「SNSに抵抗があった」ほむほむ先生の考える、医師の情報発信について<小児科医・堀向健太先生>

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インタビュー 著名人

公開日:2022.04.05

「SNSに抵抗があった」ほむほむ先生の考える、医師の情報発信について<小児科医・堀向健太先生>

「SNSに抵抗があった」ほむほむ先生の考える、医師の情報発信について<小児科医・堀向健太先生>

SNSなどのメディアが発達し誰もが情報を発信できる現代では、医療情報や知識を広めようと、情報発信に勤しむ医師が増えています。

東京慈恵医科大学葛飾医療センター小児科医で小児アレルギー診療に携わり、SNSでは「ほむほむ先生」として情報を発信する堀向健太【ほりむかい けんた】先生は、ご自身の経験を踏まえ「無理をせず自分のペースで仕事をすることが大切」とおっしゃいます。SNSや執筆活動などさまざまな分野でご活躍中の堀向先生に、これまでのキャリア、仕事に対する考え方と向き合い方、マルチタスクをこなす上で大切にしていることや意識している点などを伺いました。

医師人生に大きな影響を与えた喘息治療とアレルギー診療との出会い

医師人生に大きな影響を与えた喘息治療とアレルギー診療との出会い

堀向先生はもともと小児科を志望されていたと伺いました。アレルギー治療を進めようとお考えになった経緯をお聞かせください。

子どもの頃は体が弱く、小児科に通う機会が多かったのですが、親身に診察する先生の姿を見て「将来はお医者さんになる」と決めていました。晴れて医学部を卒業し新生児科医になったものの、配属先は目が回るくらい忙しく、体を壊してしまったんです。新生児科医を続けるか悩んでいた矢先に出会ったのが、喘息治療でした。

若手医師時代に大変な思いをされていたのですね。ところで、どうして喘息治療に注目されたのですか?

画期的な薬が登場したことで、喘息治療は転換点を迎えていたからです。当時の上司がとても寛容な方で、「喘息外来をしてみないか」と背中を押され、喘息治療に携わることになりました。

その後治療を受けて良くなっていく患者さまを見て、より多くの選択肢を提供できるようにしたいと考え、今度はアレルギー外来を立ち上げたいと当時所属していた大学に相談し、開設に至りました

アレルギー診療との出会いは、堀向先生にとって大きな転換点だったのですね。転換点といえば、都内の医療機関への移籍も大きな出来事だと思うのですが、こちらの経緯もお聞かせください。

アレルギー診療を開始してから、スキルアップに対する不安を常に感じていました。ところが、知識やスキルを磨き専門医を取ろうにも、当時私のいた環境では諦めざるをえない状態だったんです。

どうしたものかと考えあぐねていたら、都内にある小児医療専門の医療機関の先生が講演会のため私のいる地方にいらっしゃることを知り、これはまたとないチャンスだと考え、講演後に直談判し東京行きを決めました

東京に来てからは念願だった専門医を取得し、アトピー性皮膚炎に関する研究発表、ブログによる論文紹介、寄稿など、診療以外の活動も少しずつ開始し現在に至ります。

どちらかというと、私は性格的にはあまり前に出るタイプではないと思います。そんな私が今このような働き方をできているのは、東京行きを決めたときのように目の前にやってきた「チャンスの神さま」に手を伸ばしてしっかり握り締めることができたからだと考えています。

「患者さまと主治医がより良い関係性を構築できるように」苦手意識を持っていたSNSを積極的に活用

堀向先生は診療以外の場面でもご活躍されています。これらにも注力されるようになった経緯を教えてください。

2016年にアレルギー診療に一石を投じる論文が発表されたことがきっかけです。内容を共有したい気持ちが芽生えブログを立ち上げたのですが、一日の訪問者数は数十人の状態が約半年続きました。ツイッターでつぶやき始めると徐々に反響を呼び、徐々に多くの方の目に触れるようになりました。

医学情報に関連した執筆活動はもう少し早い段階でお話をいただいていて、これまで250本近く書いています。

成り行きだった部分もあったのですね。SNSの活動は当初から積極的にされていたのですか?

SNSは何気ない発言などから炎上することも知っていたので、むしろ「炎上したくないから静かに活動しよう」と当初は考えていたくらいなんです。SNS上でコンタクトを取り気になる方に声をかけるようになったのも、アカウントを開設してしばらく経った頃でした。そう考えると、とても慎重に行動していると思います。

ブログや各種コラムの執筆活動で意識していることはありますか?

患者さまと医師が意思疎通するために、病気に関する基礎的な内容やその時期に話題になっているテーマを取り上げています

患者さまやご家族が病気や症状について基礎的な内容を知っていると、医師からの説明をより理解していただきやすくなりますし、医師としても患者さまが基礎的な内容を理解していればより詳細な説明をしやすくなります。

同時に、私が前面に出過ぎることのないよう常に注意しています。情報発信の目的は、あくまでも患者さまと主治医がより良い関係性を構築するためだからです。

他にも意識していることがありましたら、お聞かせください。

画面の向こう側にいるのは感情を持った生身の人間であると常に意識することと、礼儀正しい行動です。「これを読んだ方は、どんな気持ちになるだろう。どう考えるだろう。」と常に考えながら、発言していますね。

堀向先生のように、これから医療情報を積極的に発信していきたいと考えている医師に向けてアドバイスをいただけますか。

医学情報を取り扱う際は、出典を必ず書いて根拠を明示してください。なかなか骨の折れる作業ではありますが、普段から意識して行うことで慣れていくと思います。

知識も積極的にアップデートすると良いと思います。医学部生だった当時は最新だった知識も、時が経てばどんどん古くなります。取り上げたいテーマが決まったら、自分の知識が古いかもしれないという前提で改めて調べ直してみることをお勧めします。

良質なインプットの積み重ねが良質なアウトプットにつながる

良質なインプットの積み重ねが良質なアウトプットにつながる

患者さまを診療しながらSNSや執筆活動もするには、工夫も大切になると思います。堀向先生はどのようなことを意識していますか?

