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近年、労働者の健康管理を戦略的に実践する「健康経営」に取り組む企業が増えています。
健康経営を推進するにあたって、重要な役割を担うのが産業医です。労働人口が減少していくなかで、医学的視点からの健康サポートは、労働者のモチベーションや生産性の向上に不可欠であることが知られてきています。
今回は、今後さらに活躍が期待される産業医になるための資格や求められるスキルについて、ご紹介します。
産業医とは?
産業医は、一般的な診療科の医師と比べてどのような点が異なるのでしょうか。産業医の役割について見てみましょう。
産業医の役割・職務内容
産業医とは、医学的な専門知識を活かして労働者の健康管理などについて指導・助言を行う医師を指します。ただし、診断や治療は行いません。
常時50人以上の労働者がいる事業場には、産業医の選任が義務付けられています。労働者の心身の健康を守る産業医は、常勤であれば週4~5日、非常勤であれば月1回ほど事業場を訪問します。
具体的な職務内容は、下記の通りです。
- 健康診断結果の確認・面接指導
- 健康相談
- ストレスチェック
- メンタルヘルスケア
- 職場の作業環境の確認
- 健康・衛生管理に関する教育
- 休職者・復職者との面談
- 感染症防止対策の提案 など
産業医が活躍できる場所
産業医が働くのは主に企業内です。医師として、病院以外の場所で活躍することができます。複数の企業を掛け持ちする場合は、多種多様な業界・業種のことを深く知るきっかけにもなり、視野を広げることもできるでしょう。
また、ベンチャーから大企業まで、規模や成長フェーズが異なる企業と関わることができるのは産業医の魅力のひとつでしょう。
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▼参考記事はコチラ
全国医師会産業医部会連絡協議会|日本医師会
健康経営とは|経済産業省
産業医になるために必要な要件は?
医師免許を持つだけでは、産業医にはなれません。ここでは産業医になるために必要な要件や産業医に求められるスキルについても解説します。
産業医になるための要件
産業医となるための要件は、医師であることに加えて"労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない"とされています(労働安全衛生法第13条第2項)。
さらに詳しい要件は、以下のとおりです。
労働安全衛生規則第十四条第2項 |
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労働安全衛生規則第十四条第2項より引用
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000032#Mp-At_14
一の「研修」とは、①日本医師会の産業医学基礎研修、②産業医科大学の産業医学基本講座が該当します。
産業医になるための方法
上述の要件のうち、これから産業医を目指す場合は、一・二・三が一般的な選択肢と言えます。それぞれについて具体的に解説していきます。
一-①.日本医師会の産業医学基礎研修を修了
日本医師会や都道府県医師会が実施する「産業医学基礎研修」で50単位以上を取得します。講義や実習、見学などを通して産業医について学びます。具体的な研修内容は以下のとおりです。
1)前期研修(取得単位数14単位以上)
入門的な研修で8項目それぞれの単位取得が必要
・総論 2単位
・健康管理 2単位
・メンタルヘルス対策 1単位
・健康保持増進 1単位
・作業環境管理 2単位
・作業管理 2単位
・有害業務管理 2単位
・産業医活動の実際 2単位
2)実地研修(取得単位数10単位以上)
主に職場巡視などの実地研修、作業環境測定実習などの実務的研修
3)後期研修(取得単位数26単位以上)
地域の特性を考慮した実務的、やや専門的、総括的な研修
単位取得後、認定産業医の資格申請が可能になります。基礎研修最終受講日から5年以内に1回限り申請が可能で、50単位終了後は出来るだけ速やかに申請することが推奨されています。
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▼参考資料はコチラ
日本医師会「認定産業医の手引き」(平成23年4月版)
一-②/二.産業医科大学の産業医学基礎講座を修了
産業医科大学の「産業医学基礎講座」では、講義やグループ別実習、個別指導などを通して、産業医の基礎から実戦まで学びます。産業医科大学(北九州市)で開催される2カ月コース、東京で開催される5カ月コースのほかに、必要な単位を6日間ほどで取得できる集中講座が存在します。
集中講座は産業医科大学では夏場に、東京では11月と2月に開催されています。2023年度の講座はいずれも抽選を実施しており、申込期間もそれぞれ異なります。詳細は産業医科大学の公式サイトでご確認ください。
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▼参考資料はコチラ
産業医科大学webサイト
三.「労働衛生コンサルタント」試験に保健衛生区分で合格
「労働衛生コンサルタント」は、事業場の衛生診断・指導を行うことができる国家資格です。労働衛生コンサルタント試験には「保険衛生」と「労働衛生工学」の2つの区分があり、このうち「保健衛生」区分に合格することで産業医の要件を満たすことが出来ます。
試験科目は以下の3種類です。
- 労働衛生一般 択一式
- 労働衛生関係法令 択一式
- 健康管理、労働衛生工学 記述式
なお、医師免許を有していて医師会や歯科医師会の「産業医学講習会」、産業医科大学の「産業医学基本講座」を修了している場合には、筆記試験は全科目免除となります。医師免許があってこれらを修了していない場合は、筆記試験のうち「労働衛生一般」と「健康管理」は免除となります。
◆◆◆
以上の3つの要件のほか、上述の「四」のとおり、大学で労働衛生の科目を担当した教授、准教授または常勤講師の経験がある場合なども、産業医になることが可能です。
専門の診療科は要件に含まれませんが、労働者のメンタルヘルスの問題が増えているため、精神科・心療内科医だと対応しやすいケースが多いようです。
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▼参考資料はコチラ
産業医になるには|産業医学振興財団
産業医に必要な「労働衛生」の知識とは?
