新専門医制度とは?医師が押さえておくべきポイントを解説

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業界動向

公開日:2020.08.31
更新日:2023.07.26

新専門医制度とは?医師が押さえておくべきポイントを解説

新専門医制度とは?医師が押さえておくべきポイントを解説

医師としての質を高め、良質な医療が提供されることを目的として2018年4月から導入された「新専門医制度」。厚労省が定めた所定の初期臨床研修を終えた医師たちは、「専攻医」として指定された条件を備えた医療機関で修業を重ねていくことになります。

しかし、新専門医制度は仕組みが複雑であるため、いまひとつどのような制度なのか分からない医師も多いはず。そこで今回は、新専門医制度について抑えておくべきポイントを詳しく解説します。

新専門医制度とは?

新専門医制度とは、国民に広く良質な医療を提供し、育成される医師のキャリア形成支援も重視すべく2018年4月に導入された制度です。新専門医制度では、初期臨床研修が終了した医師は原則的に内科や外科など19領域の「基本領域」の専攻医となり、3年間所定の研修を受けて専門医資格を取得。さらにその分野に関連したより専門性の高い24領域の「サブスペシャルティ領域」の専門医資格を目指していきます。

それまでの「専門医」は、各学会が独自に審査基準を定め、取得の難易度には大きな差がありました。一方で、現在の医療広告ガイドラインでは、所属する医師の専門医資格を広告掲載することも可能であり、医療業界とは関係のない多くの患者さまにとっては「専門医=専門性が非常に高い医師」との認識がされがちだったのも事実です。厚生労働省は、すべての専門医に一定基準の難易度を設け、このような実際の状況と国民の認識の違いを埋めることで良質な医療を提供できると考え、長年にわたる検討を重ねた結果、新専門医制度導入がついに実現したのです。

新専門医制度ができた背景

専門医制度ができた背景イメージ

新専門医制度は「医師が一定以上のスキルを磨き、国民に良質な医療を平等に提供できる」ことを目的に導入された制度です。当初の予定から1年遅れの2018年4月から発足した制度ですが、このような制度がつくられた背景にはどのような問題があったのでしょうか?

医師の「質」の基準がバラバラ

これまで日本では、医師の専門性の高さや技術などを評価する基準として、各学会が独自の専門医制度を構築していました。多くの専門医資格は、所定の学会に5~7年ほど所属し、指定された症例や手術手技などを経験した後に、学会が行う筆記試験や口頭試問に合格することで付与されていました。しかし、資格取得の難易度は学会によって大きく異なり、試験を課さずにレポートのみを提出すればOKという専門医もあれば、極めて難しい筆記試験と口頭試問が課されるため合格率が60%を切るような専門医も......。また、各学会が自由に専門医資格を付与することができるため、これまでに100種類以上もの「専門医資格」が乱立した状態となっていました。

「専門医=優れた医師」という一般的な認識

現在の医療広告ガイドラインでは、医療機関に所属する医師の専門医資格は広告に掲載することが可能です。医療業界とは関係が深くない一般の方が、広告事項にもなっている専門医資格は「専門性が高く優れた医師」という認識を持つのは当然のこと......。決して取得難易度が高くない専門医資格であっても、「専門医」と広告されれば「よい治療を受けることができる」といった誤解を招くこともあったのです。このような専門医としての能力と一般の方の認識のギャップは、患者さまの受診行動に大きな影響を与え、適切な医療を受ける機会を奪ってしまうケースも少なくありませんでした。

地域・診療科による医師の偏在

現代医療の大きな問題点のひとつが、地域や診療科によって医師が偏在していることです。つまり、都市部では医師が過剰状態となっている医療機関もある一方、地方では深刻な医師不足で休診に追い込まれる医療機関も......。また、皮膚科や眼科などQOLを維持しやすい診療科は若い医師がどんどん入局するものの、産婦人科や外科などの多忙な勤務のうえ訴訟リスクの多い診療科は「割に合わない」と敬遠されがちな傾向もありました。

新専門医制度では、このような医師の偏在にも注目し、専攻医の募集人数を診療科によって制限したり、「地域枠」を設けることで地域医療に貢献する医師の研修プログラムを特別に組んだりするなど様々な取り組みがなされています。

新専門医制度により変わった「研修医の基準」と「採用」

では、初期臨床研修修了後の医師は新専門医制度が導入されたことに伴い、採用面や就活などにどのような変化が生じるのでしょうか?まず、新専門医制度が導入される以前の初期臨床研修修了後の医師は、大学医局に所属したり、医療機関で独自に募集する「後期研修医」に採用され、専門医を目指しながら3~5年ほど経験を積んでいくことになっていました。初期臨床研修を終えれば、医師として自分の意思に従い自由にその後の進路を決められたのです。

一方、新専門医制度では初期臨床研修を終えた医師は「専攻医」と呼ばれ、日本専門医機構が定める所定の医療機関で3年以上の研修を受ける必要があります。また、2020年度からは採用する専攻医数の上限「シーリング」が定められ、各専攻医は1つのみ医療機関を選んで専攻医育成プログラムに応募する仕組みになっています。複数のプログラムを同時に応募することはできず、不合格だった医師は二次募集に応募することに......。プログラムへの応募などその一切を取り仕切るのは日本専門医機構であり、応募が1件に限られた初期臨床研修においてのマッチング制度と同様の仕組みになっているのです。

また、日本専門医機構が指定する研修指定病院は、医師数、手術件数などに厳しい規定があり、大学病院などの限られた規模の病院のみとなっています。そのため、専攻医になる医師は初期臨床研修が修了する前から研修先を見学に行き、1か所に絞って試験を受けなければならないなど、負担も大きくなるとの声が上がっているのが現状です。

新専門医制度で専門医資格はどうなる?大きく変わった点を解説!

