要介護認定の主治医意見書があります。主治医意見書は以下のような構成になっており、このあと紹介する「CGAの評価項目」と似ています。

  1. 傷病に関する意見
  2. 特別な医療
  3. 心身の状態に関する意見
  4. 生活機能とサービスに関する意見
  5. 特記すべき事項
出典:厚生労働省 第2回要介護認定情報・介護レセプト等情報の提供に関する有識者会議 (2018年7月)参考資料「主治医意見書様式」
https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/000331631.pdf(2024年9月27日閲覧)

高齢患者さんの主治医を務める医師であれば、すでにCGAの一部を実施していると言えるでしょう。

高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン

2024年6月、『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024』が発行されました。2003年に発行された『高齢者総合的機能評価ガイドライン』以来、CGAに関するガイドラインの発行は21年ぶりです。

2024年版ガイドライン(以下、ガイドライン)は、「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020」に則って作成され、クリニカル・クエスチョン(CQ)形式で構成されています。要素やツールの有用性各疾患に対するCGAの有用性関係職種によるCGAの有用性の3つのテーマで解説されており、とくに「ツール」は具体的な記載で実臨床にそのまま活用することが可能です。

疾患別では、高血圧、骨折、認知症、悪性腫瘍、手術など、多くの領域で遭遇するであろう疾患のCQが用意されています。

「関係職種によるCGAの有用性」とは、たとえば「高齢者の看護(看護部)においてCGAは有用か?」といったCQが該当します。職種や領域を問わず、多くの医療従事者が身近に感じやすい内容になっています。

高齢者総合機能評価(CGA)の実際

病院・介護施設で高齢者女性を笑顔で診察・問診する若い男性医師(かかりつけ医)

それでは、CGAの実際の内容について見ていきましょう。

高齢者総合機能評価(CGA)の対象

対象とする患者さんは、実は高齢者に限る必要はありません

介護保険法の対象に、特定疾病(老化に起因する疾病)を持つ40~65歳の人が含まれるように、総合的な機能評価で恩恵を受ける人は年齢によって限定されるべきではないからです。

高齢者総合機能評価(CGA)を実施するタイミング

CGAを実施するタイミングにも、決まりはありません。ガイドラインには以下のような記載があります。

担当医は初診時、入院時、退院前、病状の変化時など、日常的に実施してほしい

長寿医療研究開発費「高齢者総合機能評価(CGA)ガイドラインの作成研究」研究班ほか『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン』(南山堂,2024)p.Ⅹより引用

決まったタイミングで実施するのではなく、患者さんに変化があった際に継続的に実施することが重要と言えます。

高齢者総合機能評価(CGA)の評価項目

スクリーニング

ガイドラインでは、高齢者に対してCGAによるスクリーニングの実施が推奨されています。

スクリーニングに関するツールとして、「基本チェックリスト」や「CGA7」などがあります。

基本チェックリストは、自記式の調査票です。自身の生活や体の状態を振り返り、機能の低下を確認することができます。全部で25項目あり、以下の内容で構成されています(以下、掲載順)。

  • ADL
  • 運動機能
  • 栄養
  • 口腔機能
  • 閉じこもり
  • 認知症
  • うつ

CGA7は、短時間で簡便に実施できるスクリーニングツールです。下記の内容で1項目ずつ、計7項目で構成されています(以下、掲載順)。

  • 意欲
  • 認知機能
  • 手段的ADL
  • 認知機能
  • 基本的ADL
  • 情緒・気分

項目が少ないため短時間で実施することができ、問題のある項目が見つかれば追加評価につなげます。

ADL

ADLを評価する際は、基本的ADLと手段的ADLとで異なるツールを用います。

基本的ADLの評価ツールとして代表的なのは、Barthel Indexです。"できるADL"を評価するもので、食事、車椅子からベッドへの移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行、階段昇降、着替え、排便コントロール、排尿コントロールの10項目から構成されます。それぞれを2~4段階で評価し、100点満点で点数を付けます。

ほかに、FIM(functional independence measure)というツールもあります。こちらは"しているADL"を評価するもので、項目ごとの評価がやや難しい点が特徴です。

一方、手段的ADLの評価には、Lawtonの尺度老研式活動能力指標を用います。これらは評価項目が異なりますが、いずれも買い物、食事の準備、金銭管理、コミュニケーションなどを評価することができます。

