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日露戦争、二度の世界大戦、阪神淡路大震災といった激動の時代を当時の住民とともに乗り越えてきた病院が神戸市にあります。神戸市兵庫区にある神戸百年記念病院は、1907年から110年以上にわたり、神戸の地域医療を支えてきました。
一時は赤字経営が続き病院の存続危機に陥ったものの、革新的な取り組みで再起を果たしました。多くの病院が経営難にあえぐコロナ禍においても緊急入院症例の増減率を全国7位に伸ばすなど、独自の経営で地域医療に貢献し続けています。病院が大切にしている理念や医師が働きやすい環境づくりなどについて、同院・理事長の田中岳史氏に伺いました。
神戸百年記念病院 理事長(医師):田中岳史 氏
順天堂大学医学部卒業後、同大学第2外科学講座に入局。同大学大学院卒業後はケンブリッジ大学へ留学し、消化器外科医としてのキャリアを積む。行徳総合病院院長などを経て2019年より現職。
神戸の地で110年以上。戦争や災害を乗り越え地域医療を支えてきた歴史ある病院
最初に、貴院の沿革について教えてください。
神戸百年記念病院は1907年に鐘淵紡績(かねがふちぼうせき)兵庫工場付属診療所としてスタートしました。鐘淵紡績はカネボウ株式会社(2008年に解散)の前身となった明治時代から続く企業で、当院はカネボウの企業病院として、110年以上にわたり従業員の健康サポート、そして神戸の地域医療に従事してきました。
とても長い歴史のある病院なのですね。
日露戦争や第一次、第二次世界大戦、そして阪神淡路大震災と、日本の歴史に残る戦争や災害の中でも、"神戸の急性期医療を担う病院"として医療を必要とする方々に向け、医療を提供してきました。2006年にはカネボウの企業病院としての役割を終え、医療法人社団として独立、翌年に「神戸百年記念病院」と名前を変えましたが、地域における当院の役割は今も昔も変わりません。
貴院は革新的な病院経営で注目を集めていますが、一時期は経営が思わしくなかった時期があったと伺っています。病院再生のためにどのようなことに取り組んできましたか。
私が2019年に理事長に就任した頃は、いわゆる赤字経営が続く厳しい状況でした。当時、当院にいた医師や看護師、スタッフには能力・思考・行動力の揃った優秀な職員が多くいたものの、病院全体としての目的や目標が定まっていなかったために漂流しているような状況でした。
そこで、スタッフ全員に病院の目標をしっかりと共有し、理解してもらうための取り組みを始めました。当院には「地域になくてはならない病院になる」という素晴らしい理念がもともとあり、職員達もその理念を知ってはいたものの、行動に起こせておらず形骸化していました。その理念を改めて理解し、全職員に浸透するように取り組んできました。結果、患者さまのため、地域のため、そして病院のために自分ができることを考えて行動するようになり、業績も改善し地域から信頼される病院へと生まれ変わることができました。
地域の信頼を可視化するのは難しいように思いますが、何か指標はあるのでしょうか。
一つは救急搬送受け入れ数です。救急車の来院台数は、2018年の月間120台から2021年4月には月間357台とおよそ3倍にアップしました。救急隊の方々は地域の医療事情を熟知していて、患者さまの病状などを診つつ私たちを信頼して依頼くださいます。救急搬送受け入れ数の増加は、救急隊という地域医療を支えるプロフェッショナルに認められつつあることの証左の一つではないか、と誇らしい気持ちです。
現場からの意見の吸い上げやKPIの共有で従業員全員のモチベーションを高める
お話を伺っていると、スタッフの方々はモチベーション高く、主体的に仕事をされている印象を受けました。スタッフのモチベーションを更に高めるためにどのような工夫をしていますか。
きちんと現場の意見をヒアリングする機会を設けること、全員にKPI(重要業績評価指標)の設定・共有をすること、設備投資の3つを大切にしています。
KPIを設定されているのですね。病院経営において医師などの現場のスタッフの方々にもKPIを設定・共有するのは、珍しいように思います。
「医師にもきちんと経営に参画してもらいたい」との思いからKPIを設定・共有するようにしています。自身も医師として長くやってきたのでわかるのですが、医師は気合と根性のある人が多いです。でも、それだけだとなかなか長続きしない。ですから、きちんと節目節目で数字として目標と成果を示すことで「ちゃんと目標達成ができている」と実感を持ってもらえるようにしています。医師ができるだけ長くやりがいをもって働ける、言わば「サステナビリティ」を重視していますね。
民間企業などで使われる経営手法を用いながら、医師が働きやすい環境づくりをされているのですね。先ほど挙げていただいた、現場へのヒアリングや設備投資についてはいかがですか。