情報発信は、自分の引き出しの中に保存した内容を世に送り出す作業だと考えています。引き出しの中身が空っぽにならないために、情報のインプットはなるべく行うようにしています。

具体的には、どのようなことをされているのですか?

読みたい論文や調べたいことにすぐアクセスするため、管理ツールを使っています

論文を読むのは習慣であり趣味なので、気になる論文を見つけたら概要と一緒にメモし、時間がある時に取り出して、興味深い部分や患者さまとのやりとりで役立ちそうな部分を中心に読んでいます。漫画雑誌の気になる作品を読み始めるイメージですね。 その場で回答するのは難しい相談や質問を患者さまからいただいた場合も、管理ツールにメモを残し、後で回答内容をまとめます。患者さまに話すことを想定しながら整理するので、これもインプットの一種ですね。

管理ツールを活用してとりこぼしを防ぐことと、毎日コツコツ積み重ねていくことが大切なんですね。

すべて覚えているのは難しいですが、外部ストレージにデータを残しておけば後から検索できますからね。溜まってきたメモは体裁を整えた後、ブログや記事として公開して有効活用しています。

医師として働き続けるには、まずは自分自身が無理をしないこと

堀向先生が働く上で大切にしていることをお聞かせください。

まずは無理をしない、次に優先順位を決める、そして「しないこと」を選択することですね。

オーバーワークで体を壊した経験があるため、無理をしない働き方は特に大切にしています。体を壊しては元も子もありません。将来のキャリア形成にも関わってきます。

優先順位付けは、タスク整理と業務分散です。抱えているタスクを洗い出し、優先順位の高いものから着手します。タスクは常に一定量であることが理想ですので、手一杯なら周囲に任せられるものはお願いし、反対に自分に余裕がある時は周囲を手伝い、職場全体で協力しあっていくことを意識しています。

「しないこと」を選択するのも大切です。医師にとって最も大切なのは目の前の患者さまなので、優先順位が低いなら手をつけずにいることもあります。私にとって情報発信や執筆はあくまでもプラスアルファの活動で優先順位は低く、診療が忙しい時期には「活動しないこと」をあえて選択することもあります。

無茶せず一歩ずつ着実に歩んでいくことがゴールへの近道

無茶せず一歩ずつ着実に歩んでいくことがゴールへの近道

今まで大勢の患者さまを診てきたなかで、特に印象深い出来事をお聞かせください。

当時小学生のアトピー性皮膚炎の患者さまが自分の病気を自由研究のテーマに選び、内容をまとめたノートを見せてくれたことがあったんです。

内容がしっかりまとまっていることにも驚きましたし、最後のページに書かれていた「病気について知ることが、僕の心を強くしてくれたのだと思います」の一言に胸を打たれました。普段から病気について患者さまに共有し続けたことが実を結んだことと、患者さまの心を強くすることに繋がったことを実感でき、とても嬉しかったです。

病気やご自身の状態について患者さまに理解いただけるようになることは、今でも一番嬉しいですね。病状が安定した状態を患者さまが自力で維持でき、医師の治療が必要なくなる状態まで持っていくことが、最終的な理想であり目標ですね。

堀向先生は、今後どのようなキャリアを歩んでいきたいとお考えですか。

医師として活躍できる期間は限られていますので、無理をせずに医師人生を全うすることが目標です。

情報発信については、世代間の断絶を少しでも解消するために新聞などのオールドメディアでも発信したいと考えています。論文作成や執筆活動にも力を入れたいので、全体のバランスを意識しながら無理のないよう一つずつ手掛けていきたいですね。

最後にこの記事を読んでいる医師にメッセージをお願いします。

たとえ一歩でも歩み続けていれば確実に前進します。体を壊すことのないよう自分自身のことも大切にしながら、自分がやりたいこととゴールを見定め、現状から一歩踏み出し続けることを止めないでください

「チャンスの神さま」には前髪しかありません。ここぞというタイミングが来たら、前髪を掴む思いで手を伸ばしてください。

堀向 健太先生の写真

堀向 健太(ほりむかい けんた)先生

小児科医。医学博士。鳥取大学医学部医学科卒業。日本小児科学会 専門医・指導医。日本アレルギー学会 専門医・指導医・代議員・広報委員・啓発活動委員会委員。日本小児アレルギー学会 代議員・日本小児アレルギー学会・研究推進委員会委員・広報委員会委員。現在は東京慈恵医科大学葛飾医療センター小児科で助教を務める。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防に関する介入研究を発表。SNSでは、ほむほむとしてさまざまな情報発信を行う。著書に、「小児のギモンとエビデンス ほむほむ先生と考える 臨床の「なぜ?」「どうして?」」(じほう)「ほむほむ先生の小児アレルギー教室」(丸善出版)、「マンガでわかる! 子どものアトピー性皮膚炎のケア」(内外出版社)などがある。

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ドクタービジョン編集部

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