新専門医制度は、初期臨床研修を終えた医師の身分や就職活動に大きな変化をもたらします。また、専門医資格自体も大きく変わりました。どのような変化があるのか詳しく見てみましょう。

基本領域専門医

新専門医制度では、第一に以下の19領域の診療科のいずれかの専攻医として3年以上の研修を積むことが定められています。研修機関は日本専門医機構が指定した医療機関に限り、専攻医は一定の症例を経験し、筆記試験や口頭試問などに合格することで基本領域の専門医資格を得ることができるのです。また、新専門医制度導入前に取得した専門医資格に関しては、各学会で更新要件が定められているのでチェックしてみましょう。

<基本領域の診療科19>

1内科 2小児科 3皮膚科 4精神科 5外科 6整形外科 7産婦人科 8眼科 9耳鼻咽喉科 10泌尿器科 11脳神経外科 12放射線科 13麻酔科 14病理 15臨床検査 16救急科 17形成外科 18リハビリテーション科 19総合診療科

サブスペシャリティ領域専門医

基本領域専門医を取得した後は、それぞれの希望によって取得した専門医と関連が深くより専門性の高い領域の専門医を目指すことになります。サブスペシャルティとして認定される領域は以下の24に及び、たとえば内科専門医を取得した後にサブスペシャルティとして循環器や呼吸器の専門医を取得するという流れになります。

<サブスペシャルティ領域>※令和4年(2022年)4月1日現在の認定領域

■内科領域
消化器内科、循環器内科、呼吸器内科、血液内科、内分泌代謝・糖尿病内科、腎臓内科、肝臓内科、アレルギー、感染症、老年科、脳神経内科、膠原病・リウマチ内科、消化器内視鏡、腫瘍内科、糖尿病内科、内分泌代謝内科
■外科領域
消化器外科、呼吸器外科、心臓血管外科、小児外科、乳腺外科、内分泌外科
■放射線領域
放射線治療、放射線診断 (24診療科領域)

一方、このような専門医の「二階建て構造」は、研修期間が長くなることで修得したスキルを患者さまに還元するのが遅れることも問題視されてきました。それにともない、2021年度からは基本領域での経験症例とサブスペシャルティ領域での経験症例を重複カウントすることを可能とする「連動研修」が行われます。なお、連動研修が可能となるサブスペシャルティ領域は以下の15領域です。(2023年7月1日現在)

1.消化器内科 2.循環器内科 3.呼吸器内科 4.血液内科 5.内分泌代謝・糖尿病内科 6.腎臓内科 7.脳神経内科 8.膠原病・リウマチ内科 9.消化器外科 10.呼吸器外科 11.心臓血管外科 12.小児外科 13.乳腺外科 14.放射線診断 15.放射線治療

新専門医制度で研修医が抑えておくべき点は?

子供の診察イメージ

最後に、新専門医制度が本格的に発足して間もない今、研修医はどのようなポイントを押さえておくべきなのか見てみましょう。まず、上でも述べた通り、初期臨床研修が修了した医師は原則として日本専門医機構が指定する19の基本領域の専攻医として指定された医療機関で修業を積む必要があります。つまり、研修が修了した段階である程度は医師としての未来像が見えている必要があるということ。これまでのように、「医療機関の後期研修医として勤務しながらゆっくり専門科を決める......」というわけにはいかなくなるので、常に目的意識を持ち、将来を見据えて初期臨床研修にあたることが必須です。

また、シーリングの導入により、人気の高い医療機関・診療科の研修は倍率が高くなる可能性があります。初期臨床研修中は多忙な毎日ですが、そのなかから専攻医として勤務する医療機関の見学や試験をこなしていかなければなりません。できるだけ早い段階から準備をはじめましょう。

新専門医制度の今後の動向に注目しよう

新専門医制度は2018年に発足したばかりの新しい制度です。これまでの医師としての質が担保されずに乱立していた学会認定の専門医資格を見直し、国民に広く質の高い医療を提供できる医師を育成していくことを目的として導入されました。

基本的には初期臨床研修が修了したら、19にわたる基本領域のどれかを選択して専攻医となり、所定の研修を重ねていくことになります。しかし、この制度はまだはじまったばかり。毎年さまざまな改正点がありますので、研修医の方は情報収集を怠らず、将来を見据えた研修生活を送るよう心がけましょう。

ドクタービジョン編集部

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