産業医に必須と言える「労働衛生」は、作業環境の管理、作業管理、健康管理を柱とし、労働者の疾病予防や健康維持を包括的に考える分野です。
化学物質の有害性の把握から、VDT(PC、スマートフォンなど)作業の管理、熱中症予防、受動喫煙防止、セクハラ・マタハラ・パワハラ防止、メンタルヘルスケアなど、幅広い領域が対象となります。
労働衛生の知識だけではなく、知識を活かして実際に労働環境を改善する実践力も求められます。
産業医の報酬は?
ここでは気になる産業医の報酬について解説します。産業医は、非常勤(嘱託産業医)の割合が高く、ワークライフバランスを保ちながら掛け持ちをする人が多い傾向にあるようです。
月額報酬は主に事業場の従業員数によって決められ、地域や業務内容によっても変わりますが、報酬目安としては下記の通りです。
<非常勤の報酬目安(月額)> ・100人以下:5〜10万円程度 ・101〜500人:10〜15万円程度 ・501〜999人:15〜20万円程度
<常勤の報酬目安> 週5勤務:年間1,500〜2,000万円程度
有害物質を扱う事業場では、報酬が高く設定されます。また、ストレスチェックや予防接種の実施、指定された難病を持つ労働者の就労支援などを行った場合は、別途報酬が出ます。
産業医のやりがいやスキルアップ
次に、実際に産業医として働いたときのやりがいについても見ていきましょう。各診療科の専門医としての業務にどのように活かせるか、産業医としてスキルアップしていく方法についても解説します。
産業医のやりがい
臨床医は、一般的に病院で病気の人を診ますが、産業医は企業で健康な人と向き合います。病気になる前の未病の段階から介入できるのは、産業医だからこそです。労働者の病気を防ぎ、一人ひとりのパフォーマンスを高めることが業績向上につながり、大きなやりがいとなるでしょう。
産業医で培った傾聴スキルは各診療科に活かせる
産業医は診断・治療をしないからこそ、カウンセリングスキルやコミュニケーションスキルを伸ばせます。産業医として働くなかでとくに培える傾聴スキルは、各診療科の臨床業務でも活かせるはず。
企業内における健康相談では、相談者自身が体や心の不調に気づいていないケースもあります。その場合、一方的な指摘ではなく悩みの聞き方や気づきの与え方、言葉選びなどにも配慮が必要です。こうした産業医としての経験は、臨床の現場で必ず役立つでしょう。
産業医としてスキルアップする方法
各医師会や産業医科大学などでは、産業医資格取得後にさらに能力を磨けるスキルアップ研修が開催されています。オンラインで受けられる研修も増えており、「遠方で会場まで行きづらい」「育児との並行で忙しい」といった場合も参加しやすくなってきています。
研修テーマには、その時々で話題となっているトピックスが取り上げられることもあるので、情報のキャッチアップに上手く利用しましょう。また、産業医のコミュニティに入り、新しい情報が入ってきやすい環境づくりをしておくこともおすすめです。労働者のメンタルは社会情勢の変化にも左右されるため、能動的に情報を取りに行くことがスキルアップのコツです。
産業医のニーズは高まり、質も求められる時代へ
産業医は医学的な知識を活かして、労働者の健康や労働環境の改善などをサポートできるやりがいのある仕事です。最近では企業内における感染症拡大防止策や在宅勤務によるメンタルヘルスケアなど、産業医のニーズはより高まっており、社会的にも重要な役割を担っていくでしょう。
また、産業医は一般的な臨床医以上に、医学以外の幅広い知識が求められます。対患者さまだけではなく対企業とのやり取りも発生するため、一般常識やコミュニケーションスキルなど、社会人としてのクオリティを高めることも重要です。産業医の資格取得後も企業に選ばれ続けられるよう、積極的に学んでいきましょう。
ドクタービジョン編集部
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