ヒアリングについては、院内の委員会や医局会などで集めたダイレクトな意見を理事会で共有できるような仕組みを作っています。経営側と現場側の風通しのよさは当院の特徴の一つです。先生方も様々な意見を出してくれるので参考になります。
設備投資については、科目の垣根を超えた "センター化"に伴い、中期的視点で必要な設備であると判断すれば投資を惜しまないようにしています。最近では循環器病センターの開設に合わせてカテーテル検査室を新設しました。他にも、先生方に提案いただいたもので、病院にとってもベネフィットがあると判断したものは導入を進められるようにしています。
きちんとベネフィットを提示すれば、自分の意見を聞いてもらえる可能性があるのはモチベーションアップに繋がりそうですね。センター化のお話がありましたが、貴院がセンター化を推し進めている理由は何でしょうか。
急性期病院としてより専門的な症例に対応していくために、チーム医療をさらに重視していきたいとの思いがあるからです。医師や看護師、コメディカルのスタッフなどの職種、外科や内科といった診療科の垣根を超えて連携できるようになれば、スピーディーな対応が可能となります。実際に院内での成功事例がいくつも出ている段階なので、チーム医療をさらに強化していきたい考えです。
チーム医療が進むと医療の質も上がって、さらに地域から頼りにされる病院になりますね。
はい。実は、私たちには「2030年以降には、近畿圏では誰もが神戸百年記念病院の名前を知っているようにする」という夢があるんです。今は神戸市民の方の多くは、当院を知ってくださっているのですが、それを近畿圏、全国へと広げていきたいです。その実現のために「どんな人にも信頼され、満足してもらえる病院」にできるよう、日々こつこつと医療に向き合っています。
病院主催で文化祭を開催、スタッフ同士や市民との交流の場に
貴院で働く医師やスタッフの方々の雰囲気はいかがですか。
院内の委員会や分科会、チーム医療の現場など、他職種連携の場をなるべく増やしています。他にも「100年いきいきフェスタ」という当院主催の文化祭を2019年に企画・開催しました。地域のみなさんに当院を知ってもらい親しみをもってもらうことはもちろん、院内のスタッフ同士の交流が深まる機会としても非常に良いイベントだったと思います。普段あまり話さない他部署の人とも話せて、一緒に笑える。そうした交流が病院全体の一体感につながっていくので、今後も時期をみて継続していきたいです。
仕事以外でも交流の機会をもつことは、業務を行う上での円滑なコミュニケーションにも活きてきそうですね。入職したばかりの医師に対してはどのようなサポートを行っていますか。
定期的に面談を実施し、対話するようにしています。入職した先生にとっては今までと文化も仲間も患者さまも変わるわけですから、メンタル面のサポートを重視していますね。入職前と後でギャップがないか、あるとすればギャップを埋めるためにどうすればよいのか、きちんとフォローアップする体制を整えています。
環境が変わる中で、しっかりとサポートしてもらえると安心して働けますね。医師のスキルアップのために取り組んでいることはありますか。
積極的に学会への出席や発表が行えるよう金銭的・時間的サポートをしています。また、医師だけでなく他のスタッフも含めてスキルアップを目的とした様々な資格取得のサポートや研修を行っています。過去には日本医師会ACLS(二次救命処置)研修を修了した当院の医師が、他のスタッフに向けた救命処置研修をしてくれました。
病院全体で個々のスキルアップを後押しする仕組みを作っているのですね。
はい。個々のスキルアップとともに病院への貢献度もアップすることが、医療の質を高めることに繋がると思います。
「地域になくてはならない病院」を創っていける、ビジョンをもった医師を募集
田中理事長は、どのような方と一緒に働きたいですか。
明確なビジョンを持っている人です。ビジョンがあれば医療の仕事に対して真摯に、誇りをもって働けると思います。将来に対する自分の展望や希望、夢がある人は自ずと輝いていけるので、常に向上心をもって行動できる医師と一緒に仕事ができると嬉しいです。
病院と医師がお互いを高めあって、よい相乗効果が生まれる関係性が素敵だと思いました。最後に、この記事を読んでいる医師に向けてメッセージをお願いします。
神戸百年記念病院は急性期病院として地域に根ざした医療を110年以上続けてきました。これから先も急性期病院として走り続けるつもりです。「地域になくてはならない病院になる」という当院の理念に共感してくれる先生は全力でサポートします。そして20年後、30年後に「神戸百年記念病院で働けてよかった」と思えるような病院にしたいと思っています。
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