認知機能

認知機能のスクリーニングに使われるツールには、MMSE(Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)、HDS-R(Hasegawa's Dementia Scale-Revised:改訂長谷川式認知症スケール)、MoCA-J(Japanese version of Montreal Cognitive Assessment)など、多くの種類があります。検査の対象となる患者さんや、医療従事者側の慣れなどを考慮して選択すると良いでしょう。

カットオフが設けられている合計点数に誰もが注目すると思いますが、どの項目がどのように減点されたかを考えると、障がい像がより明確になります。

気分・意欲・QOL

高齢者診療において、心理・精神的な評価も欠かせません。

「気分」の評価には老年期うつ病評価尺度(GDS15:geriatric depression scale 15)、「意欲」にはvitality index、QOLにはEQ5D(EuroQol 5 Dimension)やSF-6D(short form 6 dimension)などを使います。

社会的背景

ほかの項目と異なり、社会的背景は点数で評価できるツールがありません。要素が多岐にわたることや、どうしても定量化できない内容を伴うためです。

たとえば、「家族」という社会的背景を考えてみましょう。2人の高齢者が、それぞれ家族4人で暮らしているとします。一方の家族構成は子ども夫婦と孫1人で、もう一方は高齢の両親と配偶者だとすると、両者はどちらも4人家族とはいえ、家族による本人への影響が同じであるとは言えないでしょう。

仮に同じ家族構成であるとしても、関係性や勤務状況などで、家族背景はまた変わってきます。

社会的背景の評価には特定のツールを使うのではなく、家族や自宅環境、要介護認定、経済状況など、さまざまな情報を把握することが重要です。

高齢者総合機能評価(CGA)を臨床に取り入れるメリット

私たち医師にとっては、患者さんの予後(生命・機能)やQOLが改善させることができる点で、CGAは魅力的でしょう。

患者さんにとっては、より良い医療サービスにつながることによって、恩恵を受けることができます。

CGAを実施する病院にとっては、直接的な利益として「総合機能評価加算」(50点)を受けられるというメリットがあります。令和2年の診療報酬改定で、入退院支援加算の中に新設されたものです。

【算定要件】(医科医療機関)

別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関に入院している患者であって別に厚生労働大臣が定めるものに対して、当該患者の基本的な日常生活能力、認知機能、意欲等について統合的な評価を行った上で、結果を踏まえて入退院支援を行った場合に、統合機能評価加算として、50点を更に所定点数に加算する

日本病院会「令和2年度 診療報酬改定ポイント」p.30より引用
https://www.hospital.or.jp/site/document/file/1678589508.pdf(2024年9月27日閲覧)

つまり、CGAを実施し、それに応じた支援を行うことで、50点の診療報酬を請求できるという内容です。

50点と聞くと少なく感じるかもしれませんが、対象は「介護保険法施行令第2条各号に規定する特定疾病を有する40歳以上65歳未満のもの又は65歳以上の患者」、つまり介護保険認定の対象となる人なので、人数は多くなるでしょう。

算定するには、研修を受けた医師または歯科医師が1名以上いる必要があります。

加算という直接的なメリットでなくても、間接的な利益が見込める場合もあります。たとえば、CGAを早期に行うことで合併症リスクの低減につながるかもしれませんし、CGAを利用することでサービス調整などの地域連携が早い段階から実行できれば、入院期間の短縮にもつながるでしょう。

まとめ

CGAは、高齢者診療において重要で役に立つものです。患者さんの情報を総合的に集めて評価することで、高齢者特有の多彩な問題に立ち向かえる可能性があります。

評価項目が多く、時間がかかってしまうことも事実ですので、複数の職種、あるいは地域でそれぞれの役割を明確にしつつ、連携することが望まれます。CGAをうまく利用し、患者さんにとって良い治療とケアを提供できると良いですね。

三田 大介

執筆者:三田 大介

理学療法士から再受験し、現在はリハビリテーション科医師として病院勤務。より多くの人に正しい医療知識を届けたいとライター活動を開始。医師、理学療法士の両方の視点を活かしながら、企業などのオウンドメディアを中心に医療・健康に関する記事を執筆。


▶X(旧Twitter)|@sanda_igaku

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